暗殺側の最後かもしれない時間。
負ければ死ぬ博打の予定日は3日後。
3日間。それが神生最後の3日間か大逆転の前の3日間か。どちらに転ぶのかは俺と上層部が決めることだ。
最後になった時に備えて、少しは楽しむことにしよう。
最近、俺もこの汚れた下界にいたせいで何の抵抗も感じなくなってしまった。
さて、俺がここ一時で気になったものでも買ってみようか。
といっても、どこで買えばいいのかもあまり知らない。
ホテルの従業員にでも聞けばいいのだろうか。
………まぁ、最後だし。
ホテルの一室から出るとチェックアウトをすませ、勇気を出して聞いてみる。
「あ、あの。ここらへんで本やって在りますか?」
「えっ?本屋なら………ここをでて左にまっすぐに行って、5つ目のビルにそこそこ大きな本屋があるはずです………。」
「すいません、突然。ありがとうございます。」
ふぅ。よかった。
さて、外に出て左っと。
従業員に言われた通りに向かい、ビルに入ると階ごとに店が違うらしく、そこから本屋の階を知る。
ふむふむ。3階か。………えっ、階段?
階段だとすごくきついわけだがさすがにそんなことはなく、エレベーターという素晴らしいものがある。
天界は空が飛べるからエレベーターなんてものはない。
エレベーターに乗ると、3階を選択した。
エレベーター特有の不思議な浮遊感を感じながら上へあがっていく。
3階につくと少し薄暗く、落ち着いた静かな空間が目の前に開けた。
聞こえる音は木の床を歩く一定のテンポの音と本を本棚から取り出すときの本と本がすりあう音。
俺が目的の本。
……………同僚に言えばおそらく笑われるかもだが、今はそんな奴らはいない。
恋愛小説が俺は好きだ。
我々神は恋愛というのはしない。恋なんてしないし、愛もない。とされている。
だが、我々神も人間に似ているらしい。自分が持っていないものは欲しくなるという欲求。
その欲求が俺はそこそこ大きいらしい。こういう本が好きになるぐらいには。
恋愛が好きな理由は?と問われても俺は答えることはできない。
好きな理由ということほど説明が難しいことはないと俺は思う。
好きなものは好き。だって好きだから。この名言があるのだから、理由なんていらないだろう。
そんなことを考えていると、恋愛小説コーナーについた。
題名は「最後の桜に」
なんとなく、手に取った一冊の小説。面白いかどうか。そんなことはあまり関係ない。俺の直感を信じるのみだ。
本をレジに持っていき、会計を済ませ外へ出た。
片手に本を持ち、ホテルへ向かった。
三日間部屋を取っておいてよかった。
ホテル内のロビーに入り、そのまま部屋へ戻る。
「ふぅ。」
なんか、すごく疲れた気がする。
下界に降りてからほとんど会話というものをしてこなかったからか、すごく疲れた。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
本を開き、読書という至高の時間を堪能し始めた。
「ふぅぅ。」
よかった。最高によかった。
小学6年生のころ、大好きだった幼馴染に告白した女性の話だった。
その幼馴染は、二十歳になった時、返事をこの場所で言うよ。そういい、お預けにした。
この告白の場所が桜の木の下だ。
桜というのは素晴らしいものだ。出会い、別れ。幸せや失恋。様々なことの象徴のような花だ。
中学生1年生まではその子は覚えていた。だが、中学2年生になるころには将来への進路などによって徐々に印象が薄れてゆく。
時は過ぎ去り、大学一年生。
一人暮らしに、新しいなれない土地での生活に胸を高鳴らせ、入学した。
その大学には、その幼馴染も一緒だった。
なれない一人暮らしなどもあり、二人は頻繁に連絡を取り合い、一緒にいるようになった。
そのなかで一緒に遊びに行ったり、勉強したりして仲を深めていく。
その中で少しずつ、異性として認識し始める。徐々に惹かれ始め、小学生の頃のように恋心が芽生え始めた。
そして、大学一年生が終わり、成人式が訪れた。
二十歳になった時。そういうのにとっておきの日だろう。
幼馴染から告白した桜のところへ行こうといわれ、覚えていない彼女はそれに応じた。
懐かしの地元で二人とも笑いあい、最後に桜を見に行った。
その桜の木の下で幼馴染は少し慣れない様子で笑みを浮かべ。
「忘れてると思うけど、ここで君が告白してくれたよね。その……君がよければその告白に答えさせてくれないかな。OKってことで。」
そういわれた彼女は驚いたような顔を浮かべ、それからすぐに頬をしずくが撫で、こういった。
「もちろん!」
すぐに幼馴染、いや彼氏に抱き着き、ハッピーエンド。
こんな話だった。
途中の話も詳しく書かれ、本当に、本当に泣きそうになった。
それに、文の長さも調節しているのか、告白したときにはちょうど最初の木の下の告白の記憶が俺自身も薄れていた。
何だろう。最後かもしれないからって読み始めた物語だけど、すごく感動した。
こんなに素晴らしい物語がある世界。
こんな世界をもっと知らずに死ぬ。それほど惜しいことがあるだろうか。
生きよう。そう、心の底から思った。
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