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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
8章 それはきっと尊い理想

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最優だった天使

 遥か天上、すべての理そのものである世界。そこは、天上と呼ばれる神聖にして絶対の領域。

 その中心には、五柱のカミがいた。


 万物の循環を見守り、時には介入し、秩序と命の螺旋を保つ存在。

 その一角──第五の座に、かつて僕は手をかける寸前だった。


「次のカミは、君以外には考えられないね。トア」


 そんな言葉を告げられ続けて幾千年の時が流れた。

 無数の試練と実績の果て、天上界で最も優秀と称された僕は、次世代のカミ候補の地位を与えられていた。


 当然のことだ。

 だって僕は優秀なのだから。

 天使として生を受けた瞬間から他の有象無象とは比べ物にもならない才を持って生まれ、それに胡坐をかくこともなくこれまで努力を積み重ねてきた。

 そんな僕と他の有象無象の天使に差が生まれるのは当たり前のこと。

 才能も努力も両方を兼ね備えた僕こそがカミに相応しい。


 選ばれし者。

 導く者。

 全知全能に至る者──それがいつか僕が行き着く場所だと信じて疑わなかった。


 そのはずだった。


 ──ある日、彼女が生まれるまでは。


 正式な名も与えられていない、新しく誕生したばかりの天使。

 本来、生まれたばかりの天使に自我など存在しない。長い年月をかけ、無数の生命の声を浴び、ようやく「個」としての意識を持つのが常だった。


 だが、彼女は違った。

 生まれて最初に発した言葉は──


「……アキは、どこ?」


 彼女の名は、エール。


 前世の記憶をそのまま引きずって天使としての生を受けた、異質な存在。

 通常であれば、そんな「不良品」はすぐに再構築される。魂を分解し、記憶を削ぎ落とし、再調整される。


 だが、それは実行されなかった。

 なぜなら、エールがあまりにも優秀すぎたから。


 それはもう、異常なまでに。

 天使としての力、魔力、格、全てが規格外。

 既存の天使のあらゆる記録を更新し、腕を軽く振るえばそれだけで虚空が裂ける。

 最初に光を纏った時、その輝きに下位の天使は膝をついた。


 ──カミにも届く。


 そう囁く者もいた。


 冗談じゃない。

 そんなことが許されるはずがない。

 僕は、それを言った奴を嘲笑った。嘲笑って、二度とそんなふざけたことを言えないようにしてやった。


 そんなことが許されるはずがない。

 僕は誰よりも優秀だ。誰よりも優れている。優れていなければ納得ができない。

 どうして僕の幾千年がただ生まれただけの天使に劣るなどというのか。そんなことが許されるわけがない。


 ……けれど、心の奥底では──誰よりも早く、現実を悟っていた。


 僕が何千年、何万年とかけて築いてきた努力。

 積み重ねた功績。信頼。誇り。そのすべてを、一人の天使が、生まれた瞬間に意味のないものにした。


 それもただの才能一つで。

 そして何より、私の理性を崩壊させたのは──


「カミ候補? なにそれ、いらない」


 我々の前に顕現し、新たなカミ候補となったことを告げたトラスト様に向けて言い放ったエールの一言だった。


 喉元に杭を打たれたような気がした。

 僕が焦がれ、積み上げ、ようやく辿り着いたその座を……彼女はまるで無関心に放棄しようとしたのだ。


 今となっては私もよく理解している。

 エールにとって本当に、カミ候補の座などどうでもよかったのだと。

 なぜなら彼女の心には、最初からアキという存在しかなかったのだから。


 アキ。

 取るに足らない人間。エールがずっと気にかけていた、地上の一生命。

 天使は地上に干渉しない。人間と親密になることなど、なおさら禁忌に近い。


 だが、エールは違った。

 彼女はその魂を誰よりも愛し、覚えていた。執着と言ってもいい。


 ──なら、使えばいい。


 そう思った。

 そう思ってしまった。


 勝てない。絶対に、敵わない。

 あんな存在が現れた以上、私はもう絶対にカミ候補にはなれない。


 けれど、そんなこと許せるはずもない。

 あれほど僕が大切に守ってきたカミ候補の座をゴミ同然に扱ったこの女を許すことなどできるはずがない。

 だから、潰す。どんな手を使ってでも。


 エールの弱点。エールの唯一の執着。それがアキならば、そこを突けばいい。

 排除することはできなくとも、自滅させることは可能かもしれない。


 僕は転生者担当の任を、エールに任せた。

 そして、こう吹き込んだ。


「昔、天使が転生者と契約を結んで転生先の世界で一緒に暮らした事例があったらしいよ」


 そして、続けてこう続けた。


「もしエールがアキって少年と一緒にいたいのなら、彼が転生者になれば可能かもしれない。でも……意図的に誘導するのは規約違反だよ? まあ、改めて言うまでもないことだけど」


 まるで、忠告のように見せかけて。

 エールの性格を知っていた。彼女がどれほどアキという存在に執心かを知っていた。その妄執はいずれ規則を犯させることも。


 だから、仕向けた。


 私の手を汚すことなく、彼女自身の手で、彼女に罪を背負わせる。

 そして、その存在をカミに抹消されれば良い。


 ──そうすれば僕はまたカミ候補を取り戻すことができる。

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