父と母の国10 An Inconvenient Truth
辺りは静かになった 聞こえるのは紅い唸り声だけ
大国の兵士とルシファード教会の信者達が次々に小船に乗り込む
その一人一人が当たり前のような顔をして
そんな中特に奇特な表情を持っていたのは ベルネットだった
「最後の最後にハルラと仲直り出来た! 良かった……… 良かった…!
〝 世界はお前のものだ 〟 これって僕達の考えと同じだよって事だよね!?」
屈託ない笑顔で問うベルネットに 小船の隣で座っていた側近は平然とした顔で答える
「えぇ それでいいと思います
あなたの…… あなた方の理想が現実になる未来が我ら人類にとって平和を意味するのですから」
側近の言葉にベルネットはただただその嬉しさを表面に表れ まるで無邪気な子供のように喜んでいた
ーーそうです…… それで良いのです
我らが道を歩んで行く中で忘れていけないものはルシファードの正義
人が人を支配する界に置いて その階層の上に立つ者達が常に意識しなければならないもの
それは〝 暴食 色欲 強欲 憂鬱 憤怒 怠惰 虚飾 傲慢 嫉妬 〟
この九つの柱こそが 先祖を凌駕し 子孫が正しい夢を追う先に用意されている理想郷
守らねばならない ルシファードこそが全て
そしてその正義の一つを貫く者こそがベルネット様 あなたなのです
〝怠惰の思想家〟として 道を踏み外す輩はこの私が排除します。
小船に揺られながら大型船に戻る中ベルネットがあることに気付く
「そういえばこちら側に考え直したあいつはどうしたの?」
「カリオスですか? あの者は罪を償うと言ってあの国と最期を共にするらしいです
大国に害する国と共にしていた贖罪のつもりなのかわかりませんが……
ルシファードに正面から向き合いたいと言う責任を尊重しましょう」
「シャトー・ディオはどうする?」
「品は良い物です 既に世界七大珍品に登録されてますし領土の恵みは罪ではありません
特殊な発酵の技術は既に手中にあるので発酵元を別の国に偽らせ そちらで量産させましょう」
「ふ~~ん…… まぁバレないか……」
全員が大型船に乗り移った後 全隻が同じ方向へと進路を変えて
目の前で崩れ去る国を当たり前のようにそのまま国へと帰っていった
一人残ったカリオスはハルラの亡骸を背負いながら崩れ去る国を進路の定まらないよろけた足で進んでいた
賑やかだった国民がいないのは当たり前 辺りには焼け焦げた死体のみ
山を上がり反対側の海を覗く その海に浮かぶ一隻の船が見えた
元奴隷だったアルトラや他の奴らが捕まり船内へと連れてかれるのが見える
ふと農園近くの避難所に向かう
生存者がいるかもと軽はずみな期待を持ち合わせながら洞窟の中へと進む しかしそこにいたのは
「メルヴァ様………」
生気をまったく感じさせないメルヴァの隣に 背負っていたそれと似たハルラをそっと寝かせた
「お似合いですよ…… 二人共」
気まぐれか否か 二人の手を握り合わせその場を後にする
そしてカリオスは思い出の場所を次々と歩きまわる
ハルラが密かに訪れていた泉 今や魔蛍もいないただの水溜りに見える
ハルラがいた王宮 外では数人の兵士と共に剣を握りながら串刺しにされているハルラの父の姿
カリオスはそれを全部あざ笑いながら面白可笑しくどんどん突き進む
「俺が悪いんじゃない…… こうなる事は必然なのだから……」
笑いと共に進む足を 突如森の茂みでざわつく枝の葉で瞬時に止まった
「…………アバルト?」
垂れ下がる木の枝を除けると そこには蹲るアバルトがいた
「カリオス……」
怯えきったアバルトの隣には
毛布に包まれた赤子がいる
「この子は?」
「あぁ…… ラウルだ ラウル・ウォード……」
その名前を聞いてカリオスは洞窟に眠るあの二人を思い出す
「っ…………」
「あんたは…… 無事だったんだな……」
「え!?」
「良かった……… アルトラ達は…… 逃げ切れたのかな?」
「…………」
ーーこいつは俺がしたことを知らない そして アルトラ達はもう……
カリオスはアバルトとの会話に目を合わせられず ふとラウルを優しく抱きかかえる
泣き疲れたのかこの状況で怯えもせず寝ているラウルの顔がカリオスの目に映る
ーーハルラと…… メルヴァの子……
ラウルを見るカリオスの顔は綻び そしてゆっくりと顔を上げて地獄の景色を見渡す
ーーあぁそうか………
頬を伝う涙がラウルの毛布に染みる
熱気に抗うその一滴の正体は今のカリオスの水面下から掬われるものだった
「俺が間違っていたんだな………」
自分で自分の罪を認めたカリオスは ただただこの絶望的な状況下に似合わない顔を作る
「なんだよカリオス…… その嬉しそうな顔は…?」
「まずはここを逃げるぞ!」
「え!?」
「ハルラ様の子を誰が守るんだ!?」
誰もいない港の小船を一隻海に浮かせ そこにアバルトだけを乗させる
カリオスはかき集めた食料とオールを積ませて後ろの部分を軽く押しだそうとした
「おい! お前は乗らないのか?」
「ここから真っ直ぐ行けば情報の行き届きが少ない島国がある
お前はまず逃げることだけを考えろ! ラウルは俺が守る!」
「っ………」
「お前が奴隷だと言うことを知ってる奴は多い 気を付けろよ」
カリオスはそう言って船尾を押そうとした しかしすぐさま船を掴み直す
「アバルト……… 最後に頼みごとがある」
カリオスは真剣な顔でアバルトに告げる
その内容にアバルトは声を詰まらせ後ろに倒れる動作を取った
「なんで…… なんでそんな事をわざわざ……」
「考えがあるんだ…… 頼むぜアバルト 忘れんなよ!」
「あぁわかった…… わかったよ…… そっちも頼んだぞ!」
船尾を押し出し アバルトは海へと出た
カリオスも別の場所から船を出してラウルを乗せて陸を離れる
「……………」
後ろを振り向くと火で照らされた国一帯を一望できる
カリオスは何も出来ない悔しさと己の罪を心に抱き ラウルを見る
「迷うなよ……ラウル…… 答えを先延ばしにしていたら 全部失うかもしれないんだからな……
お前がその難関を越えられる様になるまで俺がお前に教えてやるから…… 後悔しない生き方を
失敗して後悔を経験した俺がお前に正面から言えるかわからないけど
お前のお父さんに任せられたから……… 全力で…… お前を……… うぅ…… ぅぅぅ……」
口にした後悔の意味が 今になって大事の脅威となって返ってくる
胸を押さえ 深呼吸しても抗えない目に見える事実 どれだけ夢見ても創り直すことは出来ない
「ぅぅぅぅぅ……… ぅぅぅぅう……!!」
ラウルを起こさないように 口を噛み締めながら泣くカリオス
意地悪な風は 良好な追い風
自分が尽くしてきた大地はあっという間に小さくなり
手で覆い隠せるほど 手の届かない場所まで遠ざかっていった
今回の一件はそれほど大事にならなかった
それどころか 反乱国を罰した大国と隣国の王達は英雄扱いされ
領界内の平和は守られたと民達は安堵し 明日に向けて安らかに眠りに就く
この事件に名は無い
既に大国ファミリアフォードットの手によって消された国は10を容易く越える数字が出ている
考えが違うから仕方ないという考えを大国の奴らは生憎持ち合わせていない
自分達の思想に従わない者は反逆者だと捉えるのが普通なのだ
シャトー・ディオは引き続き世界七大珍品の酒の秘宝に登録され
捕まったアルトラ達は また奴隷として競売にかけられた
人に買われ 人に売られる 逃げられないとわかってる人生でアルトラ達の目は瞬く間に死んでしまう
王国フランバッカス
死亡者 約1千2百万人 全国民死亡確認
その人口密度に奴隷を加算されてた事を知った領界内の賛成派の王達は今回の事件に対して口を揃えて言う
「「「「「 〝当たり前だ〟 」」」」」




