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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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17/29

龍と人間爆弾01

 導師の仕事は一段落した。

 王から褒美ほうびをもらい、しばらく休むようにいわれたようだ。

 導師は研究室にこもっている。

 何をしているかきくと魔術の研究らしい。だが、それは日課のようなものらしい。

 導師は頭脳労働は苦ではない。だから、宮廷魔術師を続けられるようだ。

「導師。王から登城するように伝令がありました」

 昼食が終わった席でアナはいった。

「いつ行けばいい?」

 導師は鋭い目をしてアナにきいた。

「二日後です。手紙はこちらです」

 アナは手紙を差し出した。

「気を利かせて、食後に渡さなくてもいいぞ。それに重要な要件だ。もらったら、書斎に持ってくればいい」

「そうですね。申し訳ありません」

「気に病むな。わしは他の貴族と違うから問題ない」

「はい」

 アナは微笑んだ。

 導師は手紙の表を見てから、無作法にも食事用のナイフで封を切った。そして、手紙を取り出して目を通した。

 導師の顔は難しいものになった。

 僕はまた難題でも突きつけられたかと思った。

 しかし、導師は読み終わると中身を戻して席を立った。

「わしの書斎にはいいというまで来るな。もちろん、ノックもなしだ」

 導師は厳しい顔をしながらリビングから出ていった。

 僕はアナを見る。

 アナはわからないと首をかしげた。

 導師には休まる日はないようだ。


 登城の日になった。導師は王の謁見の日でもある。

 導師の機嫌は悪そうだ。いや、機嫌というより、戦いに行くような顔をしていた。

 導師を先頭に門をくぐって場内に入る。そして、謁見の間の控え室に入った。

 いつものことながら、なぜ導師は雑用係の僕を連れているのか理解できない。だが、導師の命令なので静かに控え室で待つだけだった。

 やがて、導師は王との謁見になった。

 僕とアナはイスに座って導師を見送るだけだった。

 十分ほど経過した頃だろう。扉が少し開いて貴族らしい男が出てきた。

「ジョージアナ・メレディス。中に入れ」

 男はいった。

 僕はアナが呼ばれるとは思いもしなかった。だが、アナはわかっていたのか「はい」と返事をして謁見の間に入っていった。

 一人で待つには緊張感がある。衛兵が扉のところに二人、僕の脇に一人、入ってきた扉に一人と立っている。その四人は微動だにせず立っている。その緊張感で安らぐことができない。

 しばらくすると、謁見の間の扉が開いた。

 出てきたのは導師でなく、先ほどの貴族の男だった。

「下男のシオン・ブフマイヤー。入れ」

 思ってもみない言葉に思わず驚いた。

「何をしている。早く入れ。王を待たせるな」

 僕はあわてて扉に駆け寄った。

「走るな。それと、王の前では片膝立ちだ。いいというまで顔を上げるな」

「はい」

 僕は返事をして歩いて扉の中に入った。

 赤いじゅうたんを歩く。その先には導師とアナが片ひざをついて顔を上げている。その先には数段上にしつらえた大きな椅子に王様が座っていた。

 王の周りには側近らしい人たちと衛兵が立っていた。

 僕は導師の側に来ると、隣に片ひざ着いて頭を下げた。

「シオン・ブフマイヤー。頭を上げろ」

 この場を仕切っているような男の声で顔を上げた。

「お前はシオン・ブフマイヤーで間違いがないか?」

 王の側にいる男はいった。

 男は宰相さいしょうと思われる。前世の記憶では総理大臣と同じような役職だ。国の政治のかじ取りをしている。それだけの威厳を感じた。

「はい」

 僕は短く答えた。

 僕は貴族ではない。だから、礼儀作法は知らない。ボロが出ないように前世の記憶から失礼がないように勤めるだけだった。

「それで、お前が先日の大規模魔術を作ったのか?」

 大規模魔術というとレールガンの話のようだ。

「いえ。作っていません」

「本当か?」

「はい」

 念押ししてくる理由がわからなかった。

「ベルルーティ侯爵。話が違うが?」

 宰相らしき男は脇に並んでいる男の一人にいった。

 ベルルーティ侯爵と呼ばれた男は一歩前に出ていた。

「こんな小さな子供より、助手をしていたジョージアナ・メレディスの言葉の方が信頼できます。また、自意識も芽生えていない子供ですよ。その証言を信じるんですか?」

 ベルルーティ侯爵は笑った。

 僕には不快な笑いだった。

「シオンよ。単刀直入にきく。先に実験が行われたコイルガンという魔術はお前の発想と聞いた。それは相違ないか?」

 宰相らしき男はいった。

「違います。僕は記憶を導師に伝えただけです」

 宰相は顔をしかめた。

「記憶とは何だ? 誰に教わったのだ?」

「学校です。魔術の基礎になる理論は教師から教わりました」

 宰相はますます顔をしかめた。

「まず、学校とはなんだ?」

「教育機関です。義務教育で子供の時から通わせられます」

「義務教育? 家庭教師みたいなものか?」

「いえ。国の法律で決まっている義務です。教師という仕事があり子供たちに読み書き計算など教えます」

「わが国にはそのようなものはない」

 宰相の言葉に僕は失敗したとわかった。だが、ウソはつけなかった。

「前世の記憶です」

「前世の記憶だと。信じられんな」

「はい。自分でも変だと思いますが、記憶があります」

「ふむ。それがあったとしよう。それで、コイルガンという魔術はお前の記憶からできたものか?」

「はい。前世の記憶を教える約束で買われました」

 笑い声が聞こえた。

 ベルルーティ侯爵の笑い声だった。

「やはり、盗用したていた。王よ。これでわかったでしょう?」

 ベルルーティ侯爵は勝ち誇ったようにいった。

「ベルルーティ侯爵よ。話をさえぎるな。まだ、話は終わっておらん」

 宰相はいった。

「いや、終わっている。もちろん、その魔術師もな」

 ベルルーティ侯爵の笑みは不快だった。

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