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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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異世界とコイルガン15

 観覧している貴族の中からメイドを連れて、おばさんがやって来た。

「何で死んでいるのよ。あなたが殺したのね」

「言いがかりはよして欲しいな。私の配慮を無視するからだ。初めての魔術だろ。思わぬ失敗があるのは当然でだろう?」

「だからって、殺すことないわ?」

「私がか? 言いがかりはよして欲しいな。それにじゃまするように指示したのはお前さんだ。そして、その結果がこれだ。殺したのはお前さんだよ。都合の良いことばかりいわないで欲しいな」

 おばさんは振るえると、手袋を脱いで導師に叩きつけた。

 決闘の申し込みだ。叩きつけられた方は受けなければいけない。

 しかし、導師は笑っていた。

 突然の決闘の申し込みに他の貴族がざわめいた。

「あの魔術師とできてるって本当だったようね。従者が一人死んでも何の損得もないのにね」

 貴族同士の会話が聞こえた。

 どうやらヒマつぶしの格好の的になったようだ。

「決闘は今すぐよ。こちらからはセバスが相手になるわ」

「おいおい。貴族同士の決闘だろう。お前が出なくてどうする」

「決闘なんて、ほこり臭いものをするわけないでしょう」

「こちらは私が出る。それに見合う人物を出せ。最低でも、お前の長男だな」

「出すわけないでしょう? 家の跡継ぎよ」

「こちらは私だといっているだろう? 家長だ。見合う相手を出せよ。お前でもいいんだぞ」

 おばさんは完全に引いていた。導師の気迫に負けている。しかし、貴族としてのメンツもある。引き下がれないようだ。

「オレはやりたくないぞ。くさっても宮廷魔術師だ。上位の魔術も使えて当然だ」

 おばさんの長男らしき男が歩いてきた。

「私を見捨てる気? 育ててもらった恩を返しなさい」

「家のために命を差し出せよ。お前の失態なんだから」

 長男の言葉は親にいう言葉ではなかった。

 長男はおばさんを導師の方へ蹴り飛ばした。

「代表はオレの母親だ。文句はないな?」

 長男が導師に確認した。

「ああ。だが、お前の親だぞ。死んでもいいのか?」

「清々する。それ以上の感想はないね。さっさと終わらしてくれ」

 導師は手袋を脱いだ。そして、蹴られて転んでいるおばさんに叩きつけた。

「これで後腐れなくやれるな。では、始めるぞ」

 導師がマナを動かした。

「セバス。あいつを殺しなさい」

 セバスと呼ばれた騎士は導師を剣で切るために走った。

 身体能力向上の魔術は上手くない。下級兵ぐらいだろう。駆け寄る速さは早くない。

 その間に導師はブレイクブレットを無詠唱で展開して放っていた。土の弾だが貫通力は高かった。プレートアーマーを数十の弾が貫通して、中の人間を黙らせた。そして、残った弾丸はおばさんの額を貫いた。

 動かなくなった二人を前に、導師は長男に顔を向けた。

「手袋を投げてもいいんだぞ」

「自分の手を汚さずにすんだんだ。礼はあっても、憎しみはない。こいつは従者どもに手を出していたからな。我が家の恥さらし。いい死にざまだ」

 そういって長男は二人の死体を従者に片づけさせた。

 長男と導師は示し合わせたように、王の方へと歩き出した。

 一連の騒ぎの報告をしなければならないようだ。

 途中、僕の肩から導師は抜け出した。

「いいんですか?」

「ああ。回復魔術で治った」

「回復魔術ね」

 長男は意味ありげにつぶやいた。

「お前はアナのところにいな。こっちの問題はすぐにも片が付く」

 僕はそういう導師の言葉に従ってアナの下に帰った。

 やがて、王に膝をついた二人がそれぞれのキャンプに戻って来た。

「導師。大丈夫ですか?」

 アナが導師にいった。

「問題ない。あちらの家との和解はしてある。それに、王でも貴族同士の間のもめごとだ。不服はいえても手を出せないのさ」

「そういうものですか?」

 アナはわからないと顔で表した。

「それより、実験だよ。一応、成功したが、不完全だ。続きを始めるぞ」

 あんなことがあった後で、実験をする導師の意気込みは、僕にはわからなかった。


 邪魔者がいなくなったことで、実験は順調に進んだ。

 いや、魔術師たちが、この魔術に下手な干渉をすると、死ぬと目の前で見せられたからだろう。邪魔する気配はない。それにやる気のない魔術師はいなかった。その代わり、恐怖で顔が引きつっている魔術師が多かった。

 二度目の試射に入った。今度は鉄球は真っすぐ飛んで岩にめり込んだ。

 実験は成功のようだ。

 鑑賞している貴族からまばらに拍手が鳴った。

 導師はそれも気にせず、次の行動に移っている。

「三発目は七割ほどの威力にするよ。気合い入れな!」

 導師の大声に、魔術師たちは杖を構え直した。

 五つのリングができる。鉄球を手前のリングの中央に入れた。

 鉄球が目に見えない速さで飛んで行った。先に岩にめり込んだ岩を破壊して、その先に飛んで行った。

 導師は満足そうにうなずいていた。

「次は九割でいくよ。全員、構えな!」

 魔術師たちは杖を構えてリングを作った。

 鉄球がリングに入れられる。

 新しい破壊目標の岩を破壊して、そのまま飛んで行った。

 二回とも成功だった。

「次は十割だ。全力を出しな!」

 導師が魔術師たちにいった。

「ちょっと待ったー」

 王の方から駆けて来るおじさんがいた。先の側近だった。

 導師の前に行くと、何やら話し合っている。

 そして、側近が下がると、導師は解散を命じた。

 導師が、僕たちのいるキャンプに戻って来た。

「どうしました?」

 アナはいった。

「昼食だとよ。これだから、貴族は嫌いだよ。勢いがついている内に、進める方が楽なのに」

「仕方ありません。食事とティータイムは外せませんから」

 アナはいった。

「ああ。そうだったな」

 導師はあきれた声を出しながら椅子に座った。

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