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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
8章 それはきっと尊い理想

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天界にて

 血飛沫が舞い、命が流れ落ちる。

 眼前に立つレイの引きつった顔にさてはこれ戻ってきたら(・・・・・・)怒られる奴だなと理解した。


 ともあれすでに手遅れだ。

 死ねるのならば何でもよかったけれど、エールを浚いに行けるのならばなんでもよかったけれど、選んだ選択肢は今更変えられない。

 戻ってきたら、全部が無事に解決したならば、目一杯怒られよう。


 自らの首を掻き切った大鎌を握る右手に力を込めてそんなことを考えた。

 そして、仕上げの言葉を口にする。


「『死之賭博』」


 こうして、俺の二度目の人生は終わった。




 ──そして、三度目の人生が始まる。


「……これは、うまくいった……のか?」


 意識ははっきりしていた。

 自分が何者なのかも理解している。


 眼前に広がる光景はあのときエールと話した空間の面影を感じる薄暗さと遠近感の掴みづらさがあった。


「……いや、というかこれは……」


 薄暗い、とか以前に明かりがなかった。

 けれど、不便と感じることはないし目の前が見えないこともない。

 どういうわけか俺は目の前の光景を認識できている。


 遠近感が掴みづらい、とか以前に一定の距離以上から急に空間がそもそもないように見える。

 けれど、その先があるはずだと思えばそれは急に現れて、不要だと思えばそれはまたしても急に消えた。

 どういうわけか目の前に広がる世界は消えたり現れたりするらしい。


 謎空間過ぎる。

 ともあれ、


「……うまくいったみたいで一安心ってとこかな」


 こんな不思議空間なんてそれこそ天界をおいて他にはないだろう。

 命がけの誘拐はひとまず第一段階はうまくいったらしい。


「……よし、じゃあ行くか」


 計画の第二段階、エールを探す。

 前後左右似たような光景しか広がっていないので正直詰んでる気がしないでもないがなんにしても動かないという選択肢はない。

 直感に任せてなんとなくエールが居そうな気がする方へと歩を進める。


◇◆◇◆◇


「……やっぱりもうちょっと計画立てて動くべきだったかな」


 どれだけ歩いたかはわからない。

 時計なんてものは当然ないので時間の感覚も存在しない。空腹もなければ疲れもない。ただ、同じような景色が繰り返し現れる。

 少しずつ精神をすり減らされるような感覚だけがあった。


「……誰か案内してくれないかな」


 とても敵地に侵入しているとは思えない有様だが、そんな独り言を言ってしまう程度には歩いた。


「勝手に来ておいて悪びれもせず案内を頼もうなんて随分と礼儀がないんだね」


 だから、背後から聞こえたその声に一瞬体が硬直した。


「……ッ!?」


 慌てて振り向く。その瞬間、世界がぐにゃりと歪んだような錯覚があった。


「……ぐっ!?」


 理解する暇もなく、鋭い衝撃が身体を襲う。

 景色が跳ねる。空気が跳ぶ。どうやら俺は宙に浮いたらしい。そんなどうでも良いことは分かっても肝心の状況は分からない。

 浮遊感はすぐに消えて、次に感じたのは地面に向かって働く重力と痛み。

 痛みを知ろうと視線を下げるとそこには明らかに関節の仕組みを無視した形でくの字に曲がった右腕があった。


「……折れてる……っていうか砕けてる……?」


「おや、軽く突き飛ばしただけのつもりだったのだけど……。ごめんね、君の脆さが僕の想像以上だったらしい」


 何がどうなってそうなったのか。

 知りたいことは聞き覚えのある声におおよそすべて理解できた。


 切りそろえられた白髪に橙と緑のオッドアイをした人形のように整った顔立ち。

 それをお世辞にも友好的とは言い難い嗜虐性を孕んだ笑みで歪めながらトアと名乗った天使は俺を見下ろす。


 あまり、いい気分ではなかった。


「いえいえ、気にしないでください。……エールだったら、こうはなりませんけどね」


「………………黙れ」


 軽口は思った以上の結果をもたらす。

 こめかみにピクリと青筋が浮かぶ青筋と殺意を伴った視線。

 

 うっすらそんな気はしていたが、どうやらトアはエールに対して何かしらコンプレックスを抱えているらしい。

 まさかここまであからさまに反応するとは思っていなかったけれど。


 ……よし、もう少し探ってみるか。


「……な──ガッ!?」


 開いた口が、声を出す前に苦悶の呻きへと変わる。

 視界が跳ね、内臓が持ち上がったような感覚。


 ──トアの拳が、俺の腹にめり込んでいた。

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