意味のない問答
語り終えて、トアはすっと目を細めた。
その目はまるで真実を見透かすようで、相対しているだけで自然と背筋が伸びた。
「ねぇ」
その声は、まるで雑談のように軽い。けれど、含まれた内容は鋭かった。
「君、自分が死んだときのこと……おかしいと思ったことはないのかい?」
一瞬、問いの意図が掴めず目を瞬かせた。
だがトアは続ける。
「例えば、そう、見えない何かにそうなるように誘導されたみたいな、さ」
その言葉に、胸に冷たいものが流れ込んだような錯覚を覚える。
「…………」
とてもよくない、けれど全く否定できる要素のない想像が頭をよぎった。
否定できないどころか、トアの話が本当だと仮定するのであればおそらくはそうなのだろうという想像があった。
何も言葉を返すことができない。
そんな俺の様子にトアは肩をすくめると、酷く愉快そうに唇を歪めた。
「通り魔に出会って、女子を庇って、正義感から……だったっけ? でもなぁ、それ全部、『お膳立てされてた』としたら?」
「…………っ」
思わず目を伏せる。
死の瞬間――あの日、確かに妙な偶然が重なった。
いつもと違う時間、いつもと違う場所。なぜか偶然現れた通り魔。
そして、狙いすましたかのようなタイミングで現れた女子生徒。
ずっと、何かがおかしかった。
「……まぁ、たしかに偶然にしてはできすぎてるな」
ぽつりと漏らすと、トアはにやりと笑う。
「そうだね。できすぎた偶然なんてものは存在しない。あるのは常に必然だけだ」
その笑みには、悪意とも皮肉とも判断のつかない何かが込められていた。
けれど、続けられた言葉に込められたそれはよく分かる。
「だから、君があの日死んだのは必然だ」
悪意の伴った愉悦。
それが綺麗な顔を歪めながら嫌な事実を突きつける。
「……ねぇ、一体どんな気分だい? ヒーロー気取りで身の程も弁えずに助けに来た相手が自分勝手な理由で自分を殺した相手だと知ってさ」
変わらず、むしろ一層に悪意を濃くしてそれは口を開く。
さぞ自分好みの愉快な回答を期待しているのだろう。
あるいは何も言い返せない絶望をお望みか。
全くもって趣味が良いことこの上ない。
あるいはどれだけエールはトアを怒らせたのか。
ここまで不幸を望まれるなんてそうそうありはしない。
常々嫌いな奴の不幸を祈っている身としては親近感を感じざるを得ない。
ただまぁ、残念ながらきっと俺が彼に渡せる言葉に彼が喜ぶような言葉は何一つないのだろうけれど。
「……とくになにも」
「……は?」
「つーか、今の話だとお前がプライドが高くてエールがうっかり地雷踏んであり得ないくらい恨まれてるってことくらいしか分からん。正直その辺はあんまり興味もないし。……やっぱりあいつに直接聞くしかなさそうだなとは思った」
トアが何を思おうが知ったことではないが、俺の関心事は最初から一つだけだ。
エールが俺を殺した、もしくは死へ導いたとして、なぜそんなことになったのか。何がエールにそうさせたのか
それが知りたい。
だから、トアの今の話から得たものというのは実のところかなり少ない。
二人の過去に興味はないし、俺の死にエールが関与していたかどうかも少なくとも俺にとってはそれほど重要なことではないのだから。
「だから、そこどいてくれよ。うちのお転婆天使にちゃんと話聞かないといけなくて忙しいんだ」




