旅の始まり
数年後
領界スレイシャガル国 とある小さな王国
太陽の乱反射が海に差し込み その神々しいまでの光が一望できる崖の上に建つ民家
そこには洗濯物を干す女性と無邪気に遊ぶ一人の少年がいた
「ハァ…… ハァ……」
穏やかなその日常の風景に淀む一つの影が 生い茂る森の木陰から二人を覗きこむ
「誰?」
少年がその人影を見つけて森の中へと入ろうとする
女性は丁度死角になって気付かない
森の中を好奇心で突き進む少年の前にその男は現れた
「……………ラウル」
「おじさん誰?」
ラウルの目の前には
服一面が泥に染まりよく見ると体中傷だらけの男
男はラウルの両肩を掴みその弱々しい声で言う
「俺はアバルトだ…… 大きくなったなラウル!!」
「!?」
ラウルはその瞬間肩の手を振りほどき アバルトから逃げるように距離を取る
「……アバルト」
「そうだ!! お前にはやるべきことがあるんだ お前の両親は死んだ……」
「え…… 何を言ってるの?」
「お前達の………… っ……… 両親は〝奴隷〟だ」
「どれい………?? どれいって何?」
「それは… その……」
アバルトはまだ幼いラウルに奴隷の事を話していいのかどうか迷う
視線を下に逸らすも ラウルの顔を見る頃にはラウルの顔色は徐々に変わる
「おい……… どうしたんだ?」
アバルトを見るそのラウルの顔は初対面に対して見せる顔では無かった
いや 人を見るような顔でも無い
「ハァハァ…… 怖い… 怖いよぉ……」
呼吸は乱れ その場に座り込むと同時にラウルと一緒にいた女性が血相を変えて走ってくる
「何ですかあなた!?」
「違う…… 俺は…」
「この子に近づかないでください!!」
まるで子を守る母親のよう
女性はラウルをそのか弱い身体で包み アバルトに背を向けた
「っ………」
アバルトは言葉が見つからず 静かにその場を離れた
去り際に見た女性の脇腹を掴むラウルの手が見える
ーー………良かったな
人気の無い森まで走ると
アバルトは一本の木にもたれかかり 身体を蹲る
「言えるかよ…… 言えるかよ!!」
ーーカリオス お前あのときなんでこの事を話せって言ったんだよ…… ラウルが苦しんでるじゃねぇか!!
領界ファミリアフォードット
首都グレイツブリトンから西方へ数日かけて船を進めると辿り着く
隣国アンリッチ側に位置する 西の領地ダグラス
小さな島に聳える要塞のような場所の とある檻
「奴隷番号29059番!! いるか!?」
鉄格子の奥に座る奴隷を叩き起す
「返事しろ! お前だ!!」
「〝ニクロ〟が起きる…… 静かにしてくれ」
「奴隷の分際で生意気な…… まぁいい手紙だ!」
「手紙?」
「内容が内容だったんでな…… 他の監視員に言うなよ」
監視員は手紙を奴隷に渡した
奴隷は椅子に座り直し 折りたたまれた手紙を開いた
〝 拝啓 アルトラ・ティーチ
檻の中の生活はどうだ? 人として戻ってしまったが為にその不自由は昔よりも過酷だろう
私は良い暮らしをしている
妻が居て 子供がいて 何不自由の無い生活だ 羨ましいか?
確かお前のとこにも子供がいたな
どうだ? いっそ両親共奴隷にして〝母親は大量に子供を産まされて死んだ〟とかにしておいた方が
子供も諦めがつくんじゃないか?
馬鹿な主を信じた自分を死期が訪れるまで懺悔でもしてるといい
俺は裏切ったこと後悔していない
老いた余生を 精々大国の為に役に立つことだな
An Inconvenient Truth ~~全てを主の為に~~ 〟
手紙を読み終えたアルトラは紙切れを近くの床に置く
そして先ほど手紙を渡した監視員がからかいにやって来た
「フハハハ!! どこの誰だか知らないが 救われねぇ可哀想な老人だな!」
「…………まったくだ」
面白いリアクションをしなかったからなのか 監視員はその場を不機嫌に立ち去る
アルトラは傍で寝ているニクロの頭を優しく撫でる
「こんなもんだ…… 世の中ってのは
だがな お前を思っている者は少なからずわしだけではなかった…… 良かったなナット」
手紙を再度読み直し アルトラの目には少なからずの光
こんな狭い世界で生きがいを見つけた そんな目をしていた
ーー誰だかわからぬが了解した ナットにはわしが教えよう
そしてさらに数年が経ち
民家の扉を勢いよく開け 一人の少年が飛び出て来た
「じゃあ行って来ます!」
「そんなに大きなリュックを持っていかなくても……」
「備えあれば憂いなし! そろそろ船が出るから行くよ おばさん!」
「次に行く場所の国の名前覚えてる?」
「アンオーメン わかってるって……
それじゃっ! 師匠にもよろしく言っといてくれ!」
「はいはい…… 行ってらっしゃい ラウル!」
ラウルは手を振り 民家を後にする
国の港から出る客船に乗り 後方に見える自分の育った家を見つめた
そこにはずっと支えになってくれた乳母の姿が小さく見える
「始まるんだな…… まずは師匠がくれなかった真剣探しだ
結局二刀流がしっくりきたから双剣欲しいな!!
腕を磨いて 師匠を越えて 世界に名を轟かせてやる!!!」
ラウルは船首に立ち 両手を上げて叫んだ
「待ってろ!! ガルバーク帝国!! 今行くぞぉぉぉぉ!!!」
「こら君!! 今すぐそこ降りなさい!!!」
船員に注意され ラウルはペコペコしながら降りてきた
「あはは…… ごめんなさい」
ここから一人の少年の旅が始まった
少年の名は ラウル・ウォード
クロォンメモリアル歴
R980 序章 悉無律の正義 完
R994 旅の始まり 序




