逃走側のデート?
「おまたせ~。待った?」
落ち着け俺。落ち着くんだ。相手はそんなつもりはない。
大丈夫。勘違い野郎は嫌がられるだけだ。やめておけ。
「どうかしました?」
「あっ。だ、大丈夫d、です。」
やべぇ、すげぇ噛んだ。
「あはは、緊張してます?」
ぎぃぃやぁ!指摘されてしまった。
「じゃぁ、行きましょうか。」
彼女、一さんはそれ以上追及することもなく、歩き出した。
そんな彼女に少し遅れて俺も歩き出した。
彼女が向かった先はそこそこ5階建てのビル。
「ごめんね。忙しいだろうに呼び出して。」
店内に入った時、彼女はこちらに振り返りながらそういった。
振り返った時、ほんのりと茶色がかった髪がふわりと揺れ、顔には申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。
「大丈夫です。ほぼ毎日暇ですし。」
天界にいたころは一切暇なんてなかったが今は遊んでるだけだ。
「敬語、やめてくださいよ~。」
懸念していたことが起きてしまった。
敬語はどうしても癖だからなぁ。
「私、本を買いたいんですよ。おすすめの本教えてくださいよ~。」
………まずい。かなりまずい。
何がまずいかって?俺の知ってる天界のやつだけだからだよ。
さて、どうやって逃れようか。
「そうだなぁ。でもこういうのは俺は一期一会を大事にしてるな。」
「………どういう意味ですか?」
「本屋を見てみて、そこでふと気になった題名とか表紙とかの本を手に取るんだ。で、それを買ってみる。そうすれば新しいジャンルを開拓できるかもだからな。」
「なるほど~。行き当たりばったりもいいってことですか。」
「そういうことだな。」
いや、そんなことはないんだが。
だけどかなりいいやり方ではないだろうか。自分の気になったものだけを見る。そういうのもいいんじゃないか。
「じゃ、本屋へレッツゴー!」
彼女は元気よく歩き出した。
3階の本屋につくと、そこは木を基調とした室内で落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
彼女は静かな雰囲気に合わせ、さっきまでの元気の良い感じではなく、静かな雰囲気の人に変わっていた。
変貌具合がすごい。普通ここまで人間が変わるものだろうか。
彼女はすたすた本棚へと向かい、真剣に本を眺めていた。
俺はここに来るまでのエレベーターで話していた通り、それぞれ分かれて見始めた。
まず行くのは小説の中でも恋愛系。前一さんと話した時に恋愛ものが好きだと話していたはずなので、多少好きな本なんかを知っておかなければ。
そう思い、軽く本棚を散策していると見覚えのある人影を見た。
………おやおや。例のあいつじゃないですか。
ここで何をしているんでしょうかねぇ?全く。背中がお留守ですよ。
そしてよく見るとあいつが見ているのは恋愛小説の棚じゃないか。
見れないじゃない。全く。まぁ、しょうがないか。一期一会だ。
こういうのをいい機会にして新しいジャンルの本に手を出すのもありだ。
そう思いなおし、また軽く本を探し始めた。
そこで俺の目を引いたのは一つの小説。
「神様の労働時間」
なんだ。このすごく現実的な小説は。まぁ、とりあえず労働の内容が正解かどうか判別して差し上げよう。
本を手に取って後ろのあらすじを見てみ………高ッッか!!!
なぁにこれ。本一冊1000円!なんでこんなに高いんだよ。おい、最近の30年前なら700円もいかずに買えただろうに。何があったんだ。
なぜこうも高騰するのか。意味が分からん。
まぁ、しょうがない。金なら俺はあるんだ。
そう自分に言い聞かせあらすじを読んでみる。
なるほど………主人公の創っていう神が仕事がないから暇だろってことでほかの神から働かされるのか。
とりあえず買ってみよう。
そう思って本を手に取って、さっきのやつのいたところを見る。
いないじゃないか。もう帰ったのか。帰ったなら少しその本棚を見るか。
移動してみると、桜色の背表紙が大量にあった。
まぁ、恋愛ものの象徴的な花だよな。桜って。
出会いと別れの象徴でもあるし、きれいだから恋愛なんかにちょうどいいんだろうけど。
そうはいってもここにある小説の背表紙の8割は桜色だ。
まぁ、しょうがないよね。恋愛の象徴だもんね。うん。しょうがないよ。
そんな今更なことを思いながら題名を見ていると、桜色ではない一冊の本が目に入った。
「終わりの街で」
桜色ではなく、無機質な灰色。両隣が濃い桜色の本なだけあって相当目立つ。
その本を手に取る。
表紙には灰色のさびれたビルを背景に雪が降っている中で背表紙の方に顔を向けている青年が描かれていた。
裏表紙は背表紙ではないほうに髪の毛がほんの少しだけ見えていた。
裏表紙に書かれたあらすじには、
「未曽有の大災害により、一つの街が終わりを迎えた。その終わりを迎えた街を調査するために送り込まれた布武。その終わりを迎えた一つの世界で謎の女性、アークと出会う。彼女は何か知っている様子だった………。」
こんな感じだ。
へぇ。面白そうじゃないか。
せっかくだ。神様の労働時間と一緒に買ってみようか。
そう思い本を持ち、カウンターへと向かった。
「あっ。玲さん。」
彼女もちょうど選び終わったらしい。手には1冊があった。
「俺が払いますよ。」
そういって本を受け取ろうとした。
金なら俺はあるしな。それにこういうのは女性に払わせるべきじゃないのは知っている。
「………玲さんってどの女性にもその態度ですか?」
「えっ?」
どういうことだろうか。俺の態度がどこか悪かったか?どこが悪かったんだ?
「まぁ、いいですよ。優しいってことですもんね。」
何がいけなかったんだろうか。
俺がそう困惑していると、
「……………すいません、急に。でも玲さん、優しすぎるのもまずいですよ。」
「そ、そうか。すまない。」
さっきから俺は敬語とため口のような口調をなぜ繰り返してるんだ。
「こういうのは誘った側が払うんですよ。時間を割いてもらっている側ですから。」
「あ、ありがとう。」
な、なんていい人なんだ。
彼女が会計を済ませている間、俺はただただそう思った。
「今日は急にすいませんね~。………またいつかこんなふうに遊べますか?」
ビルから出ると彼女は最初は申し訳なさそうな顔。あとの方は上目遣いで少し不安そうな顔だった。
「連絡くれれば別にいつでも。」
暇だもんな。俺って。
その後、少し会話をしてからまた後日会いましょうということで終わった。
俺は別れた後にそこらへんのビジネスホテルに泊まり、本を取り出した。
そして、ほんのひと時の読書を楽しんだ。
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