逃走側 一さん
お久しぶりにあんな夢を見せて、忘れていたことを思い出させてくれてありがとうよ。
はぁ。疲れた。寝て休んだはずだってのに。途中まで夜遊びしてたのが悪かったか…。
頭を抱えながら、周りを見た。
そして、隣に一さんを認めた。
………は?
そういえば、忘れてたけど一さんをここまで運んだっけ?
一さんはすやすやと一定のリズムで胸を上下させながら可愛らしい寝顔を見せていた。
服は眠りにくいスーツで、その顔とのギャプをきれいに創り出していた。
…だめだだめだ。今考えるのは今どうするかだ。
もし起きたらどうする。絶対に勘違いされてしまうだろう。なら、俺だけでもホテルから出るか?いや、俺が出たらチェックアウトを一さんに任せてしまう。代金も任せるのはだめだろう。それに事情説明もしなければ。
もういいや。ここから出るわけにも行かない。ならもうこの場にいてなんとかして事情説明してしまおう。
そういうことで諦めて椅子に座った。
椅子は窓の近くにあり、カーテンが閉まっていた。
カーテンから時折夜明けの光が漏れて、電気をつけていない暗い室内をほんの少し明るさを入れた。カーテンの隙間から少し外を見ると、山の上から太陽が本当に少しだけ出ていて、まだ大多数が寝ている街に光を与えていた。
そうやって街を見てきれいだなぁとか思っていると、
「んぁ。」
起きたらしい。さて、どうやって言おうか…。
彼女は目をこすり、周りを見渡した。そして、自分がいつも起きている部屋じゃないと気づいたらしい。
「一。」
「ふぇ?!」
一さんは驚いた様子でこちらを見てきた。
「玲?!」
そうして、体中を触り始めた。
「いや。何もしてないから。俺はそういう人じゃないから。夜は外に行ってたから。」
「じゃ、じゃぁ、なんでここにいるの?」
「そろそろ起きると思ったから事情を説明しようかと思ったから。」
やべぇ。手汗がベットベトだ。
それでも、そんなに焦った様子は見せないように努力する。
「いや、私がなんでここにいるかって…」
「あぁ、えっと…昨日居酒屋に行って、一が途中で寝てしまったんだよ。その場に放置するわけにも行かないし、一の家も知らないから一旦、俺の今日の宿に連れてきたってわけだ。」
「本当に、本当に何もしてないんだよね?」
「だからしてないって。そういうの許可を取らない限りしないよ。」
「許可を取らない限りってことは、許可さえあればしたいってこと?」
「いや、そういうことじゃ…」
「まぁ、いいよ。迷惑かけたね。ありがとう。」
「別にいいよ。」
良かった。やっぱり一さんは物分りのいい人だ。
「ところで、今何時?」
「えっと…」
スマホの時間を見ると、8時半か。
「8時半だって。」
「えっ?」
急に一さんが焦ったような様子に変わった。
「8時半…?ここってどこ?」
「西区だけど…」
「嘘でしょ…遅刻だ…。」
「遅刻?」
「会社の出社時間が9時で西区から東区の会社まで行くってなったら間に合わない…。また、あの上司に………」
「……上司に関しては心配しなくていいよ。詳しくは説明できないけど、信じてほしい。」
まぁ、昨日俺がやったことは伏せたほうがいいだろう。色々とやらかしてるからな。
「本当?ならいいけど。でも結局遅れることには変わらない…。」
遅れるか…。どうにかしてあげたいとは思うが、難しいな。
まぁ、これに関しては俺の一さんへの信頼だとかの問題だ。
「…一、遅刻を避けたいのであれば、できることはあるけど、一分ぐらい目を瞑っておいてくれ。」
まぁ。いいだろう。友人のためには色々やるべきだろう。
「えっ、どういうこと?」
「まぁ、まぁ。気にしないで。ただ目をつぶるだけでいい。」
「わ、わかった。」
素直に目をつぶってくれたので、俺は一さんの小さな華奢な腕に触る。
そして、俺も目をつむり、東区の景色を思い出し、その場所へと強く思う。
そして、空を飛ぶというのを思い浮かべる。
「飛べ。」
小さくそうつぶやくと、一気に体の周りに風が舞った気がする。
「もう、目を開けてもいいよ。」
一さんにそう呼びかけた。もうすでに、東区にはついている。
「な、何をしたの。」
驚いている一さんのその質問に対して俺は、
「企業秘密ってやつかな。」
としか答えることができなかった。
その後、一さんは驚きながらお礼を言い、今度あったとき教えてと言って会社へと向かっていった。
さて。どういう言い訳を考えておこうかな。
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