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真円〜The Perfect Circle〜  作者: 守山みかん


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20/20

国際法人2

とりあえず『国際法人』に関する情報を集めようと、労務課の片谷課長に(たず)ねてみた。

入社した年代が私+3年くらいだから、知らないだろうな、と思っていたが、やはり知らなかったようだ。

それはともかく、粂川(くめかわ)さんの賃金台帳を調べてもらった。

私の権限では、これが出せないから、お願いするしかないのね。

賃金台帳とは、給与支払額を記録したものだが、私の目当てはいくら支払われたかではなく、いくら控除されたか、だった。

つまり、『天引き』の状況ね。

粂川さんが『第4チルドセンター』で働いていた全期間の情報が欲しかったんだけど、7、8年前に給与システムの入替えを行ったときに、紙で残っていた古い記録類を処分したそうで、その当時の税法上で保管義務があった期間のみ電子的に残されたということで、粂川さんが退職する直前の5年分くらいしか確認できなかった。

とりあえず、それを印刷したよ。

1年分が1枚にできたから、全部で5枚ね。

「妙ですね」

パラパラっと、台帳に目を通した程度に見えたんだけど、さっそく社労士の函崎(はこざき)氏が違和感を(とな)えた。

「この一番古い台帳ですけど」

函崎氏は、該当する台帳を私の方に向ける。

「1月から3月まで、給与支払額が極端に少なくなっています。厚生年金保険料も、おそらく最低等級の標準報酬月額(保険料を計算するための区分)で計算されていると思います」

確かに。

4月以後が、たぶん普通の給与だと思うけど、3月まで3分の1くらいまで下がってた。

さらに不思議なのは、雇用保険と健康保険は同じ額が引かれてるとこかな。

「労働時間も、他の月と変わってないようです。

4月に月額変更の手続きをしたのだと思いますが、結局は健康保険料は据え置きのままで、年金保険料だけが変動しているようです。

私にはなぜそのようなことができたのか、不思議に思います」

事実確認完了。

理由は不明だが、確かに年金保険料が、『空白』ではないにしても、著しく低くされていた期間が存在していました。

さて、じゃあ、次はどうするかな。

ここは……そうね…私の師匠に相談してみるかな………

総務課の三住(みすみ) 明雄(あきお)さん。

今は、定年を迎えて、役職を解かれているけどね。

内線電話で三住さんを呼び出して、応接室まで来てもらうようお願いした。

若い頃は、トラックの運転、コンテナのデバン作業から物流システム開発の技術者、円熟期には総務、法務にISO認証の事務局長までこなしてきたという大ベテランで、定年後も、幹部からの相談事を引き受けるなど、まだまだ頼りにされている存在だ。

そして、私に仕事を教えてくれた恩人だ。

まもなくして、白髪頭に金属フレームの眼鏡をしてて、背が高くて、割とガッシリした体格の老男性が現れた。

まずは、初対面の函崎氏と名刺交換。

函崎氏は、いつもの積極姿勢を(おさ)えて、かなり腰が低い感じ。

ま、三住さんを相手にして、高圧的に振る舞えるほどの神経って、鉄骨級かもしれないね。

「さて、何か問題でもあったのかな?」

「じつは………」

函崎氏が説明を始めようとしたのを制して、とりあえず粂川さんの賃金台帳を三住さんに手渡した。

「これを見て、何が起きているかわかりますか?」

私は、そう切り出してみた。

「クイズかな? どれどれ……」

三住さんは、それを受け取り、じっと見つめていた。

「『第4チルド』にいたヒトだね」

まずは、それ。

さらに、20秒ほど眺めた末に、こう言った。

「厚生年金保険料が引き下げられてる期間があるね。

『国際法人』の所属に同意したヒトだね。

年金額が少ないとか、何か言ってきたのかな?」

スルスルとそれが出てきたところで、函崎氏が「うそー!」と声を上げた。

「これだけで、わかっちゃうんですか?」

私は、少し鼻を高くして、

「このヒトが、私の師匠なんです」

と、私は誇らしげに、改めて三住さんを函崎氏に紹介した。

「大したことじゃないよ」

三住さんは、照れくさそうに言った。

「会社の出来事を覚えていただけだよ。

忘れてることも多いんだけどね。

これは、たまたま覚えてる方に当たった、というだけだ」

「私は、三住さんとは、2年くらい一緒に仕事をしました」

私の声に、函崎氏が真顔で耳を(かたむ)ける。

「その2年間で、実にたくさんのことを経験させていただきました。

私にとって、()()えのない、とても貴重な経験でした。

私は短い期間でしたけど、三住さんは何十年も会社の問題に立ち向かってきたヒトです。

とても数多くのことを覚えていらっしゃることを、私はよく知っています」

「それは持ち上げすぎ」

三住さんは、笑顔で言った。

「さっそくですが、その『国際法人』がどんなものなのか教えていただけますか?」

函崎氏は、興奮気味に声を震わせながら、三住さんに訊ねた。

これは、好奇心モリモリだね。

「20年くらい前かな。

コンサルタントを名乗る税理士がいてね、そのヒトは税理士以外の資格は持ってなかったんだけど、福利厚生の提案として、年金保険料を引き下げられると持ちかけてきたんだ。

社員だけでなく、会社負担分も合わせてね。

年金制度について、間違った知識も入ってて、私は信用できないと思ったけど、当時は、世の中全体が年金制度に対する不信感みたいなものを持っててね、そこをうまく突いてきた感じのね。

私は反対しましたよ。

でも、社長がかなり乗り気で、採用を決定してしまったんだよ。

反対してた私は、造反社員の扱いになってね。

まあ、私のことなんか、今はどうでも良いんだけどね。

何年か、制度を続けていたんだけど、そのコンサルタントが逮捕されたって事件があってね。

そのニュースを聞いて、すぐに廃止されたよ。

まあ、結果的には悪意のコンサルタントに乗せられた話ってことだね」

「何ですか、それは!」

函崎氏が驚きの声を上げた。

「そんなの業界でも聞いたことがないです。

ぜひ、詳しく教えて下さい」

三住さんは、函崎氏の熱意に対して、ほんわりと笑顔を返して、

「書庫に関係書類が保管してあるから、それを見に行こう」

と言った。

あっと……私は、社外のヒトを書庫に入場させる許可をもらわなきゃね。

社長確認……っと………

さてさて、何が出てくるかな。

楽しみだね。




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