番外編『おやすみの前に』
深夜。
寝衣に着替え、モノクルを外し……
軍師がベッドでくつろいでいると、スマホの通知が鳴った。
女王からのLINEだ。
「こんな時間に、何を……」
軍師はアプリを開く。
女王「軍師、まだ起きてる?」
軍師「起きておりますよ」
女王「ね、自撮り送って」
軍師「はい?」
突然の提案に、一瞬思考が止まる。
軍師「私の、ですか?」
女王「うん、自撮り写真。……だめ?」
軍師「別に構いませんが、何の意味が……」
女王「べつに? ちょっと見たくなっただけ」
軍師「私の顔が見たいなら、自室に来ていただければいくらでも」
女王「そういうんじゃないの! 自撮りが見たいの」
軍師「はあ……わかりました」
軍師はスマホを構えてシャッターを押した。
そして、画像を送信する。
軍師「これでよろしいですか?」
女王「うん、ありがと」
しばらくして、女王からまたメッセージが届く。
女王「ね」
軍師「はい」
女王「こういうの、他の人にも送ったことある?」
軍師「こういうの? 私の自撮り写真を、という意味ですか?」
女王「うん……」
軍師は、そこに秘められている女王の意図を考えた。
おそらく——。
女王本人は自覚していないが、本心では、誰か親しい女性でもいたのかと気になっているのだろう。
軍師は軽くため息をついて、返信を打った。
軍師「いえ、自撮りを送ったのは貴女が初めてですよ」
女王「そうなのね!」
嬉しかったのだろう。
返信は、ほとんど間を置かずに届いた。
軍師「そもそも私の自撮りなど、欲しがる人はおりませんでしたよ」
女王「……そっか」
それは事実だったが、理由は彼女が考えているものとはおそらく違う。
生前の軍師は、城内では『氷の鷲』の二つ名を持つほど、畏れられていた存在だったのだ。
気軽に自撮りを頼めるような人間など、いるはずもない。
女王からのメッセージは続く。
女王「ねえ軍師」
軍師「はい」
女王「すごくいい顔で笑ってるわ」
そう言われて、軍師は慌ててカメラロールに残っている写真を確認した。
そこに写っている自分は——、
誰かに心を許して、笑みを浮かべているように見えないこともない。
軍師「さて……気のせいではないでしょうか」
女王「そんなことないわ、すっごいいい顔。保存したわ!」
軍師は苦笑いを浮かべながら、カメラロールを閉じた。
軍師「これでよく眠れそうですか?」
女王「うん。ありがとね」
軍師「それはようございました」
女王「じゃあおやすみ、軍師」
軍師「おやすみなさいませ、女王。よい夢を」
軍師はスマホを置いた。
そして今頃、自分の写真を眺めながら、上機嫌で眠りにつこうとしている主君を思い……
彼は再び、柔らかな微笑みを浮かべた。




