逃走側 総括の連中
あの日から…何日だっけ?
まぁ、かなり立った。
本当に音沙汰なしの状態。
今日はというと、夜景でも見に来た。
ついにあいつらもあきらめがついたか。そう思うと急に解放感に包まれ、今まで見ることもなかったこんな景色も見ている。
今いるのはかなり高いビルの屋上で、町が一望できる。暗い夜の街をビルから漏れる電気が明るく照らし、美しい夜景と化していた。
天界の連中は下界がけがれているだとか言っているが、どんな場所でもどこかしらに影が落ちるものだ。
光とともに。
「♪~~♪~~」
こんな夜には鼻歌が合う。
今の状況を小説風に書いたらどうなるだろうか。
冷たい。だが、どこか暖かい夜風が頬を撫で、髪を揺らした。夜の町を、ビルからあふれるほのかな光が静かで暗いこの町をどこか暖かくした。
…………なれないものはやるべきじゃないなぁ。俺は小説家に向いてない。
だがまぁ、実際に夜風は髪をなでて揺らすし、何なら服の裾も揺らした。ビルからの光も町に暖かみを出している気もする。
「きれいだ。」
そういったときに、少し強い、冷たい夜風が吹いて、出していた手と耳をを冷ました。
俺は冷めた手をポケットへ入れ、パーカーのフードを少し浅めに被った。
冷めきった手と耳はじんわりと暖かくなり、少し痛かった。
「ん?」
少し後ろに気配を感じ、振り返る。
おかしいな。屋上に来るための階段はこの建物にはないはずなんだが。
そこにいたのは一人の少女だった。
肩よりも少し長い黒髪に鮮やかな青色の目の7歳か8歳ぐらいに見える少女。
「どうしたんだい?どうやってここに?」
俺は足をまげて屈み、その子と目線を合わせて、優しい声で話しかけた。
「お兄さん。飛んで。」
「えっ?」
その子は急にそういったと思えば、その細い腕からは想像できない力で俺を押してきた。
ドンッ!という効果音が似合いそうな勢いで押され、対処もできずに宙に放り出された。
「飛んで。」
彼女は笑いながら、スカッとしたような顔でこちらを見下ろしていた。
なんなんだあの少女。
俺は、少し興味がわいた。知ってみようじゃないか。
言われた通り空を飛び、その少女の後ろについた。
「さ~て。どういうことかな嬢ちゃん。飛んでってどういうことかな?」
俺がそう問いかけるとそいつは驚いた様子だが、相当怒っているようにも見える。
「あんた!なに飛んでるのよ!ただの労働逃亡者のくせに!」
「なに飛んでるのよって……。飛んでっていたのはあんただろ。」
「あんたら労働者は空なんかとんじゃいけないの!知らないの⁉私たち上級神民の上に労働者ごときが入れると思ってるの⁈」
…………。なんだこいつ。初対面の奴に対して偉そうな口ききやがって。なめてんのか。あとなんだよ労働者は上級神民の上はとんじゃいけねぇって。神の世界は平等だし、労働は全員やるもんだぞ。
「…………。何言ってんのかよくわかんねぇけどなんか用か?」
俺がめんどくさそうにそう問いかけると、さっきまでの態度は何だったのか一転、泣きそうな顔になった。
「あんた………あんたのせいでお父様が………お父様が死んだのよ!だから……だからあんたを突き落として殺そうとした!なのに、なのにあんたは抵抗して!う、うわぁぁっぁあぁ」
………なんなんだこいつは。俺が?俺のせいでこいつの父親が死んだって?俺は神殺しの趣味はないぞ?
「う、うぐ。ひっひぐ。あんたが……あんたが逃げたせいで………かばったお父様が………し、死んだのよ!あんたの、あんたのせいよ!」
…………。俺が逃げたことをかばったやつがいたってことか。
「へぇ。その大事なお父様が命を懸けてかばったやつをお前は殺すのか。お父様の意思を尊重しようって気持ちはねぇのか。その程度なんだな。お父様への気持ちは。」
「うるさい!」
そいつは目にいっぱい涙をため、こちらへ拳銃を向けた。
いや、こいつはリヴォルバータイプだな。5連装タイプの、ライフル弾型。バレルが長く、その小さな手に合わない大型だ。
「うるさい!うるさい!!うるさい!!!」
「逃げんなよ。事実から目を背けるなよ。殺したい相手に対して引き金もひけねぇ弱っちい、甘やかされた嬢ちゃんがよ。」
「うるさい!!!!」
そいつは癇癪を起し、不必要なまでにデザインが彫られた銃を両手で握った。
「私は………私は些昼大将の一人娘!些昼少尉よ!甘やかされた嬢ちゃんなんてものじゃない!」
些昼………。
「ハハハ。ハハハハハハハハハハ!」
「な、なにが面白いのよ!」
「ハハハ。ようやくくたばったか。あの総括の野郎。」
あの総括のクソ野郎ども。戦後、混乱に乗じて過去の総括を乗っ取った奴ら。必死に命を懸けて戦った我々兵士に何もせず、戦うのが当たり前という態度をとりやがったクソ野郎の集まりか。
俺が笑っていると、一発の銃声が響いた。
「お父様を侮辱するな!次はあてるわよ!」
「いやぁ。あたりまえだよな。肩書だけだもんな。総括の軍部って。ろくな戦闘経験すらないど素人の集まり。権力にすがり、支配するだけの奴ら。」
俺は彼女に近づいた。
「と、とまれ!撃つぞ!」
「撃てよ。」
その銃口を手で握り、額に当てた。
さっき床に撃った時の熱のがまだ銃身に残り、少し熱い。
そいつは引き金に指をかけているが、グリップを握る手は震え、とても打てるような状況ではなかった。
「はっ。やっぱな。ろくに力がねぇ。」
俺はそいつのリヴォルバーを奪い、ポケットに突っ込んだ。
「もう少し決意を固めてこい。そして総括の連中にこういえ。かかってこいよ。権力にすがるだけのど素人になんか負けねぇ。ってな。」
そう言い、俺はビルを飛び回り、ホテルへ戻った。
まったく。せっかくのきれいな夜景が汚れちまったな。
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