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モンストル  作者: 髪槍夜昼
混沌と野望の人狼
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第九十五夜


『王の息子? ってことは、君は王子様なのか?』


男は驚いたように言った。


『ゴメン。とてもそうは見えない。だって王子様ってもっと上品な物だろう?』


虫も殺せなそうな顔の割に、遠慮のない男だった。


嘘もつけない素直な性格。


『それってそんなに凄いことなの? 僕は元人間だから、よく分かんないや』


世辞と嘘に慣れたコカドリーユには、それが心地よかった。


純血でも王族でもない。


コカドリーユ自身と対等に話してくれる言葉が、何よりも嬉しかったのだ。








「月よ。我が声に応えよ『アエロリット』」


雲一つない夜空、空に浮かんだコカドリーユの声が響き渡る。


その声に応えるように、空より星々が降り注いだ。


摩擦で燃え盛る隕石は、地上に佇む黒い影へ落ちる。


「お前だけは、百年前と何も変わらんな」


黒い狼はそれだけ言って、纏った霞の中に姿を消す。


狙いを失った隕石は誰もいない地面を抉り取った。


「チッ!…どこに…」


「後ろだ!」


肩から聞こえた声にコカドリーユは振り返るより先に拳へ魔力を纏った。


背後より迫る黒い影。


振り返りながら拳を突き出し、球体になった魔力を放つ。


「ハッ、前菜オードブルにもならんぞ」


跳ねるように空を舞うルーガルーは軽く腕を振るうことでそれを消し去った。


腕力で掻き消した訳ではなく、その魔力を根こそぎ吸収したのだ。


しかし、それによって出来た時間でコカドリーユは距離を取った。


触れた魔力を全て喰らうルーガルー相手に接近戦は不利だからだ。


「…百年前より動きが良くなってないか」


「むしろ、ブランクがあると思ったんだけどね」


コカドリーユの肩に止まったプーペは残念そうに呟く。


二人の視線の先には、大気を踏み締めるようにルーガルーが浮かんでいた。


「人間の戦い方を参考にしたのだ。いつもの食事にも、たまにはスパイスを効かせないとな」


「なるほど。その面白くないジョークもモールから学んだのか」


「たかが十数年の付き合いだが、意外と影響を受けていたようだ」


そう言って浮かべた皮肉げな笑みも以前とは異なる。


百年前と比べて魔力は劣っていると予想していたが、純粋な戦闘技術は以前より高まっているようだ。


「なら、こちらも最初から全力だ。星よ。我が声を聞けェ!」


普段とは異なる詠唱。


空高々に響き渡るコカドリーユの声が、月ではなく星々に届く。


夜の闇を払うような光の奔流。


燃え尽きた小型の隕石を集中させた光の雨が、ルーガルーへ降り注ぐ。


「………」


濁流に飲み込まれるようにルーガルーの姿が光の中に消える。


光と熱がルーガルーの肉体を焼き、黒い煙が広がった。


「まだまだ! アエロリットォ!」


それでもコカドリーユは追撃の手を休めない。


普段から余裕に満ちているコカドリーユだが、油断はない。


目の前の吸血鬼は、かつてコカドリーユ達を苦しめた正真正銘の怪物。


その身が灰になるのを見届けるまで、一切油断することは出来ない。


燃え盛るルーガルーへ隕石が放たれる。


光の雨で動きを封じられたルーガルーへ止めを刺すべく、巨大な隕石がルーガルーへ衝突する。


食前酒アベリティフと言ったところか」


その瞬間、コカドリーユは振り上げていた右腕に違和感を感じた。


右腕、右肩から感覚がなくなる。


「ッ…!」


遅れてくる激痛と喪失感。


右腕の、肩から先が失われていた。


傷口から血液が噴き出すことを感じながら、コカドリーユは前を見る。


そこには、無傷のルーガルーは佇んでいた。


その手に、コカドリーユの右腕を握り締めて。


「安心しろ、魂までは傷付けていない」


「ぐっ…!」


言葉通り、コカドリーユの傷口から再生が始まる。


傷口はすぐ塞がったが、能力に特化したコカドリーユは再生力が低い。


新しい腕を生やすには、まだ時間が必要だった。


「………」


ルーガルーなら、今の一撃でコカドリーユに致命傷を与えることも出来た筈だ。


それをしないのは、ルーガルーがこの戦闘(食事)を楽しんでいるから。


…遊ばれている。


コカドリーユは悔しさを堪えるように歯を食い縛った。


「しかし、妙だな。お前の能力はその程度なのか?」


「…余を愚弄するつもりか?」


「いや、そういう意味ではない。この星の重力を操るイクリプス。そんな強力な能力で『ただ隕石を落とすことしか出来ないのか』とルーガルーは聞いているのだ」


ルーガルーの疑問はある意味では的を射ていた。


コカドリーユのイクリプス『アエロリット』は重力を操る能力だ。


そうであるなら、ただ隕石を引き寄せるだけではなくもっと応用が利く筈だ。


例えば、地上のルーガルーに重圧を与えて動きを封じるなど。


だが、コカドリーユは隕石を落とすこと以外に能力を使わない。


否、使うことが出来ない。


「お前、自分のイクリプスを使いこなせていないのか?」


「………」


「いや、違うな。イクリプスとは魂の形。自分のイクリプスを使いこなせない吸血鬼がいる筈がない………であるなら…」


前言撤回し、ルーガルーは自身の推測を語る。


イクリプスを使いこなせない吸血鬼はいない。


まだ生まれて数年の吸血鬼なら有り得るかもしれないが、百年以上生きていながら自分のイクリプスを理解しない吸血鬼はいない。


そう、自分のイクリプスなら…


「お前のイクリプスは、他人の物か? 別の吸血鬼の魂を喰らって、そのイクリプスを奪ったのか。このルーガルーのように」


「ッ! お前と同じにするな! アエロリットォ!」


ずっと無言でルーガルーの推測を聞いていたコカドリーユが激高する。


イクリプスが他人の物であること、


誰かの魂を喰らったこと、


それらを認めても、ルーガルーと同じに見られることだけは認められない。


再び、夜の闇を切り裂いて無数の隕石が飛来する。


強力だが、単調な攻撃。


先程と全く同じように、ルーガルーに傷一つ付けることが出来なかった。


「…コカドリーユ。ここは一旦、退くべきだよ」


「………チクショウが」


悔しさを滲ませながら吐き捨て、コカドリーユはありったけの隕石をルーガルーに放った。


狙いも何も考えない絨毯爆撃。


それ自体がルーガルーに傷を負わせることはなかったが、十分に時間を稼ぐことは出来た。


全ての爆撃が終わった時、コカドリーは既に立ち去っていた。


「逃げられたか。まあいい」


ルーガルーは特に気にした様子もなく、不敵な笑みを浮かべた。


百年も待ったのだ。


今更少しの遅れなど、些末なこと。


ゆっくり時間をかけよう。


「どうして手加減したのですか?」


一人満足そうに頷くルーガルーへ言葉がかけられる。


初めからそこにいたのように、ルーガルーの傍にヴィエルジが立っていた。


激しい戦いの後に顔を顰めながら、非難するようにルーガルーを睨む。


「あの男の実力は知っているでしょう。あまり油断をしていると、痛い目に遭いますよ」


「それは、実際に痛い目を見た者からの忠告か?」


「む…」


ルーガルーの皮肉にヴィエルジは露骨に不機嫌な表情になる。


百年前と現代、二度もコカドリーユに敗北している事実はヴィエルジのプライドを深く傷つけていた。


「ならば、次はお前が行くといい」


「…は? 私がですか? 一人で?」


「そうだ、奴は手負い。お前でも止めを刺すことが出来るだろう」


ぴく、とヴィエルジの身体が揺れた。


ルーガルーの明らかな挑発と、手負いなら勝てるかもしれないと言う期待で心が大きく揺れる。


「…了解ですわ。その挑発、敢えて乗ってあげましょう」


「結果を楽しみにしているぞ」


「誰に物を言っているのですか。いいですか、私はこれでも貴方達よりずっと年上なのですよ!」


叫ぶように言うとヴィエルジは歩き出す。


怨敵であるコカドリーユの下へ。

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