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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第79話 森が燃える未来

「じゃ、またペタ連れて来ますんで」


 ほんの2日前にも同じ事を言った気がする。だが、あの時はこんなに晴れていなかった。アニさんはまた泣きそうだ。


「また2日ぐらいしたら来てくれ」


 ムチャ言うな親馬鹿筋肉。ほら愛娘まなむすめはもうあんなに遠くにいますよ。アニさんとテディさんに手を振って2度目の別れをした。




 門に向かう途中、なんとなくあのドワーフおっちゃんの武器屋の前を通ってみた。まだ店は開いていない。ああ、あのナイフ欲しいなあ。


「ハルキ、なんでとおまわりしたんだ?」


「あ、いや。ちょっとナイフが恋しくて」


「わかった!ストーカーだな!」


 ナイフのストーカーって何だ。いや、でもそんな感じなのかもしれない。だが、誰にも迷惑をかけていないから大きく違うぞ。ストーカーって言うのは、さっきからずっと後を付けて来る、お前の父親みたいな人のことを言うんだ。


 スパーン


 少し離れた建物の陰で良い音がした。ストーカーは撃退されたようだ。






「おはようございます!良い天気ですね」


 広場に着くとミーアキャット族の女性、リカータさんが元気に声を掛けて来た。あんなに怖い目にったのに、この人はかなり図太い。


 でも、いい天気だからスライムは出ないもんな。ニコニコする気持ちも分かる。とは言っても気を抜いちゃいけない。普通にゴブリンやら何やらは出る可能性があるからな。


 そして、俺はとうとうリカータさんの名前を覚えた。


 傭兵ギルドで依頼を受ける時に誰だか分からず、うんうんうなったからだ。その結果()り込まれた。まあ覚えて損な事は無い。俺だってやろうと思えばできる子なんだ。


 2日前に見た顔が揃っている。死にそうな顔をしていた傭兵ギルドの連中も、俺の散財によるおもてなしと、中1日の休息でツヤツヤしている。まあ、役に立ったなら俺の金貨12枚も無駄じゃなかったよ。


 ただ、お前らの顔は忘れねえ。


「ハルキ、かおがこわいぞ」何の事でしょう。


 馬のおっちゃんの顔もある。というか、おっちゃんという名の馬の顔だ。荷物の積み込みで忙しそうなので、軽く手を振るだけにしておいた。


「うちの商会は、乾物や雑貨を持って行くので、荷物は割とそのままなんですよ」


 今日はリカータさんはノンビリしている。忙しそうに働いているのは他の商会の関係者か。2日経ったら中身を変えないといけない商品もあるんだろう。損したんだろうな。という事は馬のおっちゃんも、あのギルドの若い2人も狸族の村からは別行動かな。いや、全然いいんだけど。


 まだ時間がかかりそうなので、リカータさんとおしゃべりだ。この人は若くして香辛料の取引で大きく稼いで、商会を立ち上げたらしい。キャリアウーマンだ。肉体労働しか出来ない俺には想像もつかない。


「上手く東の海を越えて来た船に当たったんですよ。タイミングが良かったです」


 リカータさんの言葉に、俺より大きく反応したのはペタだ。


「おねえちゃん!うみいったのか!」


 すげえ勢いで尻尾が振られている。


 なるほど、海か。ペタを連れて行かないと駄目だもんな。東にあるのか。リカータさんに写させてもらった地図には帝国の全土が載っていたが、海は分からなかった。だって子供の落書きみたいな地図だ。国境線なのか海なのかハッキリしない。


 馬車の中で海までのルートを教わろう。多分、今まで出会った人の中で、この人が一番地理に詳しいぞ。またスマホで興奮しなけりゃいいが。


「海は良いですよ。魚の干物もこっちまで持って来れば高く売れますし、少しでも胡椒こしょうや砂糖が手に入ったら、大儲けですよ」


 ペタが聞きたいのは商売の話じゃないと思うな。


 しかし、リカータさんの商会は何でも扱ってるんだな。干物に胡椒に砂糖か。胡椒、安売りしてくれないかな。もしくは砂糖と何かを交換してくれたり……


 砂糖。


 砂糖だと?






 まだ時間はある。あるはずだ。というか俺が戻らなければ出発しないだろう。スライムの恐怖が残っている。残ってなくても待っててくれ。


 俺はまだ朝早い町の中を全力で走っている。朝のランニングなんてなまっちょろいものじゃない。本気だ。


 そして俺の右手には金貨20枚が入った袋が握られている。


 ドンドンドン


「朝早くすみませええん!」


 ご近所迷惑など気にせず扉を叩きながら叫ぶ。早く早くはやーく。


 眠そうな顔をしたドワーフのおっちゃんが扉を開けた。そして俺の顔を見てニヤっと笑う。


「流石、銀章の魔法使い族。もうお金作ったか」




 俺は、金貨30枚分の砂糖を条件に、リカータさんから金貨を20枚借りた。だがもちろん、そこはヤリ手の商売人。借用書をキッチリ作成された上に、担保を取られた。


 今、俺の腰にあるポーチからはライターが消えている。


 自分の欲の為に、ある意味、魔法使い族の遺産の1つであるライターを預けた。俺は駄目人間か?いや、いい。なんならライターもやる。ウチにはまだある。


 たかだか火を着ける道具だ。火打石の簡単バージョンだ。ちょっと壊れないのとガスが減らないぐらいだ。やべ、大問題だ。絶対回収しないと。


 そういや、何でライターの中身は液体に見えるのにガスって言うんだろう。いや、どうでもいい。今はナイフだ。






「ただいま!」


「ハルキ、はやいな!?」


「え?本当にもう、あのお店まで行ってきたんですか?」


「はい!おかげでナイフゲットっす!」


 買ったばかりのナイフを2人に見せる。もうニコニコが止まらない。また借金生活におちいった事だけがちょっと引っ掛かるが、何もなければ2日以内には返せる。


「本当に、ちゃんとサインが入ってますね。それに……これミスリルですよね?金貨20枚なんかで買えたんですか?」


 うん、ちょっと何言ってるのか分からないけど買えたよ。リカータさんのおかげだよ。もう抱きしめたい。だが、それをすればこの人は慰謝料を請求してくるだろう。我慢だ。代わりにペタの尻尾だ。


「ぎゃーー!またハルキがきゅうにおかしくなったー!」


 荷物や馬車の間を逃げ回るペタを捕まえて、全力で尻尾をニギニギした。






「むむむ。この魔法の火、使い方が分かりません」


 走り出した馬車の中で、リカータさんがライターをじっと見つめてひっくり返したりしている。ずっとだ。日本だったらそろそろ通報だ。


 まあ、ナイフをでまわしてる俺よりは怪しくない。俺は即逮捕だ。


「おねえちゃんも、まほう使いむきじゃないな」


 そういやペタもライターの使い方知らなかったな。弟子とか言っちゃったから教えてやってもいいか?いや、駄目だ。コイツのせいで森が燃える未来しか見えん。


「万が一、砂糖が用意できなかったら使い方を伝授しますよ」


 ちょっと偉そうに言ってやった。魔力なんかは使わないんですよ?


「正直、使えるなら砂糖よりこっちがいいんですけど……」


 リカータさんの目が光る。む、これは来るぞ。


「お貸ししたお金は結構ですので、これを金貨50枚で!」


「駄目です」


「ハルキにくっつくなー!」


 俺達の馬車だけがグラグラ揺れ出した。






 中間地点の休憩場所までは普通に来れた。まあここまでは2日前と同じだ。縦列駐車も同じだ。ただ、晴れているという部分が違う。


「ペタ、お姉ちゃんと一緒に行って飯食って来い」


「ハルキのぶんも、とってきてやるな!」


 商会の偉い人達は休憩場所に集まって、ちょっとだけ良い物が食える。でも、護衛と馬の世話をするメンツはある程度、馬車に残らなきゃいけない。


「じゃあ、荷物をよろしくお願いします」


 リカータさんはそう言って、ペタと手を繋いで広場に向かって行った。なんだかんだであの2人は仲良くなったみたいだ。何故だろうか、強敵と書いて、とも、なんだろうか。


 俺も馬車を降りて、道端に座って干し肉をかじりながら草原をボーッと見つめる。手はナイフをもてあそんでいる。草むらもあるが、大きい生き物の気配は無い。平和だ。


 そういや、いくら良いナイフでもちゃんと手入れしないとな。宇宙人製じゃないもんな。やり方が分からない。エジャに聞こうか。ああ、エジャとか懐かしい。俺がこっちで名前を憶えてる人ってすげえ少ない。その内の1人だもんな。正直、あえて覚えようとしていない部分もある。


「あの、ハルキさん」


 顔だけは見覚えのある、傭兵ギルド員のおっちゃんが声を掛けて来た。この人も俺の金で飲み食いした奴だ。このちょっと鱗ががれたようなトカゲ顔は覚えてるぞ。だが俺は今、とても機嫌がいい。


「何すか?」


 なんと敬語で答える程、機嫌が良いんだ。敬語じゃないとか言われても俺にとっちゃこれは敬語なんだ。


「先行して、川の様子を見て来たんですけど、ちょっと問題が」


 おっと、もしかしてまだ洪水が残ってるのか?もう出直しは嫌だぞ。借金も早く返したい。


「い、いや、こんな事、ハルキさんのお手をわずらわせるのも何なんですけどね」


 ちょっと、ムッとしたのが顔に出ちゃったかな。ニコっと笑顔を作る俺。最近、愛想笑いが上手くなってきたと思う。昔はホラーな笑顔だったが。ウチに帰ったら鏡で確認しよう。おや?トカゲのおっちゃんが半歩下がった。おかしい。


「すみません、ええと、木が何本か倒れてまして……皆で動かそうかと」


 トカゲのおっちゃんの声が小さくなった。倒木か。まあ川が氾濫はんらんしたんだ、何事もないなんて事はないよな。いや、遠慮しなくていいよ。もちろん協力しますよ。


「よし、じゃあ、ちゃっちゃとどかしちゃいましょう」


 ナイフを腰のさやに納めて、一緒に先へ向かう。当然、馬車を空には出来ないから、後ろの方で暇そうにしていたギルド員2人を手で呼んで、ロリコンじゃない方に見張っててくれるように頼んだ。もうあいつらも俺の手下だ。尻尾ブンブンだった。ロリコンの方を避けたのは、ペタとハチ合わせるとマズイからだ。






 木が何本か倒れていると聞いた。俺の中の何本か、ってのは10本以下だ。


「30本ぐらいあるじゃないか」


「はあ、まあ」


 3メートルから5メートルぐらいの木が大量に道を塞いでいる。はあ、まあ。じゃないよおっちゃん。


 洪水でなぎ倒された草むらの向こうに、大きく曲がった川が見える。大雨で氾濫はんらんするとしたらこういう所だろう。堤防でも作れば良いのに。まあ、あのスライムみたいのが、よっこいしょって乗ったら一瞬で崩れるだろうけど。


 木を1本につき6人で運んでいる。道の外に転がされてる木が既に……2本。うん、日が暮れる。


「お前ら、どけ」






「ハルキー。ベーコンだぞ!ベーコンもらった!」


「おお、凄いな。1枚だけか?」


「ペタは10まいたべたぞ!」


 いや、自慢するとこじゃないだろう。だったら半分ぐらい持って来てくれても良いだろう。なんて、この食欲モンスターに言っても仕方がない。


 ナイフをもてあそぶのを止めて、手を出すとペタが、


「あーん」と言って来た。


 こいつにコレをやられるのは、だーいぶ前にレモンの付いたナイフを口の中に押し込まれかけた時以来だな。今回は素手だから危険は無い。問題はペタは絶対、手なんか洗っていない事ぐらいか。まあ、俺も泥だらけの木を触って来たから綺麗じゃない。どっちでも同じだな。


「仲がいいですねえ。何か問題はありませんでしたか?」


 モグモグしている俺にリカータさんが声を掛けて来る。


「ああ、ちょっと何本か倒木があったんで投げて来ました。そんぐらいですね」




 護衛連中の何人かが俺を恐怖のこもった目で見ている。お前ら、おごってやったのにそれは無いだろう。仲良くしようよ。


 ニコリと笑ってやると、ヒッという声が聞こえた。失礼な。




読んでくださってありがとうございます。


食事の前には手を洗いましょう。


ちょびっと日数の修正をしました。

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