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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
8章 それはきっと尊い理想

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カミ

 体が裂けていくのを感じた。

 内から溢れるとても制御なんてできるはずのないそれに押し出されるようにしてミチミチと音を錯覚させながら、脆い部分から裂けていくのを感じた。

 ほんの端の少し切れた布がそこを起点に大きく裂けていくように、あるいは商品を入れすぎたビニールの買い物袋に空いた小さな穴が気付けば中身がこぼれ落ちるほどに大きな穴を空けているように。

 体が、終わっていくのを感じた。


「──第一武器庫、第二武器庫、第三武器庫、第四武器庫、第五武器庫、第六武器庫、第八武器庫、第九武器庫、並列開門」


 そして、それと同時にこれが一介の天使を殺すには明らかに過剰戦力であるということを肌で感じた。

 それは相対するトアもどうやら同感だったらしく、顕現した九の神器を前に先ほどまでの余裕も殺意も敵意も消し飛んで、ただただ理解の及ばないものを見る目だけがあった。


「馬鹿か……君は……。そんなことが……そんな使い方が、人間ごときに……できるわけないだろ……っ。自滅だ……やめろ……君の自滅に僕を巻き込むな……っ」


 第一武器庫──フラガラッハ

 第二武器庫──デュランダル

 第三武器庫──ターゲット

 第四武器庫──アダマス

 第五武器庫──天叢雲剣

 第六武器庫──ケーリュケイオン

 第七武器庫──グングニル

 第八武器庫──ミョンニル

 第九武器庫──シュランガ


 エールに絶対に開くなと言われ、未だに開くことすらできない十の門以外の全て。

 相対する者を絶対に生かしておかないという確固たる強い意志の滲むそれ。


 やめろと言われて止まるわけがない。

 今、この場で命を懸けないで一体いつかけるのか。

 濃厚な死の可能性を受け入れて、それでようやく届くかどうかという相手に出し惜しみなんてするはずがない。


「頼むから──これで死んでくれ」


「……っっ!!? や、やめ……っ!!」


「『複製』『念動力』『韋駄天』『威圧』『結界』『硬化』『再生』『反射』『千里眼』『空間移動』『死之賭博』『賭博師』『治癒不能』『骸人形』『魔法禁止』『巨大化』『木端微塵』『重力操作』『増殖』『必中』『大爆発』」


「──っっ!!!!!」


 末端から消えていく体の感覚とこみ上げる吐き気と寒気を吐き捨てるように口を動かす。

 焦点がぶれ始めた視界がトアの引きつった表情を収めた次の瞬間、ただ殺すためだけに集めたすべてが哀れな天使を貫き、悲鳴にも似た轟音を上げる。


 そして──泥のように形を崩してぼとりと落ちた腕に自身の終わりを理解した。







「…………うん。もったいないね。レイストとトアには悪いけど」


◇◆◇◆◇


「……」


「……」


「…………」


「…………」


 その二者の間に会話はなかった。

 それは当然といえば当然のことで、二者の関係は罪人と監視役だった。

 方や天界における絶対の規則を破り、管理された世界における生命体の運命を捻じ曲げた罪人。

 方やその罪人に然るべき処分が下されるまでの間、罪人を見張り万が一の場合には押さえつけることのできる数少ない監視役。

 相容れるはずもなかった。


 ゆえに会話はなく、ただ無言のみがその場にはあった。


 ──それがその場に現れるまでは。


「随分と重苦しくて嫌な空気だね。楽しいかい? こんな空気の中でだんまりなんてさ」


 まるで最初からそこに在ったかのような自然さで彼女は言葉を紡ぐ。


「……っ」


 その姿に罪人は息を呑んだ。

 彼女が現れたことに驚いたわけではない。居るはずのない彼女がこんなところにいることに罪人は驚いたのだ。

 なぜなら、罪人の目の前で呆れたように視線を送る彼女は──


「…………なぜ、貴女がここにいるのですか。……ティア」


 罪人とは対照的に監視役は溜め息を溢した。

 ティアと呼ばれた彼女への問いかけも正直なところ、うっすらとその目的を察したうえのもので、できることなら外れていてほしいと思っていた。


 なぜなら、監視役の目の前に現れた彼女は──五柱のカミ、その第一の座に君臨し名実ともに天界の頂点たる存在だったから。


「んー、よく聞いてくれたよレイスト。実は、少し面白い拾いものをしてね」


 困惑する罪人をよそにティアはまるでいたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 その表情にレイストは自身の予想が当たっていることを確信し、同時に頭を抱えた。


「ほら、見てよ。エールのことを連れ戻しに人間の少年が命がけでこんなところまで来てたんだ」


 どこからか開いた穴からどさりと落ちる愚かで傲慢な人間と嫉妬深く執念深い天使。

 それらを見せて、世界における絶対の存在は愉快そうに笑った。

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