真実
どういうわけか、その言葉にきっと嘘はないのだろうということが理解できた。
嘘であれば良い。だからこそ、きっとこれは真実なのだ。
「ち、違う……っ。違っ……わない、けど……でもっ! でも……ボクは……っ、ただ君に……っ」
そんな、漠然とした諦観にも似た理解を、エールの震えた声が残念ながらその態度でもって補足して見せた。
「…………あー、エール。えっと……」
しかし、まぁ、どう言葉をかければいいのか分からない。
正直なところ、エールに対して怒りも疑念もない。もちろん聞きたいことはあるが、そこにあるのは純粋な好奇心程度のものでしかない。
ただ、目の前で明らかに動揺しているエールに、何と声をかけるべきなのか分からず、声をかけあぐねていた。
「…………っ!!」
それが良くなかったのだろう。
俺のそんな煮え切らない態度をどうやら酷く悪い方向に捉えたらしく、これ以上ないくらいに分かりやすく顔を引きつらせて絶望を浮かべるとエールはそのままふらふらと後ずさった。
「……ご、めんね、アキ。……本当に、ごめん……」
そして、そのまま背を向けてトアたちのもとへと向かおうとする。
「え、ちょっ、いやいやいや、待った待った!!」
慌ててエールの腕を掴む。
こちらにも非はあったのかもしれないが、それにしたって結論が出るのが早すぎる。
もうちょっと会話を大事にした方がいいよほんとマジで。
「あのな……勝手に解釈して、勝手に結論出すのやめろよな。いや、俺も人に言えた口じゃないけどさ」
少し迷ってかけるべき言葉なのか確証はないまま、なるべく空気が重くなりすぎないように自虐を交えてそう口にした。
ふりかえり俺を見上げる涙の溜まった瞳に内心でやっぱりこれかける言葉間違えたんじゃないかなと不安になりつつ、なるべく何も考えていなさそうなへらへらとした表情を心がける。
不安に潰されそうになりながらもしばらく待つと、ポツリとエールが言葉を溢した。
「……だって……君に、嫌われたらボクは……っ」
ひとまず安堵した。
かける言葉も表情も不安に思うほど間違ったものではなかったらしい。
そして次に呆れた。
エールの言葉にため息をついて、そのまま言葉を紡ぐ。
「いや、嫌いになれるほど話に頭が追いついてない。それに、そもそもそんな簡単に嫌いになれるような関係性でもないだろ……。よく分からんけど、別にエールが俺のことを殺したからといってそれで嫌いには多分ならんよ」
本当によく分かってないからあれだけど、殺されるくらいじゃ済まない借りが彼女にはあるのだ。
受けた恩を考えれば仮に今すぐここで殺されたところでよっぽど感謝の方が大きい。
本人にそれを言うとなんだかめちゃくちゃ重たい要求をされそうなので言葉にはあまりしないようにしているだけでそれくらい俺にとってエールの存在は大きい。
「…………」
適当に喋りすぎたせいか、あるいはあまりにもエールにとっては意味の分からない言い分だったからか、まるで時間が止まったかのようにこちらの顔を見つめたままエールの動きが完全に静止する。
「……っ、う、うぁぁぁぁ……っ!!」
そして、今度は堰を切ったように泣きじゃくる。
「──ごめんっ、ごめんね!! ボクが……っ、ボクのせいで君を……本当にごめんよぉぉ!!!」
今度は俺が静止する番だった。
抱き着きながら、何度も謝罪の言葉を繰り返すエールにかける言葉も取るべき態度も分かりはしない。
ただ、ここまで泣かれるとさすがに話を続けるのは無理だということは理解できる。
だから、先の言葉の真意を聞こうと俺はトアに視線を向けた。
──件の天使は先ほどまでの友好的な様子は影を潜め、心底退屈そうな表情でエールを眺めていた。




