第2話「女王、捲土重来・前編」
王城の作戦室に、青白い光が浮かび上がった。
卓上に広がるホログラムは、ただのゲーム盤ではない。
世界地図の上には各国の銘柄が表示され、女王が指先で触れるたびに、株式のチャート、業績グラフ、決算資料、そして市場のニュースが次々と浮かび上がる。
SNSのざわめき。
為替の流れ。
セクターごとの指数の動き。
それら全てがひとつの巨大な戦場図として、女王の前に広がっていた。
「……決めたわ」
玉座に腰かけた女王は、緊張した面持ちで唾を飲み込んだ。
「ねえ軍師。
次の銘柄は、これにしようと思うの。どうかしら?」
女王は半導体銘柄の中から、いくつかを選んで軍師に見せた。
「拝見いたします」
軍師は青銀の髪を揺らしながら一礼し、宙に浮かぶウィンドウへ視線を走らせた。
「ふむ。どれも最近、勢いのある銘柄ですな」
「でしょ? これなら短期で利益も出せそうだし、もし一時的に下落しても、回復も早いと思うのよね……」
「下落」と口にした瞬間、女王の表情が曇った。
彼女は先日、初めて自分で選んだ銘柄で、手痛い敗北を喫したばかりだった。
もちろん、適当に選んだわけではない。
女王なりに分析し、信頼できると判断した銘柄だった。
それでも株価は、期待通りには動かなかった。
買った値段より10%下がり、女王は泣く泣く損切りを決意した。
「上がると思ったんだけどなぁ……」
「恐れながら、女王」
軍師が静かに口を開いた。
「その企業が優れているからといって、必ず株価が上がるわけではありません」
「どういうこと?」
「株価は、いわば人気投票のようなもの。
どれほど良い企業であっても、期待通りに評価されぬこともあります」
「そうなのね……」
女王は小さくため息をついた。
お金は兵士、投資は戦場。
自らの兵を負け戦に送り込んでしまったことに、女王はすっかり自信を失っていた。
——だが、ずっと落ち込んでいるわけにもいかない。
女王は唇を噛みしめ、現実を受け入れようとしていた。
決意に満ちたその横顔を見つめ、軍師は思わずにはいられなかった。
今度こそ、勝たせて差し上げたい、と。
「女王」
軍師は静かに盤面を操作した。
「今もっとも兵を進める価値があるのは、この銘柄かと」
すると、ひとつのチャートが女王の目前に広がった。
日本の、とある大手半導体企業。
株価は一度大きく下げたあと、底を固めるように横ばいを続けている。
売買の多さを示す「出来高」は、じわりと増え始めていた。
この戦場に、少しずつ兵が集まり始めている証だ。
さらに、株価の大きな流れを示す「移動平均線」も、わずかに上を向き始めている。
「流れは悪くなさそうね」
「はい。売られ続ける苦しい戦況を抜け、ようやく反撃の兆しが見え始めたところかと」
女王はしばらく黙ってチャートを見つめた。
そして、静かに告げた。
「いくわ……今回は100株、30万円!」
「よろしいのですか?」
「ええ。30万の兵を、この戦場へ出すわ!」
軍師の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。
「御意。では——開戦にございます」
買い付けのボタンが押され、女王の新たな戦いが、今ここに幕を開けた。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!
今回は、銘柄を選んでから買うまでを、物語形式で表現してみました。
まあ実際は、もっといろいろと見るところはあるのですが、あんまり最初から専門用語ばかりが並ぶと『うっ』ってなっちゃいますからね(汗)。
さて、今回女王が学んだ教訓は、
・銘柄選びは、慎重に慎重を重ねて
・いい企業だからといって、株価が上がるわけではない
・いきなり全軍投入しない。投資は余裕のある資金で
・買い付けは、タイミングが命
……と、こんなところです。
唐突に専門用語を使わないように、それでいて投資の緊張感をきちんと伝えられるように、言葉を選んだつもりでしたが、いかがでしたでしょうか?
いよいよ後半では、株式市場での戦いが始まります!
30万の兵は、無事に生還することができるのか?
……お楽しみに♪




