表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンストル  作者: 髪槍夜昼
混沌と野望の人狼
97/136

第九十七夜


「―――――――!」


「チッ!」


何事か分からない叫び声を上げ、正気を失った吸血鬼達が暴れ出す。


振り下ろされる拳や武器を躱しながら、ルーセットはヴィエルジを見た。


戦いが始まってからヴィエルジは一歩も動いていない。


ベールの下で微かな笑みを浮かべ、ただルーセットを見つめているだけだ。


「お、おい、何だこいつらは…?」


「敵襲、敵襲だ!」


既に他の吸血鬼もヴィエルジの存在に気付いている。


その事実を理解しながらもヴィエルジは余裕の態度を崩さず、新たな吸血鬼を生み出す。


人間上がりの吸血鬼など、どれだけ増えても構わないと言うことか。


数の差など、ヴィエルジには関係ない。


ヴィエルジは単騎にて軍となる吸血鬼。


無限に出現する吸血鬼の群れは、数の優劣を覆す。


(…だが、次々と敵が増えるこの状況は悪いことばかりじゃない)


コカドリーユ派の吸血鬼も巻き込んだ混戦になりながらルーセットは思考する。


(いくら肉体を増やしても操る魂は一つ。増えれば増える程に操作は単調になる)


大振りに振るわれた拳を身を屈めてルーセットは躱す。


お返しとばかりに、その胸に銀のナイフを突き立てた。


致命傷を受けた吸血鬼の身体が崩れ、灰の山となる。


「『サンドリヨン』」


一言、呪詛が紡がれる。


それは死者を月より呼び戻す呪い。


灰の山は再び吸血鬼へ姿を変えた。


「アイツだ。アイツがゾンビを生み出しているぞ!」


それを目撃した一人の吸血鬼が叫んだ。


勇ましい吸血鬼の男は、その手に影のような黒い剣を生み出してヴィエルジに斬りかかる。


「女性に剣を向けるとは、野蛮ですね」


ヴィエルジは嘲笑するように静かに呟く。


乱雑に振るわれた剣を擦り抜けるように躱し、男の首を撫でるように触れた。


「ッ…? …な、んだ…? 身体が、熱い…?」


自分の顔を抑えて男が言う。


男の肌が、熱病のように真っ赤に染まっていた。


燃えるように身体から黒い煙が噴き出す。


「灰になりなさい」


瞬間、男の身体は焼け落ちるように灰燼と化した。


ただの一度。


一度触れただけで、吸血鬼を灰へ変えたのだ。


「…顔に似合わず、エグイことをする」


「今、何をしたのか理解できたのですか? 優秀な子ですね」


苦い顔をしたルーセットを褒めるようにヴィエルジは微笑んだ。


嫌味ではないのだろう。


実際、他の吸血鬼達は何が起こったのか分かっていない。


「魔力を送り込んで破裂させたのか。そりゃ、魔力を送る眷属化は初歩の初歩だが、そんな処刑方法を思いつくか? 普通?」


「長生きすると色々と知恵がつく物なのですよ」


人間上がりも年月を重ねれば、純血に匹敵する魔力を得る。


クリュエルの例でそれを思い知った筈だったが、まだ認識が甘かった。


二百年を超える長命の吸血鬼。


これだけの吸血鬼を従えて、まだ他者に魔力を送り込む余裕があるとは…


「今、死んだコカドリーユ派の吸血鬼は甦らさないのか?」


「失敬な。私はネクロマンサーではありません。蘇らせるのは、私の同胞だけです」


「…なるほど」


何かを考えるような顔をしながらルーセットは頷く。


主義か制限か、ヴィエルジは自分の仲間以外の吸血鬼はゾンビ化しないようだ。


戦場で散った者達の無念を晴らすと言う大義名分の為か。


見知った同胞の方が操り易い、と言う理由もあるのだろう。


「…何か悪知恵を働かせているのですね。その顔、ソルシエールを連想させるので嫌いですわ」


「悪いな。地力が低い物で、足りない分はここでカバーするしかないのさ」


コンコン、と頭を叩きながらルーセットは笑った。


「月を隠す影よ。隠し偽れ『シメール』」


高らかな笑い声と共にルーセットの身体が無数の蝙蝠へ変わる。


それに面食らいながらも、すぐにヴィエルジは冷静に対処した。


自分の前に兵を用意して盾にし、別の兵で飛び交う蝙蝠を叩き落す。


「数で攪乱するつもりですか? その程度で、私を動揺させることは出来ませんよ」


「「「試してみるか?」」」


挑発的な声を上げて蝙蝠の大群は、ヴィエルジを飲み込んだ。








同じ頃、別の空の下で一つの戦いが繰り広げられていた。


夜空を埋め尽くすほどの、赤い怪鳥の群れ。


その一匹の上に立ち、クリュエルは嘲笑を浮かべる。


「ここからでも、血の臭いを感じる。早くアジトへ戻った方がいいんじゃないですか?」


態度こそ余裕を装っているが、その身体からは血が零れ、眼は虚ろだった。


当然だ。


先程、モールに心臓を串刺しにされてから殆ど時間が経っていないのだ。


既に身体は瀕死。


にも関わらず、クリュエルは獰猛な殺意を目の前の男へ向ける。


「クリュエル。そこを退け」


その男、コカドリーユは静かに言った。


片腕は未だ再生しきれていなかったが、その威圧感は微塵も衰えていなかった。


「今の余は機嫌が悪い。お前相手でも、手加減を忘れてしまうかもしれんぞ」


「は、ははははは! まさかアンタの口から手加減なんて言葉が出るなんて、修行中に俺を何度も殺しかけたのは誰ですか」


懐かしそうに、楽しそうに笑った後、クリュエルは冷たい目をコカドリーユへ向けた。


「ルヴナン卿に手を下したのは、俺なんですよ。コカドリーユ卿」


「………」


「あの感覚は、忘れられませんよ。大戦を終わらせた英雄が、雲の上の存在だった英雄が、俺なんかの手で殺されるなんて!」


笑いながらクリュエルは涙を流していた。


敬愛と憎悪と悲哀と、様々な感情が混ざった顔で笑い続ける。


その顔を見て、コカドリーユは深いため息を吐いた。


「…分かった。来い、クリュエル。引導を渡してやる」


「ははははは! 盟友が殺されたってのに変わらないですね。その変わらない強さが、憎かった!」


最早、赤い嵐と化した怪鳥の群れを操ってクリュエルは襲い掛かる。


「俺はずっとアンタ達のようになりたかった! 俺だって、英雄になりたかったんだ!」


血も、魔力も底をつきている。


戦えば戦うほどにクリュエルの魂は削れていく。


それでも戦いを挑んだのは、恐らくモールの死にクリュエルも何かを感じたから。


嵐に包まれながらコカドリーユは残った片腕を振り上げた。


「俺の勝ちだ! 俺は、俺は、純血を超えたんだ!」


「『アエロリット』」


瞬間、クリュエルの身体は星の光に包まれる。


空を覆っていた赤い獣達は一撃で蒸発し、クリュエルの身体は焼き尽くされた。


「…ああ、やっぱり…コカドリーユ様は、強いな」


焼け付いた喉で、嬉しそうに呟いてクリュエルの身体は灰へと変わる。


狂気に満ちた目は、安心したように閉じられる。


「………………馬鹿野郎が」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ