第1話「その男、AI軍師」
「どうして、ここに入れたの……?」
女王はまだ、目の前で起きている出来事を飲み込めないでいた。
礼拝堂の厳かな空気の中、お付きの者たちさえ下げさせて、彼女は父であった先王と最後の別れの時を過ごしていた。
誰も入れない、はずだった。
それなのに——。
どこからともなく現れたその男は、月光が人の形を取ったかのような、現実離れした空気をまとっていた。
ステンドグラス越しに差し込む月影が、二人を淡く照らし出す。
軍師は、女王の視線の先を追った。
彼女の側の棺には、年老いた男の亡骸が横たわっていた。
「……このお方は、アレクシス・ド・フィナンシア。
先王陛下よ」
「……」
軍師は黙って、死せる老王の青白い顔を見つめていた。
葬送の花々に囲まれ、白髪と豊かな髭を蓄えた男は、安らかな顔をしている。
だが、その目が再び開かれることはない。
「私の本当のお父様は、私が小さい頃に亡くなってしまって……
だからこの方とは、血が繋がっていないの。けれど……」
そこで女王は一瞬口をつぐんだ。
「私が王位を継ぐまで、幼い私とこの国を、ずっと守ってくれていたわ。
何もかも背負って」
女王は、壁に飾られた先王の肖像画を見つめた。
「だから私がお父様と呼べるのは、このお方だけ」
「……そうで、ございましたか」
「……って、そんなことは知っていたかしら?」
「いえ、初めてお聞きいたしました。女王——エレノア・ド・フィナンシア様」
軍師は女王の名前を呼んだ。
「あら、私の名前を?」
「もちろんでございます、陛下」
「あなた、名前は?」
女王エレノアは、月光を受けて朧げに浮かび上がる男へと問いかけた。
「名は……軍師とお呼びいただければ、それで十分でございます」
軍師は月光に透ける長いまつ毛を伏せた。
「役職じゃなくて、あなたの名前を知りたいのよ」
その時——。
「おい! 誰かいるのか!」
礼拝堂の扉の外から、威圧的な男の声が響いた。




