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天使様、平和な日常を噛み締める

読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩

 年が明け、アルセリオス王国はルミア月の厳しい寒さを抜け、アエリス月(2月)を迎えていた。王都セレフィアにも、少しずつ春の足音が近づいている。


 ロドエル魔導学院の石造りの校舎には、新学期の活気が満ちていた。

「おはよう、フェリックス、エリアス!」

「おう、レオン!おはよーさん!」

「おはよう、レオン君」

 レオンは、初等部の3年生――初等部の最上級生となっていた。

 9歳で入学した彼も、すでに11歳。身長も少し伸び、顔つきもほんのわずかだけ大人びてきた……はずなのだが、その「神が丹精込めて作り上げた芸術品のような天使の美貌」は健在であり、むしろ成長とともにその破壊力を増していた。


「レオン様、今日もなんてお美しい……」

「朝から眼福ですわ……」

 すれ違う下級生や同級生の令嬢たちが、ため息を漏らしながら頬を染める光景は、もはや学院の日常風景である。

(うーん、やっぱりまだ『ワイルドでカッコいい男』には程遠いかな……)

 レオンは内心で首を傾げながらも、完璧な微笑みで会釈を返す。そのたびに黄色い悲鳴が上がるのはお約束だ。


 ◇


 レオンにとって、このアエリス月を迎えるまでの冬季休暇は、本当に楽しく、充実した時間だった。

 昨年の暮れ、レオンたちは王都からグレイスフィールド領へと帰省した。母エレナやルチアも一緒の、大所帯での里帰りだ。領地のエルグレア城では、久しぶりに家族全員が揃い、温かい水入らずの時間を過ごした。

 そして迎えた、レオンの11歳の誕生日。

「レオン!私の天使がまた一つ歳を重ね、さらに神々しくなったな!兄は……兄は感無量だ!!」

 高等部へ進学し、ますます完璧な貴公子となった長兄アデルは、もはやお決まりとなった号泣を披露し、レオンを力強く抱きしめた。

「アデル兄様、苦しいよ……。それに鼻水が服についちゃいますよ」

 レオンは、苦笑して兄の背中をポンポンと叩く。

「おめでとう、レオン。初等部も最後の1年だな。せいぜい今のうちに威張っておくんだね」

 中等部で相棒のルキウスと共に相変わらず暗躍(?)している次兄ユリウスは、ニヤニヤと笑いながら、魔道士ギルドで手に入れたという珍しい魔導具をプレゼントしてくれた。ユリウスはこの秋に、魔道士ギルドに合格し籍をおいている。最年少で最難関合格と話題になった。

「ありがとう、ユリ兄様。でも威張ったりはしないよ」

 料理長クロノが腕によりをかけて作った、すっかりグレイスフィールド家の名物となった『でこれーしょん・けーき』を囲み、メイド長のカミラや護衛隊長のロイたち使用人も交えての、賑やかな誕生日パーティー。

『レオン様、おめでとうー!ケーキ食べよー!』

 子犬サイズの使い魔モリィも、尻尾をちぎれんばかりに振って大はしゃぎだ。家族の愛情に包まれた、最高に幸せな日々。レオンにとって、領地での冬休みはまさに心のオアシスだった。


 ◇


 しかし、楽しい時間というものはあっという間に過ぎ去るものだ。ルミア月も終わりに近づき、いよいよ新学期に向けて王都へ戻る日。エルグレア城の玄関前で、父マルクは地獄の底から這い上がってきたような悲痛な顔をしていた。

「……また、私を置いていくのか」

 マルクの声は震えていた。王都の学院に通うアデル、ユリウス、レオンの三兄弟。そして、ルチアの魔力圧縮の訓練と、ギルドでの自身の研究を理由に、母エレナまでもが再び王都の別邸へと赴くことになったのだ。

「マルクったら。そんなに大袈裟に泣かないでちょうだい。領地の経営はあなたとクラウスがいれば完璧でしょう?」

 エレナは悪びれる様子もなく、のんびりと微笑む。

「大袈裟なものか!この広い城で、また私一人きりで書類の山と格闘しろと言うのか!お前たちがいなくなれば、私の心の潤いはどこへ行けばいいのだあぁぁっ!血の涙が出そうだ!!」

 普段は「鉄仮面の侯爵」と呼ばれるマルクが、使用人たちの前で文字通り血の涙を流さんばかりの勢いで嘆き悲しんでいる。しかし、その痛々しい姿も、休み終わりに毎度となると、皆んな慣れたものだ。


「父様、泣かないでください。僕、王都に着いたら、前みたいに毎日お手紙を書きますから。胃に優しい薬草茶の淹れ方も、また新しいレシピを送りますね。離れていても、心はいつも一緒ですよ」

 レオンが背伸びをしてマルクの大きな手を両手で包み込むと、マルクは

「うおおおん!レオンぉぉぉ!」

 と息子を抱きしめて号泣する。使用人達は「はいはい」とばかりに、マルクとレオンを引き剥がす。

 そして、マルクは涙ながらに、馬車が見えなくなるまで手を振り続け流のが一連の流れとなった。


 ◇


 王都に戻ってからの生活は、目まぐるしくも充実していた。


 特に忙しそうにしているのは、母エレナだ。彼女は王都の別邸に滞在しながら、毎日のように魔道士ギルドの「ルーンの塔」へと通い詰めている。

 目的は二つ。一つは、特例でギルドに出入りしているルチアの、魔素過多症の制御と訓練に週に一度付き合うこと。そしてもう一つは、レオンたち三兄弟がかつて発明やらかしてしまった、あのとんでもない技術――『グレイスフィールド式・三位一体魔法圧縮法』の安全化と理論の体系化である。

 レオンの「ソフトウェア的術式構築」、ユリウスの「魔力の固定化」、そしてアデルの「器を鍛える力技」。この三つを融合させた究極の圧縮法は、一歩間違えれば魔核を破壊しかねない危険なものだった。エレナは、このオーバースペックな技術を、一般の魔法士でも安全に、かつ少しずつ段階を踏んで習得できるように、マニュアル化する作業に忙殺されていたのだ。


 ある日、別邸で、夕食に兄弟全員が集まったダイニングで、エレナは目を爛々と輝かせながら報告してきた。

「聞いてちょうだい!ギルドの研究者たちの間で、私が安全に調整した『基礎魔力圧縮』の鍛錬を取り入れる者が増えているのよ。そうしたら、なんと数名が、劇的な成果を出したの!」

「ああ、そういえば、聞いたな。母さんに脅されて特訓してる魔道士が何人かいる……」

 ユリウスが言いかけると、ナイフが飛んできた。

「うふふ。ユリウス。母さんは脅してないわ?お願いしただけよ?あなたは魔道士ギルドの下っ端なのだから、クリムゾン魔道士のエレナ様への言葉は選びなさいね?」

 ユリウスは、こくこくと頷いて、黙った。クリムゾン級は、上から2番目の称号。それを持つエレナの地位は、魔道士ギルド内に止まらず世間的に見ても相当高いものなのだ。


「今まで初級魔法を数回使うだけで息切れしていた魔力量の少ない研究者が、魔力を圧縮して高密度化することで、消費魔力を極限まで抑えた『省エネ魔法』を発動できるようになったのよ!威力はそのままに、魔力消費は今までの半分以下!これは魔法界の革命だわ!」

 エレナは興奮して、フォークを持ったまま立ち上がって熱弁を振るう。

「省エネ魔法か……。それは素晴らしいですね、母様。無理をして倒れる人が減るのは良いことです」

 レオンは、和江おばあちゃん的な「節約」や「エコ」の概念に通じるその成果に、うんうんと深く頷いた。


「ルチアの制御訓練も順調よ。元々のポテンシャルが規格外だから、きちんと安全な回路を作ってあげれば、いずれ王宮の筆頭魔導士すら超えるかもしれないわね」

「ルチアが……!すごいね、ルチア!」

 レオンが給仕をしているルチアを見ると、彼女は顔を真っ赤にしてお盆で顔を隠していた。

「そ、そんな、滅相もございません……!私はただ、レオン様やエレナ様のお役に立ちたいだけで……!」

「ふふっ。でも、あまり無理はしないでね、ルチア」


 アデルもまた、満足げに頷いていた。

「我がグレイスフィールド家がもたらした技術が、王国の魔法技術を底上げする。素晴らしいことだ。これもすべて、レオンの奇跡の発想があったからこそだな!」

「いや、俺の氷結理論と兄さんの脳筋特訓もあっただろ」

「ユリウス、兄に向かって脳筋とはなんだ!」

 相変わらずの兄弟のやり取りに、レオンはクスクスと笑う。王都での生活は、領地とはまた違う賑やかさがあって、とても楽しかった。


 ◇


 そして、学園生活。初等部3年生となったレオンは、チーム『寄せ植え』の仲間たちと共に、平和で和やかな日々を謳歌していた。昼休み、いつもの中庭の樫の木の木陰。ルチアが手際よく淹れてくれたハーブティーと、クロノ特製の焼き菓子が並ぶピクニックシートの上は、5人の笑顔で溢れていた。

「いやー、3年生ともなると、実技の授業も増えて燃えるぜ!俺、昨日の魔法の授業で、的を三つも同時に吹っ飛ばしてやったんだ!」

 フェリックスが、得意げに鼻をこすりながら身振り手振りで語る。

「フェリックス。威力を上げれば良いというものではありませんわ。貴方の魔法は粗野すぎます。もっと魔力制御を緻密に行い、美しく的を射抜くべきですのよ」

 ベアトリクスが扇子を優雅に広げながら、すかさずピシャリとたしなめる。

「えー!?魔法は当たってナンボだろ!」

「当たり前ですわ。その上で『品位』を保つのが貴族というものです!」

 また始まったフェリックスとベアトリクスの言い合い。入学当初はピリピリしていた二人も、今ではすっかり息の合ったケンカップル(?)のようなやり取りが板についている。

「まあまあ、二人とも。せっかくのお茶の時間がもったいないよ」

 レオンが微笑みながら、二人の間にイチゴ味のアメを差し出すと、二人はピタリと口を閉じ、

「……いただきますわ」

「……サンキュ」

 と素直に受け取る。この「天使の仲裁(物理)」は、もはやチームのお約束となっていた。

「レオン君の言う通りだよ。それに、フェリックス君の魔力量はすごいから、ベアトリクスが言うように制御を覚えれば、きっと学年でもトップクラスになれると思うな」


 エリアスが、温かいお茶を飲みながら優しく微笑む。かつては「出涸らし」と陰口を叩かれ、常に俯いていた第二王子。しかし、この2年間で彼はずいぶんと変わった。レオンたちと共に七不思議の調査を行い、古代語の解読で大活躍したことで自信をつけ、今では背筋をピンと伸ばし、自分の意見をしっかりと口にできるようになっている。その穏やかで知的な微笑みは、第一王子のジークハルトとはまた違う、多くの令嬢たちの心を密かに掴み始めていた。

「エリアスの言う通りだね。フェリックス、今度僕と一緒に魔力制御の特訓しようか」

「おお!レオンが教えてくれるなら百人力だぜ!」

「わたくしも……その、お付き合いしてあげてもよろしくてよ?」

「お、ベアトリクスも来るか!負けねーぞ!」


 和気あいあいとした空気の中、ルチアがおかわりのお茶を注いで回りながら、嬉しそうに目を細めている。

「皆様、本当に仲良しで……私、このチームにいられて幸せです」

 ルチアの言葉に、レオンは深く頷いた。

「うん。僕もだよ、ルチア」


 アエリス月の空はどこまでも青く澄み渡っている。初等部の最上級生となったレオンの学園生活は、まさに順風満帆そのものだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

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