異世界とコイルガン14
翌日は導師の晴れ舞台だ。実験の成否で進退に関わる。絶対に失敗できなかった。
朝、導師はいつも通りに食事をして、魔術師の集まる中に入って行った。中で何が行われているのか知らない。だが、術者の皆が緊張しているのは遠目でも分かった。
日が昇り始めてた。おひろめには良い時間になった。だが、魔術師は持ち場がわからないのか、右往左往している。
いきなり実践では無理があったのか、足並みが整わなかった。
時間だけが過ぎていく。
導師の焦る様子が伝わった。
何が原因か遠目ではわからない。僕が走り出そうとすると、アナに止められた。
「駄目よ。あの仕事は導師の仕事。たとえ失敗しても」
「でも……」
アナは肩を押さえて止める。
導師が転んだ。そして、こちらに足を引きずりながら歩いて来た。
「アナ。包帯と接ぎ木を用意しておくれ」
「ケガをしましたか?」
「こいつを連れていくためだ。足をねんざしたことにする」
「わかりました」
アナは空間魔術を唱えて倉庫から包帯や板を出した。そして、座った導師の左足に板を当てて包帯を巻いた。
僕は導師の左から肩を貸した。
『これから先はコールで話す。何をいわれようとも言葉に出すな。絶対だぞ』
導師からコールの魔術が届いた。
これなら、何を話しても他人には聞こえない。
『僕は知らない振りをしていればいいのですね?』
『ああ。どんなヤジも罵倒も受け流せ。下男として黙っていろ。相手はくさっても貴族だからな』
どうやら、コイルガンを構成するために呼ばれた魔術師は貴族の出らしい。口を開いたら、侮辱罪で処刑されそうだ。
僕は導師を支えながら、魔術師たちの下に行った。
顔色を見ると、困惑している者、いらだっている者。笑っている者と様々だった。これを仕切るには一苦労だろう。
だが、導師はやって見せるしかないようだ。王が見ている。失敗は許されなかった。
導師が指示を出す。
やる気がなさそうに配置につく者が多い。やる気のある者は少なかった。この実験が成功か失敗しようとも、どちらでもいいようだ。
一抱えある鉄球が通る道の横から魔術師は杖を出して磁力のリングを作った。
『明らかに妨害している人がいます。力の流れを逆流させています。三人です』
僕は導師にコールの魔術を使った。
『わかった』
僕が特徴をいうと、導師は交代を命じた。
交代を命じても交代しない魔術師がいた。
その魔術師は導師をにらんでいる。
「私の魔術師が信じられない?」
いかにも貴族だというドレスを着たおばさんが近寄って導師にいった。
「残念ながら無理だね。使う以前の問題さ。この実験から外させてもらう」
「それがどういう意味かわかっているんでしょうね?」
「ああ。わかっていっているよ」
導師はめんどくさそうにいう。
「それは私たちを敵に回すことになるのよ。それでもいいの?」
「私たちでなく、私だろ。それに失敗を望んでいるのが、あからさまだ。もう、敵としか取れないよ」
「失礼ね。そんな野暮なことはしないわよ」
おばさんは、しれっといい放った。
僕はそんなことがいえる神経が理解できなかった。
「なら、従者の教育もしっかりやることだね。私をにらんでいるのは許されることではない。私も貴族なのだから」
「あら、忘れてましたわ。従者の非礼は詫びますわ。しかし、実験から外すのはやめてもらえないかしら。私の沽券にかかわるわ」
「しらじらしい。決闘ならいつでも受けるよ。早く手袋を脱ぎな」
相手は黙った。
導師は敵意を隠さずおばさんをにらめつけた。
おばさんは鼻を鳴らして自分の使用人が張ったパラソルの下に帰って行った。
それを確認すると、導師は大声を出した。
「逆流させているお前はクビだ。帰れ。そこの兵。実験の邪魔だから、力ずくで退かせ」
兵は示された魔術師を拘束すると連れ出した。
「何するのよ!」
さっきのおばさんが声を荒らげた。
「かまわない。私の責任を取る。妨害するヤツは連れていけ」
王の下から一人の男が走ってきた。
「王からの伝令です。彼女には借りがある。邪険にあつかわないで欲しいと」
側近らしい男は伏し目がちにいった。
「実験が失敗します。それでよければ、かまいません。ですが、その時は私に責任を負わせる気ですか?」
「そうはいってない。ただ、彼女の面子を立たせて欲しい」
「付け込まれてますね。彼女の思う通りにしたら、実験は必ず失敗します。この責任は私ではなく王様の判断によるものですよ」
「そうはいっても、王の立場もわかってくれ」
「無理ですね。私の成功をねたんでいるから、失敗をさせようとしている。王はそう望んでいるのですね?」
「いや、違う」
「それはあなたの判断です。王にお伺いをかけてください」
「わかった」
側近は脂汗をかきながら、王の元に戻った。
王に伝えると、伝令が戻ってきた。
「それでもいい。そういっていた」
「そうか。なら、あの魔術師は元の位置に戻せばいいのですね?」
「はい」
伝令は満足したのか帰って行った。
僕は導師の顔を見る。
『いいんですか?』
僕はきいた。
『これが貴族社会だ。平時でも死ぬヤツは死ぬのさ』
納得できないが、僕はうなずいて返した。
じゃまをした魔術師を元の配置に戻した。そして、一回目の試射が行われた。
魔術師がリングを作る。五つの磁力が流れるリングを確認して、大きな鉄球がリングの中心に台から転がされた。
球は視認できないほど、加速した。そして荒野の岩に当たって岩に穴を開けた。だが、邪魔が入ったため真っすぐに飛ばなかった。
その代わり、邪魔した人は高圧の電流が流れて死んでいた。
その魔術師のを見に行く。どう見ても感電死していた。応急手当として、心臓マッサージなどできない。ここでは、そのような医学はない。不審に思われるだけだった。




