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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
8章 それはきっと尊い理想

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無駄な抵抗

 嫌な予感しかしない。

 それでも恐る恐る言葉の真意を問いかけようとしたその瞬間――


「どうやら、エールは大人しくついてくるつもりはないようです。申し訳ありません、レイスト様」


 トアはレイストにそう告げた。


 「っ――!」


 本能が警鐘を鳴らす。

 それと同時に、すでにコトは終わっていた。


 深々と拳が突き刺さる。

 脳が理解した頃には俺の身体はすでに冗談みたいな吹き飛び方をして地面を転がっていた。


「…………?」


 だが、痛みがほとんどない。

 理解すら追いつかない、本能が死を予感するほどの攻撃をもろに受けたはずなのに、ダメージは皆無に等しい。せいぜい全身が多少の倦怠感とピリピリとする痛みに包まれている程度。不自然なほどに無事だった。

 その理由は腕の中から聞こえた声によって解消する。


「……アキ、大丈夫? ボクの力を流したからそれほどダメージは大きくないと思うんだけど……」


「……大丈夫。助かったよ、マジで。あれ生身で受けてたら死んでた説ない?」


「うん。たぶん、内臓ぶちまけてお腹に大穴空いてたんじゃないかな」


「拳で出ていい威力じゃなさすぎる……」


 どうやら瞬間的にエールの方から俺に力を貸してくれたらしい。

 全身が多少痛むのはそっちが原因かもしれない。


 ……しかし、困った。

 全身が痛むということは器である俺の許容量を超えた力をエールから俺は借りたということになる。

 シズクさんのおかげで俺の許容量は増えていて、今なら5%程度であればエールの力を借りてもほとんどノーリスクで扱うことができる。もし、時間制限をかければ10%程度までならノーリスクで引き出せるだろう。

 つまり、全身が多少の異常を訴える程度の許容量を超えた力を引き出して、そのうえでたった一撃でその全てを消費したということ。


 ──あまりにも格が違いすぎる。


「……ごめんね、怖い目にあわせてしまって」


 状況を理解して、思わず頬が吊り上がる俺にエールは優しく微笑む。

 そうして、まるで幼子にするように頭をなでると、立ち上がりゆっくりとレイストの方へ向き直った。


「ボクは……抵抗しない。ついて行くよ。最初からそのつもりだ。貴方相手に抵抗できるだなんて思っていない。分かってる。……だから、誰にも手は出さないで」


 そう言って、深々と頭を下げた。


「……」


 レイストがエールの言葉に何かを返すことはない。その代わり、ただ無言で背を向けることで彼女の申し出を認めたことを示した。

 そんなレイストの姿にエールは胸をなでおろすと安堵したように表情を緩ませる。


「……ありがとう」


 小さく呟かれたその言葉が届いたのかは分からない。

 しかし、少なくともそのやり取りはトアを納得させるものではなかった。


「……レイスト様、よろしいのですか?」


 レイストは答えない。

 トアはさらに一歩前に出て言葉を続けた。


「この人間達をここで見逃せば、面倒ごとの種になるやもしれません。今ここで確実に摘んでおくべきではありませんか」


 その言葉にもレイストは反応を示さず、ただ一瞥をくれただけだった。

 トアは僅かに顔をしかめるが、それでも食い下がる。


「レイスト様、エールを連れて行くのならば、それに関わる人間を確実に排除しておくべきです。後顧の憂いは断っておいた方が――」


「――いつから貴様はワタシを顎で使える立場になった?」


 低く、しかし確実に場の空気を凍らせる一言が響く。

 トアは息を呑み、即座に頭を垂れる。


「……失礼しました」


 恐怖の滲んだ声でそう応えたきり、トアは頭を上げることもできないまま黙りこくる。

 こうして、エールとレイスト、そしてトアの間での結論は出た。


 ──だが、


 俺にとっては、まだ何も終わってはいない。

 勝手に結論を出すなよ。勝手にそんな大事そうなことを決めるなよ。

 だって、お前たぶんそれついて行ったら処刑されるんだろ?なんでそんな大事なこと勝手に決めるんだよ。

 震える体を抑え込んで強引に口を動かす。


 「ちょっと……待ってもらえますか」


 自分が明らかに足りていないことなんて分かっている。口を挟むなんて分不相応にもほどがあるとも理解はしている。

 それでも言わなければならないことがあった。

 だから──


 ――ドンッ!


 足元の地面が弾け飛ぶ。

 レイストからの無言の警告。

 言葉にされずとも、それが次の発言を間違えた先にある俺の未来であることは理解できた。


 めちゃくちゃ怖い。

 それでも──言ってやる。


「俺の友達……っ、連れて行くのやめ――」


 しかし、その言葉を最後まで紡ぎきることはできなかった。

 視界が一瞬揺らぐ。


 次の瞬間、強烈な衝撃が襲いかかり、容赦なく地面へと体を叩きつけられる。

 それが何なのかすら理解する余裕もなく、意識が遠のいていく。


 最後に映ったのは、自分を地面にねじ伏せたシズクの姿だった。


「……ごめんね、アキ」


 優しく、しかし決して抗えない力で押さえ込まれたまま、意識は完全に闇へと沈んでいった。

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