表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真円〜The Perfect Circle〜  作者: 守山みかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/22

国際法人3

当社の書庫は、本社1階の(すみ)っこの方にあり、10坪程度の広さ、高さ5メートルくらいの天井に届く1メートル幅の高所棚が均等間隔に3列並んだ程度の容量がある。

現場からお()がりになった高所作業用の小型ピッカーが、部屋の角で、遠慮気味に、こちらに背を向けていた。

三住さんは、私たちに入口付近で待つように指示し、奥の方に入りこんでいった。

ヨイショ、と気合を入れているような声が数回聞こえてきた後、2(さい)くらい(≒宅配便の120ケース)の段ボールケースを両手で抱えて、戻ってきた。

「私が持ちます」

函崎氏が気づかって三住さんに近づき、箱を受け取ろうとした瞬間に悲鳴を上げた。

「うわ……何…この重さ………」

函崎氏は、ケースを両手で持ったは良いが、一歩も足を前に出せずにいた。

「やっぱり、ボクが持つよ。気持ちだけ、ありがとう」

三住さんは、ヒョイと函崎氏からケースを取り上げた。

「そんなに重いものを、よく持ち上げますね」

函崎氏の声は、完全に裏返っていた。

こういうところが、私の師匠のオトロしいところなのだよ。

60歳過ぎてるけど、たぶん、筋力なら、私たちより断然強いと思う。

年配の物流マンあるあるな話なのかもしれないけどね。

応接室に戻り、古びた段ボールケースをテーブルの上に乗せて、いよいよご開帳〜となった。

まず目についたのは、見出しに『新たな福利厚生サービスのご紹介』と書かれた説明資料だった。

プレゼンアプリで作ってるものだね。

作成したのは、当時の総務課長かな。

三住さんは、悪策と認めたことに対しては、当然に協力はしなかっただろうからね。

始まって5枚くらいは、年金制度に関する不安とか不満とかネガティブな説明資料。

『厚生年金が崩壊して、将来は基礎年金のみになり、年金額が大幅に減少』

『◯◯ショックの影響で、年金運用に懸念あり』

『これからは、自分自身で資産運用する時代』

何かいろいろ書いてあるけど、当時の状況を表しているのかな。

20年くらい前なんで、私がまだ小学生で、美少女やってた頃だね。なんちて。

「当時の政府の不祥事が影響して、年金制度が槍玉(やりだま)に挙がってね」

と、三住さんが説明を始める。

「いろんな陰謀説が浮上して、政府への信頼が地に落ちた時代だったんだ。

そこへ、この福利厚生制度が舞いこんできた、というわけだよ」

「年金制度について、説明する資料がありますが」

函崎氏が何枚かを手に取って、少し不満そうに口を(とが)らせた。

「『積立金が消滅する』なんて、間違った説明になっています。

日本の年金制度は、現役世代が所得に応じて保険料を納付する賦課(ふか)方式で、個別の『積立金』というものは、制度的に存在しません」

「わかってるヒトは、すぐに気づけるけど、わかってないヒトの(ほう)が、ほとんどだからね」

「これを作ったヒトは、年金制度を知らなかったのでしょうか?」

「わかってて、作ってたかもしれない。

不安がらせるのが目的ならね」

「説明資料では、年金保険料の支払額を下げられる、となっていますが、どんな制度だったんですか?」

「まず海外に、当社の関連法人を立ち上げた。

そこの代表は、現地に住んでいて、コンサルタントから依頼を受けたヒトだ。

業種は、当社と同じで、貨物取扱と倉庫管理に関連する事業。

当社の取締役は、一切の関わりを持たない。

つまり、出資者ではあるが、全くの別会社だ。

そこに、出向を希望する社員を募集する。

募集人員は200名ほどとリーフレットには記載があるが、実際には上限を設けていなかった。

最終的に出向希望者は、500名以上集まったよ」

「それは、外国籍にできる制度だったわけですね」

と、函崎氏。

三住さんは笑顔を見せる。

「社労士の函崎さんなら、よくご存知だと思うけど、『社会保障協定』の未加入国に法人を設けたんです。

配属先と居所は、その法人のある辺りに転居する設定となります。

でも、実際の居所は、現状の国内住所のままです。つまり、待機期間ですよ」

「出向の決定があるまで、ということですね」

と、函崎氏が(たず)ねた。

「そのとおり」と、三住さんは答えた。

「でも……わかるでしょ?

国際法人なんて『張りぼて』だからね。

そもそも会社は、出向させる気なんかないんだ。

みんな、普通にそれまでと同じ仕事をしてるだけだ」

「だとしたら……それは………」

私が言おうとしていた言葉に、函崎氏も便乗してきて、こう言い放った。

詐欺(さぎ)じゃないですか!」

キレイにそろったね。

三住さんが驚いた顔をした。

「キミら、相性がいいね」

「そう思いますよね」

函崎氏が(わる)乗りして、追随した。

「私は、そう思ってるんですよ。

でも、雨森さんってば、認めてくれないんです」

何をぬかしておるんだろね、この男は。

私に何を認めてほしいのさ。

私はイヤそうに目を細めて、函崎氏を見た。

函崎氏は、相変わらず陽気な笑顔だったよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ