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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第64話 お値段据え置き

 頭のおかしいおもちゃ箱みたいな部屋の中には、俺とペタと、副団長と呼ばれた虎族の女性騎士の3人だけだ。


 この部屋の持ち主である皇子さんはいない。


 だからこんな事を言えるんだろう。でも意図が分からない。


「殿下って、皇子さんだよな?あんたの上司だろ?なんで止めて欲しいんだ?」


 副団長さんに聞く。一緒に反乱を起こそうとしてたんじゃないのか?


「殿下に対して、さん呼ばわりとは!不敬ふけいな!」


 あれ、なんかおかしな所に引っ掛かったみたいだ、ちょっと怒らせたか?でも俺はそんなルールは知らない。


 一瞬沸騰(ふっとう)したようだが、直ぐに治まった。これは面倒な人かもしれない。


「……失礼した。他国の方だったな。では無理強いをするのは道理では無いか」


「ハルキはせけんしらずだから、ゆるしてやってほしい」


 副団長さんはちょっと直情的だし、ペタは自分の事を棚に放り投げるタイプだ。ちゃんと話が出来るだろうか。


 そんな直情副団長さんが話し出す。


「まず知って頂きたいのは、殿下に反乱の意思など無いという事だ」


 おいおい。早速、色んな前提が崩れた。マジか?だったらこの騒ぎは何だ。


「ただ……」


 言いよどむ副団長さん。ただ?


「殿下が、通常の人族と同じ感覚をお持ちだとは……残念ながら言えん」


 副団長さんがチラッと目を動かす。ナイフの刺さったぬいぐるみがある。そうだな。怖いもん。あれで普通だったら俺はウチの部屋から出ない。


 喜んでぬいぐるみやクッションを刺したり切ったり破いたりするのは心に問題がある人だろう。それがナチュラルボーンであちこちにいるんだったら、もう周りは全部敵だと思わなきゃいけない。男は外に出たら何人か忘れたけど敵がいるそうだが、この星だとそれと同じ数の味方を探す方が大変になる。ぬいぐるみを買うのはストレス解消のエクササイズと同じとか怖すぎる。職人も浮かばれない。




「だが、仕方のない事なのだ。殿下はこの砦から出た事がない。母親の温もりも知らぬ。周りは腹黒い大人ばかりだ。どこかがゆがんでしまわれたのだ」


 ん?何それ。まるで世間知らずのガキんちょみたいな、あ。


「ちょっと聞くけど、皇子さ……殿下って、おいくつ?」


「ペタよりちょっと、とし上だな。でもちっちゃい子みたいだ」


 思わぬペタから返事が来た。でもそれじゃあまだ子供じゃないか。


 まただよ。俺、また大事な事聞かずに突っ走ってたのかよ。自分で自分をほんとバカだと思う。


 だけど、それで納得のいく部分もある。この部屋は子供のおもちゃ部屋で合ってたんだ。ただ、少し心の成長に失敗した子供だ。


「そうだ。殿下はその子供よりは年長であられるが、まだ成人もされておらぬし、政治や軍事の事など何もご存じない」


 副団長さんの言う事が本当だとしたら、反乱なんか考えるはずがない。っていうか子供のペタが子供だって言ってんだから間違いない。本物の世間知らずだ。


「それでも、この砦で静かに暮らしておられる分には問題は無かったのだ……全てはあの武器だ。あの武器のせいで……」


「レーザーか」


 思わず口にした単語にピクっと反応する副団長さん。あっと、この名前じゃ分からないか。いやでも今の反応は、


「なぜ、その名を知っている!貴様、何者だ!」


 ああまた沸騰した。


 いきなり剣を抜こうとする副団長さん。だが、剣はないよな。さっき部下に渡しちゃったよな。やっぱり直情的だ。しかも指折れてるし、ああ、勢い余って鎧に手が当たった。めっちゃ痛そう。悶絶もんぜつする副団長さん。


「だいじょうぶか、おばちゃん!いしゃはどこだ!」


 ペタが大慌てで部屋中を走り回る。ペタに好かれている。うん、良い人なんだろう。それは分かった。


「待て待て、落ち着けって。武器の事はなんとなく知ってただけだから」


 放っといたら、すぐキレそうだこのおばちゃん、じゃない副団長さん。キレやすいのは最近の若者だけじゃないぞ。


 足を払って軽く横倒しにする。ついでに折れてる右手を固定して抑え込む。


「貴様!何をするか!やはり敵か!」


「はいはい、ちょっと大人しくしろ。おーいペタ、ちょっと軽く治療するからこの人の手のトコだけ鎧取れるか?」


「がってん!」


 ペタが飛びついて来て外し始める。剣道だと小手っていうよなここ。籠手こてだっけ。こっちでは何て言うのかね。そしてペタはやっぱり器用だ。すぐに籠手部分だけ取れた。


 腰からナイフを引き抜く。蝋燭ろうそくの揺らめきで怪しく光る刀身「これまでか」とか言う副団長。涙まで流している。


 いやだから治療だってばよ。何?俺が悪者みたいな雰囲気。おい、ペタまで悪い人を見る目でこっちを見るな。さっきまで一緒に押さえてただろうが。いわば共犯だろうが。


 籠手の下に着けていた革のグローブを丁寧に切り開く。ああ、痛そうだ。人差し指から小指まで全部パンパンに腫れてる。面倒だから、全部固定してしまおう。


 ペタに命じて包帯を用意させる。もちろん、この部屋にそんな物はないから、カーテンを引き裂いて作らせた。その結果、副団長さんの右手は包帯で2倍ぐらいの大きさになった。


 だって、ペタが調子に乗ってどんどん破るから余ったんだよ。






「かたじけない。取り乱してしまった」


 そう言って頭を下げる副団長さん。そうだな、あんたはちょっと取り乱す癖をなくした方が良いな。あと、かたじけないってマジで武士語だな。


「えっとな、たまたま似たのを知ってたんだけど、アレどうしたの?」


 ようやく話に戻れた。手のかかる副団長さんだ、面白いけど。


「やはり、話さねばならぬか」


 そりゃあんた、事情も分からんのに命は懸けられないよ。事情が分かっても懸けたくないけど。


 副団長さんは少し考え込むと話し出した。俺とペタはソファーに座って聞く。そしてこのソファーもビリビリ。皇子の闇が深すぎる。


「もう5年程前になるか……」


 おっと結構前から始まったな。


 まあ、もう急いでないから良いんだけどペタが寝るぞ。構わず話し続ける副団長さん。自分の世界に入るタイプだな。


「旅の商人が面白い物を扱っていると聞いてな、砦に呼び寄せたのだ。殿下の気を紛らわせられればと思ってな……」


 そう言いながらどんどん暗くなっていく。心なしか体まで小さくなった。


「その中にあの「れーざー」なる物があったのだ。今思えば、全てあの時、商人を呼んだ私の責任だ、私さえ居なければ……」


 ああ、今度は切腹でもしそうな落ち込み方だ。


 友達になると面倒くさいタイプだ。毎日の浮き沈みをメールしてきそうだ。SNSも凄い勢いで更新されるぞ。


「ただの望遠鏡だと思ったのだが、素晴らしく良く見える物だったのだ。それも向きを変えれば勝手に調節してくれる。まるで魔法の様だった」


「それは、おかいどくだな!」


 ペタよ、それはレーザーの補助的な機能だぞ。オマケだ。レーザーを買えばもれなく付いて来てお値段据え置きだ。流石にもう1つは付いて来ないだろうけど。


 副団長はペタの頭をでながら首を振る。


「あのような物、欲しがってはならんぞ。あれは悪魔の武器だ。いや、商人は魔法使い族の遺産、と呼んでいたな」


 ビンゴだ。来たな魔法使い族の遺産。






 その道具を買ったのは、外に出られない皇子に町を見せてあげたいという親心みたいな思いからだったらしい。いや実際に親代わりだったのかもしれない。


 当時から第1騎士団、副団長だった彼女は、他に女性がいない事もあって皇子の相手をする事が多かったそうだ。情も湧くだろう。


 ってかこの副団長さん、第1だったか。あの偉そうな団長の所か。大変だな。


 皇子は領主にあたる騎士総長が不在だったこの町に赤ん坊の時に送られた。


 10年前に起きたモンスターの大発生で、前騎士総長が亡くなったからだ。前線に立って戦ったらしい。かなり頑張るタイプだったんだな。


 マスターさんとアニさんも戦ったんだよなそれ。俺はいなくて本当に良かった。


「あのいくさは地獄のふたが開いた様であった」


 と、副総長さんは難しい表現で言った。この人いくつなんだろうか。江戸時代の人なんだろうか。いや国どころか星が違うんだけども。


 まあ、空席になった騎士総長の座に丁度良い皇子がいた。


 皇帝さんのあまり褒められない行動の結果産まれた皇子だ。


 まあぶっちゃけて言うと一般市民あたりに産ませた子だろう。ペタの手前、ボカしてくれた。


 厄介払いでもあったんだろう。この町に送り付けられた赤ちゃん皇子は、ただの飾りとして砦で育った。


 周りには同年代もおらず、皆が気を使う。そのくせ大事にされてはいない。そりゃひん曲がる。しかもその結果、周りから更に人がいなくなる悪循環。可愛そうな子だ。


「ともだちがいないのか!じゃあ村につれてかえる」


 ペタ、それは無理だなあ。みんな撃たれちゃうかもだな。


 あまり喋らず、表情も変わらない。そんな子供に副団長さんは望遠鏡だと思った道具を与えた。


 皇子は夢中になった。笑うようになった。今まで遠くにしか見えなかった人の営みが手が届くような距離に見えたからだろう。


 それこそ毎日、自室のバルコニーから、暗くなるまで見ていたらしい。




 そして、ある日、大通りで馬を引いて歩いていた男の頭が弾けた。




「初めは気が付かなかった。町の中で人が死ぬ事などそう珍しい事では無い」


 そんな町も嫌なんだが、まあ1人2人ならありうるのか。日本じゃないもんな。


 てゆうかあんまりペタに聞かせたくない話なんだが、本人が身を乗り出して聞いている。困った。


「だが同じような事件が続いて起こるようになった。本来、町の治安は第2騎士団の管轄だ。だが話は聞くようになった」


 町には不穏な空気が流れ始める。


 呪われているんじゃないかとか、殺人鬼がいるとか、目に見えないモンスターだとか。そして町を離れる人が出始めた。騎士団も放置は出来なくなった。砦の守護を主に行う第1騎士団も現場に出た。


 共通していたのは、みんな焼けたような穴が空くという不思議な状態だった事だ。そして、地面にも穴が残る。


「その跡を見た時、私は恐怖を感じた。これを知っていたからだ」


 副団長さんは、壁際に置いてある戸棚を動かした。


 裏には小さな穴の空いた壁がある。うーん、サイズといい形といい、見事に俺が教会で撃たれたのと同じだな。しかも試し打ちをしたのか、かなりの数だ。


「その後しばらく殿下から目を離さぬようにした。そしてあの「れーざー」が望遠鏡などでは無い事を知ったのだ」


 戸棚を元の位置に戻しながら話を続ける。


「私は、団長にこの事を報告した。そして団長から副総長様にも伝わった」


 この町で俺の嫌いな奴、No,1,2の登場か。他は知らないけど。


「我々の見解はすぐに一致した。一連の事件は殿下が起こしていると。しかし、それを表沙汰にする訳にはいかん」


 まあ、皇子さまだからな。そんなの発表したら町から人がいなくなる。


 それどころか……うわ、ピンときちゃったよ。普段こんなに頭動かないのに。


 ちょっと推理の答え合わせをさせてもらいたい。俺のターンだ。




読んでくださってありがとうございます。


そろそろ難しい話は終わりたいところ。

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