第65話 悪意のない悪
俺の推理力が光るぞ。副団長さんの話を遮って話す。
「副総長と、第1騎士団長、それとあんたで隠そうとしたけど、結局、皇帝陛下さんにバレたって事だな」
副団長さんの顔が歪む。ここまでは合ってるな。
「そんで、皇帝陛下さんは、邪魔になった皇子を消すために嘘の反乱をでっち上げたって所か」
「……恐らくは、そうであろう」
当たった。嫌だね政治の世界。
皇子が殺人鬼だったら国も責任を問われる。広くバレる前に反乱の疑いをなすり付けて消そうとしてるんだな。
まあ、それが国を治める人の考えなんだろう。
自分の子供が可愛くないのかって思うな。俺には全く理解できないけど、冷酷なもんだな皇帝さんも。
そのうち本気で反乱が起きないか?大丈夫か帝国。
「3人の誰かがバラしたって事だよな。ていうか第1騎士団長さんだろ」
「む……ご明察だ」
まあなあ。だからあのおっさんが討伐側なんだ。今の力関係が分かる。
第1騎士団長は、この町で上に立ちたいから副総長を消したかった。
皇子はきっかけだ。ついでに第2、第3の騎士団長も押さえ込めるから1石4鳥だ。こいつが今回の勝者だ。小ズルイがもう流れは出来てしまってる。
副総長は、立場を利用して好き勝手した結果、第1騎士団長に嵌められて檻の中だ。脱落だな、同情は全くしないけど。
そもそも魔法使いの遺産を集めようとしていたのも、皇子の命令じゃないよな。欲しかっただけだろレーザーみたいのが。もうちょい虫歯を突くべきだった。まだ何か隠してそうだ、あの野郎。
で、この副団長さんは皇子が心配でここに残った。本物の良い人だ。だが正直もう先はない。この人は、どう転んでも皇子と一緒に反乱の罪で裁かれる。
いや、しんどいな。そんな状況の人と話すのは。
かと言って、国レベルの話だ。俺にはどうにも出来ないし余計な事をすれば更にこじれる。本当の反乱だって起こるかもしれない。
俺の推理ターン終了だ。もう絞っても何も出ない。
「今思えば、事が起きた時すぐ皇帝陛下に御報せ申し上げるべきだった」
ん、副団長さんが少しおかしな事を言ったぞ。
「ちょっと待て。いつ皇子さんの行動に気付いたんだ?」
俺の問いかけに苦しそうな顔で答える。
「3年以上前だ」
……はあ?
「お前、馬鹿じゃねえのか?その間放置か、どれだけ死んだんだ!」
思わず叫んでしまった。ペタも居るのに。あー、いや、俺は間違ってない。
「ハルキ」
ペタが困った顔で見上げている。悪いが、一気に頭にきた。俺だって怒る。この人は良い人じゃない。見て見ぬ振りをする自覚症状の薄い悪人だ。
「3年以上も、どうやって隠した!」
副団長は口を開かずうつむいている。
「おばちゃん、わるいことしたのか?」
ペタが聞く。多分、ここまでの話は理解していないだろう。だが俺がこれだけ怒ってりゃ、いくら空気の読めないペタでも分かる。
「我々は……」
副団長さんの告白は、俺の予想を越えていた。
「もういい、気分が悪い。お前らのケツはお前らで拭け。俺は帰る。行くぞペタ」
最悪だった。
結局は自分の為なら何でもする、人の命も平気で奪う。そんな俺の大嫌いなタイプの奴だった。
バカ副総長も、アホ第1騎士団長も、そして副団長さんもだ。
こいつらは、急に増えた一般市民の死を、テロリストのせいだと発表した。
もちろんテロリストなんていない。だが、危険に晒された人々は怒りの矛先を向ける相手を欲しがる。でっちあげだ。
その為に何をしたか。
何の罪もない浮浪者や孤児、それにスラムの住人を捕まえてテロリストとして処刑していた。時には近くの村から人をさらってまでだ。
あの処刑場だ。賭けが行われるようになったのもその時からだという。俺が昼間に見た、あの最悪の光景の大元は、この3人だった。
意味が分からない。こんな話は聞いた事がない。気分が悪い、吐きそうだ。
副総長と第1騎士団長は自分の地位と利益の為に。
そしてこの副団長さんは皇子1人を守る為に。
いや、これも自分の為だ。気が付いたらすぐに止める方法はいくらでもあったはずだ。それを放棄した。ある意味この人が一番タチが悪い。
ペタの腕を取って引っ張る。少し抵抗を感じたが体ごと抱え上げる。
部屋を出て行く俺達を副団長さんは止めようとはしなかった。
来た時とは違って、ゆっくり歩く。
もうとっくに門を破る為の何だかいう道具も届いているだろう。どんなのか知らんが。帰りは門から出よう。
「ペタ、騎士の剣がいっぱいあるとこ見つけたぞ。1本もらってくか」
もし開いてなくても、内側から開けられるって言ってたから門の近くに行けばどうとでもなる。
「ペタ、門を出たとこでアニさんも待ってる。それと、テディさんもすっげえ心配してるからな。後で謝るんだぞ」
大体、町の揉め事に、村人Aのペタと異星人の俺が関わる必要ないんだよ。立派なガタイですげえ鎧着てんだから騎士がなんとかしろよ全く。
「ああ、ペタ。今日は……まあ昨日からなんだけど黙って出て行って悪かった。今度からちゃんと話すわ」
2回目になるがちゃんと謝っておく。今後は危ない時はむしろ傍にいてもらう。目を離す方が怖い。ペタ1人ぐらいなら守れるはずだ。
「ハルキ」
「なんだ?」
「かえるのに、なんで上にのぼったんだ?」
階段を登りきった所に豪華な扉がある。教会の扉に似てるが少し小さい。
「おお、だってお前、デンカ君と仲良くなったんだろ?黙って帰ったら可愛そうじゃないか。挨拶は大事だぞ」
俺は正直、皇子が可愛そうだと思ってしまった。
だから終わらせたい。
うーん。俺って、こんな正義の味方キャラだっただろうか。ペタがぎゅっとしがみついて来た。まあいいか。ちょっとモフモフを堪能させてもらった。
少し気持ちが落ち着いた所で、ペタを床に降ろす。
誰も見張りがいない。ここまで砦の中で出会った騎士は、あの副団長さんを入れても15人程だ。皇子なのに寂しい話だ。
「デンカ君の部屋はここでいいんだよな?」
ペタがこくこく頷く。こいつは良い人を見分けるのは上手い。馬車に乗ったのだって、あの嘘を吐けなさそうな副団長さんが真剣に俺を探してくれると約束したからだろう。
まあ逆に悪意を見抜けない部分はあるが。
俺は、教会での狙撃の後にペタが誘拐されたと思っていたが、落ち着いて考えりゃ、そんな短時間でペタを見つけるのは難しい。
仮に見つけたとしても、テディさんと夜までに帰るという約束をしていたペタが自分から馬車に乗る事はない。
つまり、もっと早い時間にペタはここに来ていた。人質も何もかも俺の勘違いだ、自分の頭の悪さを忘れてた。妄想が暴走してたな。反省。
それは良いとして、ペタと一緒に遊んだという皇子も、扱いを間違えなければきっと大丈夫だ。急に撃ってくるとは思えない。ペタもいる。
悪意のない悪か。地球だったらサイコパスって言ったかな。子供でもそういう事ってあんのかな。心理学者じゃないから分からない。
まあターゲットにされたら最悪だろうな。こういう相手と事を構えた経験はない。子供だからって舐めてかかったら急に敵と認定されるかもしれない。ペタとのやり取りを見て判断したい。下手に演技すれば逆に危ない気がする。
今回は俺がペタに助けられる番かもしれないな。
「じゃあ、ペタ。挨拶してこい」
「おお!」
ペタが扉を無造作に開けて入って行く。俺も肩の力を抜いて部屋に入った。
広いな。
だだっ広い部屋だ。真ん中に屋根のあるベッドがある。屋根とは言わないか。て、て、てん……がい?合ってる?まあいいや。貧乏人には関係ないし。
金や銀をあしらった調度品が飾ってある。これも豪華な感じだ。だが、壁の傍に並んでいるそいつらのせいで、この無駄に広い部屋が余計に無機質な感じになる。
下で見たおもちゃ部屋との印象が違いすぎる。人が住んでいる部屋じゃないな。モデルルームだ、これじゃ。
ここに10年……俺、無理。多分3日目ぐらいに大空に飛ぶ。
ペタはテテテーっとバルコニーに向かって行く。大きなガラスの扉があってその向こうに誰かがいるのが分かる。あれが皇子なんだろう。だが、やっぱりこっちのガラスは微妙に曇っている。かろうじて虎族なのは分かる。
「デンカー!」
ガラスの扉を開けながらペタが呼びかける。人影が振り返る。やっぱり子供だろう、背が低い。2人で何か話し始めた。大丈夫だな、様子を見てから俺も行こう。
そして、隙を突いてレーザーを取り上げる。
手に何か持っている。あれがそうだろうか。もっとライフルみたいなのを想像していた。でも短い。ハッキリは見えないが、確かに普通の望遠鏡っぽい。
それも片手で持てる程度の小さい望遠鏡だ。それを両手で持っている。
狙撃銃っぽくないな。いや、そもそも他所の星の武器だ。地球とは違ってもおかしくはない。しかも向こうの方が地球より進んでるんだろうな。
遠距離を狙う銃の銃身が長いのは、威力を高めると同時に命中精度を上げる為だ。だけど、レーザーなんてのが実際に武器として使えるなら、それは光で相手を照らすのと一緒だ。懐中電灯に長い銃身なんて必要ない。
俺は、バルコニーにいる皇子の姿を見ていた。見ていたのに考えていたのはレーザーの事だけだった。
それは今までの経験のせいなのか、未知の武器への恐れからだったのか分からない。だけど武器は使う奴がいて初めて武器として意味を成す。
小難しい事を言っているみたいだが、要は相手を見ていなかったって事だ。今怖いのは、この皇子という未知の相手だったのに。
望遠鏡の先端が一瞬だけ赤く瞬いた。何の予備動作もなくだ。
バルコニーにいたペタの体がぐらりと揺れた。
バルコニーに駆け寄りながら無意識に投げナイフを掴む。
そのまま両手で1本ずつ、皇子の影に向かって投げようとした瞬間、軽い負荷と共にベルトが切れた。革が限界に来ていたのか。
ナイフが2本飛んで行く。だが今ので軌道がズレた。ガラスの扉に穴が空き細かいヒビが入る。しかし皇子は立っている。
そのまま全身でガラスに突っ込む。顔がガラスで切れるがそんなのは良い。
拳を固める。
皇子はまだ俺の方を向いていない。振り向こうとはしているが、頭も体も、そして望遠鏡のような物も間に合っていない。割れたガラスすら床に届いていない。
虎族の男の子だ。ペタよりは少し背が高い。猫族の子供よりも少し頭が大きいのは虎族の子供の特徴だろうか。初めて見たが、これはこれで可愛い。だが今の俺には悪魔にしか見えない。
虚ろな目をこちらに向けようとしている。
だがその目が俺を捉える事はなかった。
読んでくださってありがとうございます。
重い展開はそろそろ終わります。楽しい日常に帰りたい。




