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戦略級魔法使いの日常  作者: 氷河久遠
第一部

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13/28

異世界とコイルガン13

 大規模魔術のコイルガンが完成したと、導師が食事の席でいった。

 そして、試射実験のため、城から離れて荒野に行くらしい。僕たちも、それに付いて行くようだ。

 まあ、製作者である導師が付き添わない実験はないだろう。細かな調整など、他人にできるないと思う。ただ、面倒なことがあった。

 王が見学に来る。

 荒野までは大名行列よりも大規模な行軍になるだろう。王を守るための近衛兵や衛兵、そして、全ての隊の食事などの世話をする補給部隊と、考えたらキリがない。

 魔術一つで、大げさだった。

「そんなこといわないの。それだけ王様も関心があるのよ。名誉なことなのよ」

 アナにしかられた。

「王自身の気分変換も兼ねている。城の外に出るいい機会なんだ。だから、文句は声に出すなよ」

 導師にもしかられた。

「はい。でも、行軍と一緒でしょう? 気が抜けない」

 城の中のような張り詰めた空気は僕は苦手だった。

「二、三日の辛抱さ。今回はゲートを使って直行だ。短期間で終わるさ」

 断りたいが、僕は導師の下男として、付いて行かなければならなかった。


 城の庭で貴族に見送られ、馬車に王が乗った。乗車がムチを振るうと、馬車が走って行く。僕たちは見送った後、城から歩いて出て、城の近くに止めている導師の馬車に乗った。他の貴族は護衛と世話係がいる。それらは城の外で待っている。城の外で落ち合って、王の馬車の後に続いて行列を作る予定だ。

 しかし、導師は違った。僕とアナの二人しか連れて行かない。護衛はなく、身の回りの世話はアナと僕の二人しか必要としなかった。

 そのため、貴族としては変わり者扱いだった。だが、導師は気にしていないようだ。執事など、雇おうとは考えてもいないようだった。家は門番に任せて、馬をあつかう御者も一時的に雇ったようだ。

 馬車の中は導師が後ろの席に座り、アナと僕はその前に座っている。進行方向と反対に座っているので、酔う可能性が高い。しかし、他の貴族の目がある中で、下男が貴族の横に座っているのは無礼であり、雇っている導師の名誉に傷を付ける。そのため、一緒の馬車に乗っている時点で注目された。

「何で、御者を雇ったのですか? これは下男の仕事です」

 アナが御者に聞こえないように、小声でいった。

「こいつにできると思うか? それに教育する時間もなかった。仕方ないだろ」

「ですが、他の貴族に笑われていますよ」

「そんなの捨てとけ。見栄ばかり気にする貴族になる気はない。……だが、こいつには馬の乗り方やあつかい方を教えなければならないな。失念していた」

「あつかいは下男なんですよ。一緒に乗っていたら、変な勘繰りをされます」

「まあ、仕方あるまい。他に馬車を借りる気はない。それに、今さらだ」

「変な噂が立たなければいいのですが……」

「お前が気にする必要はない。火の粉が降りかかるのは、全部、私だ」

「いつも、導師はそうですね。もう少し、貴族らしくていいんですよ?」

「ふん。私の美学に反するわ」

「その美学がわかりません」

 窓の外を見た導師はアナの言葉を無視した。

 一番外の外壁の門をくぐった。そして、城下町から出ていく。この先は壁に守られていない。野獣など外敵は潜む危険な地帯だった。

 だが、外には何十人もの魔術師がゲートの魔術を作っていた。行列はゲートの魔術が作る暗闇に続いて入っていった。

「ゲートって、魔術に干渉しますか?」

 僕は導師に尋ねた。

「魔術でも使っているのか?」

「わかりません。常時展開している魔術があるかもしれません」

「ちょっと待て。私が調べる」

 導師が僕に手のひらを見せた。

 魔力の状態を見ているようだ。

「……特に問題ない。常時、身体向上の魔術を使っているようだが、使わなくていいぞ。臨戦態勢でいる必要はない」

「そうなんですか? 普段通りなのですが?」

 導師はクスリと笑う。

「訓練のやりすぎだな。まあ、そのままでいいだろう。魔力の消費は少ないし、ゲートとも干渉はしない。そのままで大丈夫だ。護衛としてはありがたいしな」

「そうですか……」

 僕が身体向上の魔術を常時使っているのは危ないと思う。下手にバカ力を出されても困るだろう。僕は身体に流れる魔力の流れを調節した。

「ゲートに入ります。心の準備をして下さい」

 御者に声をかけられた。

 初めてゲートを通る。普段は転移だったからだ。

 あの暗闇に飲まれるのは恐怖があった。自分で魔術を使うより、誰が使ったかわからない他人の魔術で移動するのは怖かった。

 目を閉じたまま、ゲートをくぐった。

「おい。初めての魔術だ。観察しないでどうする」

 導師にいわれた。

「知らない人の使った魔術だと怖いです。特に闇の中に入るのは怖いです」

「まあ、その気持ちはわからなくはない。しかし、慣れてもらわなければならない。帰りもそうだが、貴族の移動は転移ではなく、ゲートの魔術だからな」

「……はい」

 僕は力なく答えた。

 窓の外を見ると、荒野だった。乾燥した草がまとまって球を作り転がっている。いつも魔術の実験に来る荒野だった。

「いつも味気ない景色ですよね」

 アナはいった。

「魔術の実験としては、近場で最適な場所はないからな。仕方ないさ」

 御者が窓を叩いた。

 聞きたいことがあるようだ。

「どこにお停めしますか?」

「今、そちらに行く」

 導師が扉を開けて出て行った。

 中には乾燥した空気が入ってきた。

 アナが扉を閉めた。

「いいんですか?」

「導師に任せるしかないのよ。貴族同士の縄張り争いは私にはわからないわ。導師が、適当な場所に連れて行ってくれるわ」

 ここでも権力のいざこざがあるようだ。導師はそのいざこざさえも考えて、馬車を止める位置を考えているようだ。普段は貴族を毛嫌いながら、貴族をちゃんとやっていた。

 導師の先導で今夜の野宿の場所が決まった。アナに教わりながら、テントを張り、火をおこす。ちょっとしたキャンプだった。御者も入れて四人で火を囲んだ。

 夜は冷える。暖かいハーブティーがありがたかった。

「実験は明日ですか?」

「ああ、今日は移動だけだ。明日が実験。その実験次第では、明日帰るかもしれない。予定では明後日が帰国だがな」

「はあー。二泊三日ですか。今日はゆっくり休んだほうがいいですねー。明日は忙しそうです」

「アナはこいつの世話を頼むぞ。貴族社会がわかっていないからな。下手に声を掛けたら私の責任になるからな」

 導師は僕をあごで指しながらいった。

「はい。それはわかっています。大人しくしているように、二人で待ってます。御者さんは、どうしますか?」

「私は馬の世話をしております。お気遣いなく」

「はい。わかりました」

 御者さんは慣れているのか、それ以上は何もいってこなかった。

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