殺害側の悩み
「神を殺す液体?」
「一言で言えばな。神は決して不老でも不死でもない。しっかりと死のある生物だ。」
今までの俺の常識だと神は死なない。
だが、言われてみれば当たり前だ。戦争が成立していた。つまり、兵力がなくなる、殲滅という概念があった。
「こいつを一滴でも体内にいれた神は死ぬ。戦争では銃弾の中にこいつを入れたらしいな。」
放たれた弾丸が体内に入ると死ぬってわけか。
「ちなみに、こいつは一定以上の衝撃によって気体になって毒のようになる。戦争のときの砲弾だ。」
…そりゃ随分と恐ろしい液体。今この状況も危ないんじゃないだろうか。
「で、そいつをどうするんだ?」
「アイツラの飯に盛るか作戦のときに撒くかどっちかだな。」
「前者は暗殺者が必要だな。」
「俺らも暗殺者だぞ。」
「もどきだがな。…それをするのはいいだろう。だが、だ。」
「なんだ?」
「その後はどうするつもりだ?」
しばらく沈黙が続いた。
周りの第一が話しているはずだが、その声が遠くなっていく。
「…それはまだ決まってない。」
「お前はそんなものを信じて踊るのか?」
「…踊っているつもりは……」
「踊らされているやつはみんなそういう。私は違うって信じ込んでいる。」
洗脳だと気づかれたらそれはもう洗脳じゃない。
「…そうだ。俺は踊らされているかもしれない。だがな、俺なりに考えている部分はある。」
「ほう?」
「むかし、戦争よりずっと前。総括みたいなまとめ役がなくても安定して動いていた時代があった。それが本来の天界の姿だ。」
「…そりゃすげぇ。だが、結局戦争が起きて破綻しているじゃないか。」
もし、その状態が何十億年と続いたならすごいとは思う。だが、結局破綻している。
「たしかにな。そうだ。結局我々神も人間と同じなんだろう。欲望というものがある。」
人間と神も似たようなもの。そうだろう。神が人間を作り、操ってきた、保護者だ。
「だがな。何もしなければあの腐った総括がすべての部署をまとめて人間界は終わりだ。だからこそ、俺は博打を打つ。」
…こいつなりに考えているんだろう。このまま放置すれば確かにあの総括がまともなことをやるとは思えない。
「お前が、俺のことをおかしいと思うのはわかる。だが、信じてほしい。」
「………すまない。信じたい。が、信じられない。お前のその理想はたしかにいいだろう。だが、俺は手を出したくない。それで天界をまた戦争に巻き込むのは嫌なんでな。」
戦争を俺は知らない。だが、少なくともいいもんじゃないというのはわかる。
俺が行った言葉をそいつは苦しみながらも受け取ったらしい。
「そうか…。まぁ、それも自由。俺が変えようとするのも自由だ。」
「今回のことは精神を病んだ奴らの虚言だと解釈しといてやる。」
そう言って俺は部屋を出た。
ちらっと後ろを見ると、なんだか苦しそうに迷っているそいつの姿が見えた。
俺は自室にいた。
これでもそれなりに地位にいるやつだ。家ぐらい持ってる。
ソファに寝転がり、ただ天井を見つめていた。
何も考えないように目を閉じようとするが、それを脳が拒む。ずっと頭の中に本当にこれで良かったのか。選択はあっていたのかという問いがぐるぐる回っている。
あいつの言っている本来の天界の姿。あれは確かにそれぞれの部署がなんの抑圧も受けずにできていた理想形かもしれない。
少なくとも現在みたいな干渉はしないといえども階級のようなものがあるよりはいいだろう。
だが、本当にそれでいいのだろうか。
あいつの言っていた本体の姿のときも戦争が起きた。だが、これからはわからないが今のところまとめ役がいる今は戦争が起こっていない。
「何が正しいんだ。」
まとめ役がクリーンであればいいのか?
だが、欲がある以上まとめ役はクリーンにはなれないだろう。何かの上にいる以上、結局何かをやらかす。
つまり、結論を言えば欲がある以上どうしようもないんだろう。
そう、無理や短期的に結論を出して寝ようとする。
だが、またもや阻まれる。
まず総括は殺してもいいのか?
総括が死んだ瞬間に総括に成り代わる奴らが出てくるんじゃないか?
それに、神を殺すっていうのはどうなんだ?
神を大量に殺して、それは正義と呼べるのだろうか。
まず、総括は本当に悪なのか?確かに全権を掌握しようとしている状態とはいえ、それが悪いことなのか?
案外、指示を総括に任せてしまったほうが実行も早くなっていいんじゃないか?
下手に総括を潰せば天界が混乱するのは分かり切っていることだ。その混乱をまとめることはできるのか?
わからない。今、俺が言っていることもよくわからない。
混乱してきた。どういうことだ。何が正義なんだ。
寝て全て一時的に忘れたいのに混乱によって脳がそれを阻む。
脳が必死にこの場で結論を出せと指示を飛ばすが、俺はそれを全力で拒み、無理やり目を閉じた。
しばらくは脳も抵抗を繰り返していたが、徐々にその抵抗も弱まり、気づけば、俺は目を閉じて眠っていた。
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