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真円〜The Perfect Circle〜  作者: 守山みかん


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19/19

国際法人

金曜日のそろそろ正午を迎えようとするタイミングで、スマホに通話の呼び出しが、やはりあった。

やはり。

予想どおり、である。

《ちあす。社労士の函崎(はこざき)ですう》

「近くまで来ているので」

私が口を動かすと、函崎氏と波長が見事に一致し、函崎氏は快活に笑った。

私の方は笑わないよ。

だって面白くも何ともないからね。

《やはり、ボクと雨森さんの相性は、バッチリですね》

うるせえよ。

月1にしてくれって言ったのに、毎週寄って来やがる。

本社から車で5分くらいのファミレスで、毎週金曜日の恒例となったランチタイムを迎える。

《今日も、ボクがごちそうしますからね。

お財布の心配は無用です》

それも、気になるんだよね。

ツケになってるんじゃないかって。

だいたい2,000円前後くらいの肉中心の料理を注文する。

毎週やってるから、月額顧問料の10,000円をほとんど私が食い尽くしてることになる。

いつか、何かのきっかけで全額回収に来たりしてね。

その時は、カラダで支払うしかないかな。なんちて。

函崎氏からは、特定社労士として30社以上顧問契約している会社があるって聞いてるんで、私とは息抜き(レクリエーション)みたいなモノなのかもしれない。

ヒト目を気にせずに、食欲に任せて肉にかぶりついてたら、私のスマホから着信メロディーが流れた。

通知者を確認すると、何と社長からだった。

店内で通話に応じるなんてマナー違反は、私はしないので、函崎氏をテーブルに残して、そそくさと店外に出た。

《休憩中にすまない》

低姿勢な社長の声。

少し動揺している感じ。

《『内容証明』が届いているんだ。キミに確認してほしくて、電話した》

『内容証明』か……そういうの久しぶりだね。

(ふう)を開けられましたか?」

私が(たず)ねると、《いや、まだだ》と回答があった。

《キミの机の上に置いておくよ。

戻ったら、内容を確認してほしい》

「承知しました」

電話は切れた。

ちょうど函崎氏がいるしね。

手伝ってもらおう。

函崎氏に訳を話すと、目をキラキラ輝かせて、快諾してくれたよ。

トラブル大好きな体質だからね。

さっそく本社に戻って、小会議室に函崎氏を連れこんで、社長宛になっている『内容証明』をご開帳、っと。

文書はワープロ打ち。

等間隔に並んだ、隙間だらけの文字配列は、『内容証明』特有のもの。

差出人は、粂川(くめかわ) 克匠(かつぞう)

タブレットをテーブルの上に出して会社の基幹システムにログイン。

既存社員のマスターに登録はない。

退職社員の方では……おっと…あったぞ………

10年以上前に、同一名で退職しているヒトがいる。

県外のS県にある『第4チルドセンター』で、乗務員として20年以上働いていたようだ。

表示画面を室内に設置してある外部ディスプレイに出力して、函崎氏にも見えるようにした。

「退職日から、ずいぶんと()ってますね。不払賃金関連ではないですね」

函崎氏が言った。

珍しくマジメな顔。

いつも、そうしてくれてればイケメンで、いい感じなんだけどね。

私がじっと見つめているのに気づくと、たちまちニヤケ顔になって(くず)れてしまった。残念。

確かに、不払賃金だったら、完全に権利が時効で消滅してしまってるからね。

退職時の年齢が65歳、となってる。

つまり、現在は、若くても75歳くらいになってる、ってことだね。

見出しは、「通知書」とされている。

それでは、本文を読み上げます。


官省

市村輸送株式会社の社長様。

私は、御社に雇用されていた粂川 克匠と申します。

第4チルドセンターのルートドライバーとして◯◯年から△△年までの約20年間、勤め上げ、嘱託社員としての年季が明けてから、年金暮らしの毎日を送っております。

この年金についてですが、あれはいつ頃でしたか、御社は私に対して、とある提案をなされたことを覚えておいでですか。

あの提案内容ですが、当時の大嶋センター長様に(すす)められて、私もよくわからないままで同意書にサインしてしまいました。

あの頃は、年金に対して、いろんな不安が飛び交ってましたな。

当時の政治不信もあって、年金記録が消えた、なんて事件もありましたな。

将来、制度が無くなってしまうから、保険料は払うだけムダなどと、大嶋センター長も声を上げて説明されて、私もそれに乗せられてしまったのであります。

あの時のセンター長の声は、会社の声でもあったんと違いますか。

年金しか収入がない老人を見捨てるような、そんな地獄絵図のような世の中を、あの時は想像させられましたが、ご承知のとおり、年金制度は無くなっておりません。

あとから知ったんですが、そんな簡単に無くなる制度やなかったんですな。

少なくとも、私が生きてる間は、無くならんでしょう。

でも、実際に年金に頼る生活をするようになって、あの時の軽率な判断が、今になって骨身に()みております。

普通に仕事をして、普通に給料もらって、普通に生活してたら、年金だって、それなりにもらえたはずなんですが、変な口車に乗せられたおかげで、年金記録が消え、もらえる年金が減ってしまいました。

同意した私が悪いと思いますが、(なか)ば強制的に呼びかけてきた会社にも責任があるのではないかと思います。

あの『国際法人』の話を出してこなければ、私は普通に生活できたんです。

そのことでご相談をお願いしたいです。

ご都合の良い日程を教えていただければ、こちらから(うかが)います。

返事、お待ちしております。

早々


(さむらい)の書いた文章じゃないですね」

全文を読み終えて、函崎氏が()らした最初の一言が、それだった。

ここで言う『士』とは、社労『士』、弁護『士』、行政書『士』といった専門職のヒトたちのことだ。

「『年金記録が消えた』というのは、年金保険の未加入期間が意図的に作られた、ということですかね。

適用事業所が、強制加入の年金保険から逃れる手段なんて、政府によるキビしい取り締まりで、実際、不可能ですよ。

こんなのは、あり得ません」

函崎氏は、熱く語る。

私も同意見だけど、このキーワードが気になるね。

……国際法人………

もしかして、市村(うち)(やみ)歴史か?

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