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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
8章 それはきっと尊い理想

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天界

「……」


 目を覚ますと、柔らかな温もりを感じる。それと同時に自分が横になっていると理解した。

 それでもなお状況はつかめず情報を求めて天井を向くとそこにはレイの顔があった。


「……おはよう、アキ君」


「……レイ。……えっと……なんだっけ……」


 膝枕をされていた。

 そのことを理解してなお疑問は尽きない。


 何がどうなってこうなったのか。

 レイに膝枕されるのなんてよほど何か大変だった時かよほど何かやらかした時くらいしか思い当たらない。基本後者だ。つまり、また俺は何かやらかしたらしい。

 そうなってくるとレイの声が妙に優しかったのもちょっと怖くなってきた。

 

 …………そうだ。優しい声だった。

 優しい声で、そのうえ悲しい声でもあった。

 悲しいならそんなこと言わないでいいのに。訳も分からないままたぶん誰も幸せになれないようなことを言っていた。

 それがとても嫌で、分からないのに止めないといけないという予感だけがあって。

 そして──俺は止められなかったのだ。たぶん。


 最後に見えた背中が妙に冷静にそう結論付けさせた。


「……エール」


 言葉にこぼれ、身を起こす。

 答える声はなく、周囲にあの騒がしく勝手で契約者だからだとか何とか言って側から離れない天使の姿はない。

 その代わりに視界に入ったのは、あの時俺を止めたであろうシズクだった。


「シズクさん……」


 気づけば彼女の前まで体は動いていた。

 言うべき言葉はきっと他にあるはずなのに、口は勝手に動いた。


「どうしてですか。……どうして、 邪魔をしたんですか」


 意味のない恨み言なんてどうしたって今言わなくてはいけないことじゃないのに。

 分かっていてなお、その言葉を撤回はできない。吐いた唾は呑み込めない。

 後悔と浅はかな期待を前にシズクさんは何も答えない。代わって口を開いたのは彼女の隣にいた先輩天使だった。


『そんなことも言われないと分からないか。あれ(・・)もそれほどまでに愚かではなかった』


「……」


『お前はシズクに命を救われた。感謝をする理由こそあれど、くだらない八つ当たりをしていい道理はない』


 全くもってその通りだ。ぐうの音もでない。

 命が惜しいのならば超えてはならない一線を越えようとして、シズクさんとこの天使は親切にもただそれを止めただけだ。

 分かっている。言われなくても、そんなことは。


「それでも……あそこで行かせちゃいけなかった……っ」


 許せない。あそこで命を救うために止めざるを得なくなるような自身の弱さが。

 あの時と何も変わっていない。弱いせいで何も守れなくて、弱いせいで抗うことすら許されない。

 散々呪った弱い自分から、何も成長できていない。

 そんな姿に何を思ったか、先輩天使はため息をついた。


『言っていただろう。あれは天界の規律に違反した。何があったのかは憶測でしか語れないがそんなものに意味はない。たとえどんな理由があったところで規律違反が許されることはない。その先にあるのは存在の消滅だけだ』


 淡々とただ事実だけを先輩天使は並べる。


『そして……天使が人間を意図的に死の運命に導くことも、過剰な力を与えることも、まごうことなき規律違反だ』


 ほんの一瞬だけ言葉を止めて、なお先輩天使は続ける。

 その言葉が何を意味するのかも分からない程に愚かではないつもりだ。


『加えて、トアはあの愚か者が生まれるまでは最も優れた天使だった。そのトアを凌駕するあの愚か者ですら足元にも及ばないのがトラスト様だ。……貴様ごときが何を思おうが、この結果に変わりはない。ただ、人間の死体が一つ増えるかどうかというだけの話だ。……貴様が今すべきはどうしようもない終わった話に無駄な後悔をすることか? 何を思ったところで人間が自らの意志で天界に行く手段など存在しない。……貴様には他に守るべきものがあるはずだ。優先順位をはき違えるな』


 わざわざ、大して興味もないはずの俺に丁寧にも説明をしてくれた理由。

 途中からうっすらと察してはいたそれを直接的に言葉に出さず先輩天使は告げる。

 そして、それは全くもって正論だ。


 トアとトラスト。

 あの二人と俺の間には圧倒的な力の差がある。

 勝つどころか勝負になるかすら絶望的だ。

 ましてや天界に行ってしまった今となってはどうやってエールを連れ戻しに行けば良いのかすら分からない。

 同じ土俵にすら立てていない。

 

 そして、どうしようもないことに時間を使っていられるような余裕が俺にはない。

 ジジ達との間にだって全く埋まる気のしない圧倒的な力の差があるのだ。

 そして、それを埋められないまま封印が解かれれば、その先にあるのは俺の守らなければならない人達が最初からなかったことにされる世界。


 そんなことが受け入れられるはずもない。


 だから、分かっている。

 言われた言葉の全てがその通りであることも。

 救える見込みがある世界を救うために一秒でも無駄にしないためにわざわざ説明をしてくれたことも。

 大事な人たちが居なかったことになることを黙って見逃せるはずがないことも。

 示してくれた誠意には報いるべきだ。分かっている。


 だからこそ──


「……教えてくれ。どうすればエールのところに行ける?」


 泣きそうな顔して勝手にいなくなるなんてふざけるなよ。バカ天使。

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