25 温厚な二階
翌日の昼休み。ゆいは美術の先生に雑用を押し付けられ、美術室に来ていた。
ゆいは抱えた段ボールを見て、改めて自分の不甲斐なさを感じていた。
ゆいが美術室に入ると、そこには二階がいた。
「あら。あなた、生徒会の……」
二階はゆいに気づいて、筆を持つ手を止めた。
じっと真っすぐにゆいを捉え、その背筋はすっと伸びていた。
「しょ、書記の、哀川ゆい、と申します……」
ゆいは二階の気迫に及び腰になった。
「ああ、哀川さんだったわね」
二階はゆいが両手で抱える大きな段ボール箱に視線を向けた。すると、ぱっと立ち上がり、ゆいの持つ段ボール箱を持ち、美術準備室へと運んだ。
「私、美術部員だから。場所は分かるわ」
「あ、ありがとうございます……」
ゆいは自由になった両手の所在を失い、ぎゅっと手を組んだ。
二階はゆいの一挙一動を注視していた。
「……哀川さん、生徒会はどう?」
「ど、どう、とは……?」
ゆいはマサキの処遇について訊かれていると思い、身構えた。
「ふふ。そんなに緊張しなくていいわよ。何も取って食おうっていうわけじゃないんだから。単に世間話として、生徒会の雰囲気とか、どんな感じかしら?」
二階は柔らかく微笑んだ。
生徒会室に来たときの剣幕とは程遠いもので、ゆいはほっと胸をなでおろした。
「そうですね……みなさんとても、変わった……というか、個性的かなとは思います……」
呪いのことは話せないので、ゆいは精一杯に状況を伝えた。
「そう……ああ、そうだ。憧れの生徒会長は、どんなかんじ?」
「あ、憧れ?!」
ゆいは選挙演説で高峰のようになりたいと話したことを思い出し、恥ずかしくなった。
「ええ。高峰くん、すごいものね。生徒会としての仕事をこなしているのは、まあ当然のこととしても、先生と生徒の間で上手く仲を取りもっているし、人前で話す力もある。まさに、生徒会長っていうかんじよね。彼、二年生の間でもけっこう人気あるのよ?」
二階は長く伸びたポニーテールを右手でさらりと揺らした。その様子はとても優雅で、ゆいは息をのんだ。
「あの、生徒会長が……モテるというのは、やっぱり、本当なんですか……?」
ゆいは訊いてみた。
「そうね。高峰くんはしょっちゅう告白されてるのよ? なんだか笑っちゃうけどね」
二階はふふふと笑った。
「あ、あの、やっぱり、王子さまっぽいところがウケているんですかね……?」
ゆいは生徒会室の外の、全校生徒が知る、呪われた状態の高峰を思い浮かべた。ゆい自身がそうであったように、ほかの女子生徒も呪われた高峰を好いているのだろうと思った。
「王子さまだなんて……!」
二階は手で口元を抑え、ふふふと腹から笑った。
「い、いえ……! これは一般論と言いますか、私の主観というよりは、その……!」
「たぶん、高峰くんがモテるっていうのは、ギャップ萌えよ」
二階は少し遠い目をして答えた。
「ギャップ萌え、ですか……?」
「ええ。だって、高峰くんがモテるようになったのって、生徒会長になってからの話だもの。きっと、それまでの彼とのギャップがウケているんじゃないかしら?」
ゆいには二階のいう「ギャップ」がよくわからなかった。ゆいが入学したとき、高峰はすでに生徒会長だったため、生徒会長になる以前の高峰をゆいは知らないからだ。
「どういうギャップですか?」
「そういえば、哀川さんは一年だから知らないかもね」
二階はゆいの耳もとに近づいて声を潜めた。
「高峰くん、一年生の頃は学年一の不良だったのよ? それがあんな貴公子になってしまうんだもの。みんなそのギャップにやられちゃったんじゃないかしら?」
ゆいは生徒会室での高峰を思い、きっと二階の評価は正しいのだろうと思った。
「私、高峰くんと同じクラスだったから、よく覚えているわ。ああ、衛藤といたかな」
「ええ! 先輩方、同じクラスだったんですか……!」
ゆいは二階が高峰と衛藤と知り合いであることに驚いた。




