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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第80話 みんなのリカータ商会

 明るいうちに狸族の村に到着した。


 ここまで何にも問題なしだ。いや、楽だね馬車の旅。


 町に向かう時に馬のおっちゃんの馬車にちょっとだけ乗ったが、あの時は尻が痛かった。だが、俺は学習した。


 アニさんに餞別せんべつで貰った革のマントをクッション代わりにすれば大分楽だ。リカータさんは普通のクッションを最初から使ってるし、ペタなんか休憩場所からここまでマントにくるまって寝ていた。見張れよ護衛。


「今日は何も起きなかったっすね」


 テントが建てられて行くのを眺めながら、リカータさんに言う。まあ何も起きないのが一番良いんだけど、お金貰ってる以上、役に立たなきゃなあって気にもなる。そもそも、今やってるテント建ても本当なら俺も参加するところだ。


 でもやり方が分からない。だからいい。


 リカータさんはニコニコしながら、


「何も起きないのが一番良いんです」


 と、俺と同じ意見だ。よし。まあ、この人はあっちこっち移動するんだから、毎日事件が起きたら大変だろう。護衛が役に立つなんて、たまーにで良いんだ。俺が役に立つ時ってのは危険な時なんだから。テントには役立たない。




 テントがどんどん建てられてるのは村の外だ。流石にこの数の馬車と人族が村に一気には入れない。まあ、リカータさん始め商人の偉いさん達は村の中央の宿に泊まるらしいが、護衛のほとんどはここで荷物番だ。


 俺とペタも、リカータさんと同じ宿に泊まれるらしい。重要人物班って事だな。でも良い宿に泊まれるのは嬉しい。まあ大部屋だろうけど。


 ただ、その宿では最近、虎族惨殺事件があったな……なんか出ないよな。


「ホントにリカータさんも一緒に来るんですか?」


 俺が聞いているのは晩飯の話だ。俺とペタは晩飯だけはマスターさんの宿で食うと決めている。まだ片手しか使えないだろうが、あの人の肉料理を食わなければこの村に来た意味がない。と、ペタとも意見が一致している。


 そういや手紙の配達も頼まれていたが、そんなのは肉のついでだ。


 ペタのとめどないよだれを見ながら、リカータさんは言う。


「ここの宿のご飯は、もう食べ飽きましたから。そんなに美味しいなら一度ぐらいは行ってみないと」


「おお!ぜっぴんだぞ!にくじるのこうずいだ!」


 洪水はお前のよだれだ。Tシャツで拭くな。テーブルマナーの先生が必要だな。だけど、テーブルに着く前のマナーからコレだから誰に教わればいいか分からない。






「らっしゃい!お客さん今日はお泊りで?お食事で?」


 マスターさんの宿に入った途端に元気な声が聞こえた。よしよし真面目にやってるな。どっちか分からない方。


「よう、久しぶり」


「よう!ひさしぶりだな!」


 俺とペタが声を掛けると、ハイエナ1か2のどっちか分からない方の顔が青くなった。いや、何度も言うけど色は分からない。でも表情が読めるようになった。


「まほ……ゲフゲフ、ど、どうもお久しぶりで」


 ああそうか、まだ黙ってんだな。偉いじゃないか。


「もう魔法使い族ってのは隠してないから好きに呼んでいいぞ。今日は飯だけで良いんだけど、マスターさんいる?」


「へい、親分なら奥に……げぷっ!」


 奥から出て来た巨漢の虎族に殴られるハイエナ1か2のどっちか。親分って呼ぶクセは抜けてないんだな。


 そしてマスターさんは懐かしい虎の刺繍ししゅうが入ったエプロンだ。相変わらず可愛い模様だ。作者の奥さんは奥にいるのかな?


「よう坊主に嬢ちゃん。来たな」


「マスターさん!にくをくれ!はやく!」


 ペタ、再会を喜ぶ暇をくれよ。まあ数日だけど。


「え?マスターって、金章のギルドマスター様?え?」


 あ、その辺の事リカータさんに話すの忘れてた。目がグルグルしてるわ。と思って見ていたら急にリカータさんが動いた。目がグルグルからギラギラに変わった。


「サインください!」


 マスターさんに詰め寄るリカータさん。そのサインは契約書じゃないだろうな。





「おいしい……この値段でこの味?変よ、絶対利益が出ないわ。まず、材料だけでも大銅貨は使うはず……」


「ミーアキャットの嬢ちゃん。そこは腕だ、あとは経営努力だな」


 リカータさんのつぶやきに、手紙から目を上げて律儀に答えてあげるマスターさんは偉いと思う。あと、ペタは相変わらず「もりのめぐみが……えもいわれぬ」とかリポートしながら幸せそうだ。うん、こいつら黙って味わえ。


 マスターさんの左手はまだ吊られたままだ。片手でこの料理を作るとか凄いな。今は俺達の近くに椅子を持って来て座っている。そこで俺が持って来た細目長さんからの手紙を読んでいる。


「坊主、今日はどこに泊まるんだ?真ん中の宿か?」


 手紙を読み終わったマスターさんが聞いて来る。急いで肉を飲み込んで答える。


「ああ、はい。護衛で来てるんで、この人と一緒に」


「ここに泊まります!」


 えー、なんかリカータさんがおかしな事言いだした。だってここ、宿屋としてはボロいぞ。飯が美味いだけだぞ。俺はあっちの綺麗な方で寝たい。


「え、急にそれは宿の方も困るんじゃないかなー。ねーマスターさん」


 出来る限りのアイコンタクトをマスターさんに飛ばす。バチバチ、気付け!


「おう。部屋は空いてるから泊まってけ」


 通じなかった。ガックリと肩を落とす俺。ニコニコ顔のリカータさん。


「じゃあ、個室2つでいいな?すぐ用意させるからよ」


 マスターさんはハイエナ1か2のどっちかに声を掛けながら、店の奥に入って行った。


「あのぅ、ここ、ベッドとか固いし、体拭くのも外の井戸ですよ」


 マスターさんに絶対聞こえないように、小声でリカータさんにささやく。だが、リカータさんの意思は固かった。


「だって、金章のギルドマスター様と、銀章の魔法使い族ハルキ様がいるんですよ?帝国内でも最高クラスに安全じゃないですか!しかも安い!食事は高級店以上!ベッドなんてなくても良いです!なんなら井戸だっていらないわ!」


 うわ、熱く語られた。


「ペタもいるぞ!」


 ああ、長旅に慣れてるから外で寝るのも平気って言ってた気がする。そしてお金に関してはこの人は銅貨レベルで細かい。ペタの主張はスルーのようだが。


「これから、この村ではここに泊まります!」


 鼻息の荒いリカータさん。多分、マスターさんのファンだからってのもあるな。ペタですらちょっと体を引いた。でもそんなに急に宿を変えていいんだろうか?一応、それなりの商会の会長さんだよな。






「ああ、会長が別の所に泊まるんなら、私も実家に泊まれるんでいいですよ」


 そう言うのは、リカータ商会の番頭さんみたいな狸族の兄ちゃんだ。この村の出身だと紹介はされていたが、名前は知らない。いや覚えてない。


「という訳で、問題ないんです。むしろ安く上がって良い事ずくめです」


「そうですね、会長のおっしゃる通りです」


 そんな事を言い合うリカータ商会のトップと番頭さん。こいつら揃ってケチか。いや、お金に関してだけならあのケチ長を超えるぞリカータ商会。すごいぞリカータ商会。みんなのリカータ商会。よし、これだけ連呼すれば、多分一生忘れない。


「じゃあ行きましょうかハルキ様」


 そう言って歩き出すリカータさん。俺とペタはのこのこと付いて行く。


 今日はもう寝るだけだというので、店が開いてる内に野菜とか果物を買いに行きたいと言ったら「私が責任をもって見繕みつくろいましょう」と張り切ってしまった。


 ちょっと忘れそうだったけど、この人、社長さんみたいなもんなんだよな。いいのかな、こんな事で引っ張りまわして。


「もっと安くできますよね?これだったらイタチ族さんの方が安いですよ?」


「あ、あのリンゴは買っておくべきです。嵐で大分、収穫が落ちるはずなので、今が買い時です」


「あら、もう小麦が?これは買いですね」


 いや、小麦はいらないですよ。どう使えばいいのか分からない。引っ張り回して悪いなと思っていたが、引っ張りまわされたのはこっちだった。俺の背負い袋は野菜と果物でいっぱいだ。どうやら、仕入れの下見に使われたっぽい。


 この人は本当に商売に関しては油断も隙もない。いや、ちゃんとお金は俺が払ったけど。うん、だいぶ安く買えた。ありがとう。


 こんなに野菜買ったらマジで家から出なくても1カ月ぐらい生活できるぞ。てかウチは冷蔵、冷凍が出来るからいいけど、普通こんなに買わないだろ個人で。腐るだろ。


「あ、すみません。ちょっと買いすぎましたかね?痛んじゃいますよね」


 気づいたか。俺の方がちょっと早く気づいたぞ。と、ちょっとだけ優越感を感じる俺は小物丸出しだ。そしてペタの余計なセリフが更なる面倒くさい状況を引き寄せる。


「ハルキのいえは、まほうでくさらないから、だいじょうぶだ!」


 リカータさんの目が怪しく輝いた。あああ。






 夜、俺の部屋の外にマスターさんが立った。何か手紙を読んで難しい顔になってたもんな。ノックされる前に声を掛ける。


「どうぞ、入っていいっすよ」


「坊主は気配に敏感すぎだな」


 それは忍者だからです。マスターさんが扉を開けて入って来てキョロキョロと部屋の中を見廻す。


「狐の嬢ちゃんはいないのか?」


 そう、なんとあのペタは今日リカータさんと一緒に寝る。嬉しそうだった。仲良くなったよなあ。名目としては護衛だ。俺がリカータさんと同じ部屋で寝る、って訳にもいかない。例え、動物にしか見えない毛有りとはいえ女性は女性だ。


 いや種族差別とかじゃないぞ。ちゃんと女性として認めているのがその証拠だ。ただ、ねえ。ちょっとペット系にしか見えない。飼いたい。うわ、女性を飼うとか変態さんの考え方だ、ああこの星、面倒くさい。どう言えばいいんだコレ。とりあえず心配は1つだけだ、ペタ、リカータさんを蹴るなよ。


「ペタは、ミーアキャットのお姉さんと寝るそうっす」


 マスターさんにそう言うと、納得の表情だ。部屋にある椅子を引いて座った。


「丁度いい。坊主、あの手紙の事なんだがな」


 来たな。これもあるからペタは追い出した。あいつは真面目な話には向いていない。俺よりもな。


「モンスターの大発生が近いかもしれん」


 マスターさんが今までで一番険しい顔で言った。




読んでくださってありがとうございます。


心の平穏は遠い。

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