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天使様、剣術大会に興奮する

読んでいただきありがとうございます!更新日は火・金・日予定です♩

 波乱に満ちた夏休みが終わり、季節はフェルム月(9月)。


 王都にあるロドエル魔導学院にも新学期が訪れ、石造りの校舎には再び活気が戻っている。夏休みの間に背がぐんと伸びた者、避暑地で日焼けした者、そして長期課題の提出に追われてげっそりしている者。様々な生徒たちが行き交う中、学院は今、新学期最初のビッグイベントの熱気に包まれていた。


 高等部の「剣術大会」である。

 剣術と魔法を組み合わせた実戦形式の試合が行われる巨大な闘技場。すり鉢状になった観客席は、上級生から下級生まで、多くの生徒たちで埋め尽くされていた。


 チーム『寄せ植え』の面々――レオン、エリアス、フェリックス、ベアトリクス、そしてルチアの5人も、特等席に陣取って熱い視線を送っている。


「いけー!そこだ、踏み込め!」

 フェリックスが身を乗り出して叫び、ルチアが

「フェリックス様、落ちてしまいますよ!」

 と慌てて彼の服の裾を引っ張っていた。

「やはり高等部の試合はレベルが違いますわね。魔力による身体強化の練度、剣への属性付与の切り替えの速さ……どれも参考になりますわ」

 ベアトリクスが扇子を片手に、感心したように解説する。


 レオンもまた、目を輝かせて闘技場を見つめていた。

「すごい……!アデル兄様、本当に強いね!」

 闘技場の中央では、高等部一年生であるアデル・フォン・グレイスフィールドが、上級生を相手に圧倒的な立ち回りを見せていた。

「フレイム・スラッシュ!」

 アデルの振るう剣に、美しく制御された青い炎が纏い、相手の防御結界を紙のように切り裂く。彼の剣技は柳のようにしなやかで、一切の無駄がない。


「勝者、アデル・フォン・グレイスフィールド!」

 審判の宣言が響き渡ると、観客席から黄色い歓声と万雷の拍手が湧き起こった。アデルは、涼しい顔で一礼し、闘技場を後にする。

「さすがは完璧王子だな。あんな連中、兄さんの敵じゃない」

 ユリウスが隣の席で退屈そうに欠伸をしながらも、兄の強さを認めている。


 レオンは立ち上がり、両手をメガホンにして叫んだ。

「アデル兄様ー!頑張ってー!!とってもカッコいいですよー!!」

 その鈴を転がすような声は、闘技場の喧騒を縫って、正確にアデルの「弟センサー」に届いた。ピクッ、とアデルの肩が跳ねる。彼が観客席を見上げ、身を乗り出して応援するレオンの姿を認めた瞬間、その背後に燃え盛る幻の炎が見えた気がした。

(レオンが見ている……!私の天使が、この私を応援してくれている!ああ、今の私なら、たとえ魔王が相手でも一太刀で両断できる気がするぞ!)

 アデルの剣技は、そこからさらに一段階、キレと速度を増し、並み居る強敵たちを次々と薙ぎ倒していった。


 ◇


 そして、ついに決勝戦。闘技場の中央で向かい合う二人の影に、会場のボルテージは最高潮に達している。

「決勝戦!アデル・フォン・グレイスフィールド、対、ジークハルト・フォン・アルセリオス!」

『完璧王子』と『天賦の王子』。王国の未来を担う、二人の天才の激突である。ジークハルト第一王子は、白銀の剣を静かに構え、王者の風格を漂わせている。その視線は鋭く、アデルを最大のライバルとして認めていることが伺えた。

「行くぞ、アデル」

「望むところです、殿下」

 試合開始の合図と共に、二人は弾かれたように激突した。


 ガキィィィン!!


 鋼と鋼がぶつかり合う甲高い音と共に、凄まじい衝撃波が闘技場を吹き抜ける。ジークハルトの剣には、高密度の光属性魔法が付与され、一振りごとに目くらましの閃光と圧倒的な切断力を生み出す。対するアデルは、炎の魔法を剣に纏わせ、ジークハルトの猛攻を紙一重で躱しながら、鋭いカウンターを狙う。

「シッ!」

 ジークハルトの連続攻撃。上段、袈裟斬り、そして足元をすくう鋭い一撃。アデルはそれを華麗なステップで躱し、炎の刃をジークハルトの懐へと滑り込ませる。

「甘い!」

 ジークハルトが光の盾を展開し、アデルの剣を弾き返す。


 二人の攻防は、瞬きをする間も惜しいほどに高速で、そして芸術的だった。魔力と剣術が高次元で融合した戦いに、観客たちは息を呑み、魅了されていた。レオンもまた、手に汗握りながら試合を見守っている。

「どっちもすごい……!フェリックス、今のはどうなったの!?」

「わっかんねえ!けど、すっげえ魔法のぶつかり合いだ!剣も早過ぎて見えねぇ!」

 エリアスも、無言で闘技場を見つめていた。兄ジークハルトの完璧で力強い姿。それは彼にとって憧れであり、同時に絶対に越えられない巨大な壁でもあった。


 試合は拮抗していたが、徐々にジークハルトが押し始める。

「はぁぁぁっ!」

 ジークハルトの剣から放たれた光の波動が、アデルの体勢を崩す。アデルは咄嗟に炎の壁を作って防御するが、その僅かな隙を突かれ、ジークハルトの剣の腹がアデルの首筋にピタリと止められた。

「……勝負あり!勝者、ジークハルト・フォン・アルセリオス!」

 大歓声が闘技場を包み込む。アデルは小さく息を吐き、剣を引いた。


「……私の負けです、殿下。見事な剣筋でした」

「君もな、アデル。最後のあの炎の壁に隙がなければ、私が危なかった」

 二人は互いの健闘を称え合い、固い握手を交わした。清々しい、ライバル同士の素晴らしい光景だった。

「アデル兄様、惜しかったね!でも、すごくカッコよかった!」

 レオンは、負けてしまった兄の健闘を心から称え、力の限り拍手を送っていた。

 フェリックスも「いやー、いいもん見たぜ!」と笑い、ベアトリクスも「素晴らしい試合でしたわ」と頷いている。


 ◇


 しかし。興奮冷めやらぬ観客席で、レオンが「すごい試合だったね!」と隣のエリアスに話しかけようとした、その時だった。

「……アデル先輩も、大したことないね」

 ポツリと。低く、冷たく、どこか嘲笑するような響きが、エリアスの口からこぼれ落ちた。

 レオンが振り向きエリアスを見ると、蒼い瞳は、普段の優しく温かい光を失い、まるで深淵を覗き込むように暗く、濁っている……。

「え……?エリアス?」


 レオンは自分の耳を疑った。エリアスは、なおも無表情のまま、感情のない声で続けた。

「兄上に忖度して、わざと手を抜いたのかな。あんなの、ただの茶番じゃないか」

 その言葉は、あまりにも冷酷で、普段の心優しく内気なエリアスからは絶対に考えられないものだった。フェリックスの笑顔が引きつり、ルチアも信じられないものを見る目でエリアスを見つめている。チームの空気が、一瞬にしてシベリアの永久凍土のように凍りついた。


「……エリアス!」

 レオンの口から、今まで出したこともないような、怒りに震える声が飛び出した。

「今、なんて言った!?」

 レオンは立ち上がり、エリアスを強く睨みつけた。

「アデル兄様は、絶対にそんな人じゃない!あの試合を見ていれば分かるはずだ!兄様は本気で戦っていたし、ジークハルト殿下も素晴らしかった!」

 レオンの瞳に、怒りの涙が滲む。彼にとって、アデルは少し過保護で面倒くさいところはあるが、誰よりも尊敬する、大好きな兄だ。その兄の真剣な努力と、死力を尽くした戦いを「忖度」や「茶番」と侮辱されることは、何よりも許せないことだった。

「二人の真剣な戦いを、そんな風に言うなんて……いくらエリアスでも、許さない!」


 レオンの激しい怒号に、エリアスはビクッと肩を震わせた。そして、ハッと我に返ったように、焦点の合っていなかった瞳に光が戻る。

「え……?」

 エリアスは、怒りに震えるレオンと、青ざめた顔で自分を見つめる仲間たちの姿を見て、激しく混乱しているようだ。

「ぼ、僕……今、何を……」

 自分の口から出た言葉の残響が、遅れて耳の奥にこびりつく。


『アデル先輩も大したことないね。兄上に忖度して手を抜いたのかな』


(違う!僕じゃない!僕がそんなこと、思うはずがないのに……!)

 エリアスの顔から一瞬で血の気が引き、呼吸が荒くなる。なぜ自分がそんな、人を傷つけるような酷い言葉を言ってしまったのか、全く理解できなかった。頭の奥が、霧に包まれたように靄がかっていて、自分の意志とは無関係に、どす黒い感情がぽろりとこぼれ落ちてしまったような、そんな不気味な感覚。


「ち、違うんだ……!レオン君、違う……!」

 エリアスは、震える両手で自分の顔を覆った。彼の瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。

「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい!アデル先輩を馬鹿にするつもりなんて、なかったんだ!どうしてあんな言葉が出たのか、自分でも分からないんだ……っ!」

 子供のように泣きじゃくりながら謝罪するエリアス。その姿は、悪意を持って人を貶めた者のそれではなく、自分自身の制御できない何かに怯える、ただの弱い少年のものだった。


 レオンは、泣き崩れるエリアスを見て、怒りが鎮まり冷静になってくる。

(エリアスの様子が、おかしい……)

 普段のエリアスは、他人の痛みに敏感で、絶対に人を傷つけるような言葉を吐く子ではない。先ほどの冷たい声と、今の取り乱し方は、まるで別人のようだった。

(もしかして……何か、ひどく思い悩んでいることがあるのかな……?ジークハルト殿下と比べられるプレッシャーで、心がパンクしちゃったとか……?)


 レオンは、エリアスの隣にしゃがみ込んだ。

「……エリアス」

 レオンは、震えるエリアスの背中を、優しく、トントンとさすった。

「もう、いいよ。……もう、あんなこと言わないなら、許してあげる」

「う、うぅ……っ、レオン君……ごめんなさい……っ」

「泣かないで。エリアスが本当に悪い奴じゃないことくらい、僕が一番よく分かってるよ」

 レオンの温かい言葉に、ルチアも

「そうです、エリアス様。きっと、お疲れだったんですよ」

 とフォローを入れ、フェリックスも頭を掻きながら、

「まあ、誰だって口が滑ることくらいあるさ!気にすんな!」

 と明るく場を和ませようとする。


 仲間たちの優しさに、エリアスはしゃくりあげながら何度も頷いた。

 しかし、レオンはエリアスの背中をさすりながら、心の中に小さな、しかし拭いきれない引っかかりを感じていた。

(エリアスのあの冷たい瞳……ただのストレスや口の滑りとは思えない。なんだか、もっと深く、黒い何かが蠢いているような……)


 秋風が、闘技場の観客席を吹き抜ける。その風は、楽しかった夏休みの余韻を切り裂くように冷たく、彼らの学園生活に不穏な影を連れてきているように思えた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

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