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モンストル  作者: 髪槍夜昼
混沌と野望の人狼
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第八十六夜


銀の檻の中を『人間』モールは歩き続ける。


人間であるモールに銀など無力だ。


イクリプスを使って躊躇なく壁を破壊しながら、先へ突き進む。


人間でありながらイクリプスを持つ存在。


吸血鬼の中にありながら銀を無効化する存在。


やがて、モールは一つの場所に辿り着く。


そこは一つの骸が置かれた独房。


それは、素肌の上から分厚い毛皮のマントを羽織った大男だった。


上半身は剥き出しで、狼の皮のベルト付きのズボンだけを履いている。


頭に被せられた狼骨の王冠は、蛮族のように野性的だった。


獰猛な印象を受ける男だが、今は瞼を閉じて眠るように沈黙している。


「それじゃ、始めてくれ」


その遺骸を前にして、モールは呟く。


『………』


言葉は発さずに、モールの足下から影が浮かび上がる。


己の影に潜むもう一つの魂。


起き上がったモールの影は、ゆっくりと遺骸の中に入っていく。


「………………………………………」


ドクン、と死んだ筈の身体が脈を打った。


今までモールの身体に宿っていた魂が、あるべき場所に戻った。


百年間、静止していた時が動き出す。


スッと岩のような肉体に赤い線が走った。


血管にも見える赤い線は刺青のように怪物の全身に刻まれていく。


「…………………」


静かに怪物の眼が開く。


全身に血が巡るように、その冷たい身体に魔力が満ちる。


魔力が巡り、生を取り戻した身体を確かめるように起き上がった。


「………………は」


その口に、小さく笑みが刻まれる。


溢れた魔力が黒い靄となって、怪物の身体を包み込んだ。


その姿は、黒い毛皮に覆われた人狼であり、百年前に存在した怪物モンストルそのもの。


「ははは………ははははははははは! くははははははは! 取り戻したぞ!」


歓喜の声を上げて『ルーガルー』は復活を果たした。


吸血鬼を圧倒する存在感は、銀の檻の中でさえ霞むことはない。


長い付き合いであるモールでさえ、思わず身震いした。


「ここまで来るのは長かった。奴らに引き裂かれた魂の小片…それをお前がここまで運んでくれなければ復活など出来なかった」


「…それは良かったなぁ。自分のことのように嬉しいぜ、相棒」


「いつになく殊勝じゃないか、モールよ。このルーガルーが、用済みとなったお前を殺すとでも思っているのか? 心配するな」


機嫌良さそうに笑いながらルーガルーは十年以上の付き合いである相棒を見た。


「ルーガルーはお前に手を出さない。お前はお前の運命に従ってここまで来たのだ」


運命、と言う言葉をルーガルーは口にした。


プラニスフェルに残るちっぽけな魂だったルーガルーを見つけたこと。


ルーガルーの願うままに銀の檻へ運び、遺骸の下へ届けたこと。


全てが運命だったとルーガルーは断言する。


モールと言う男の人生は、今この時の為にあったのだと。


「この先も、お前は運命に従い続ければいい」


「………そうだよなぁ。逆らえないから、運命って言うんだよな」


ルーガルーと言う怪物が吸血鬼を滅ぼす。


それは既に決まっている運命だ。


矮小なモールに出来ることは、その運命に従うことのみ。


運命に逆らうことなど、出来ないのだから。


「さあ、百年ぶりの食事を始めよう」


壁と天井を破壊し、ルーガルーは百年ぶりに外に空気に触れた。


以前と変わらない夜の静けさ、何一つ変わらない空を見上げる。


その夜空に浮かぶ巨大な月を掴むように手を伸ばした。


「この地表に残った全ての血を啜り、ルーガルーはリュンヌへ至ってみせる!」


月へ吠える狼のように、ルーガルーは宣言した。








「何じゃ…?」


自身の肉体へ戻っていたルヴナンは思わず、口にした。


理由はルヴナン自身にも分からない。


闇しかない部屋の中で、ルヴナンは声を聞いたような気がしたのだ。


不吉な『狼の遠吠え』を。


「ッ…」


失った半身が、魂の古傷が疼く。


あの戦いで失った物は多かった。


失われた魂はどれだけ血を吸っても元に戻らず、その後遺症は不老であるルヴナンの姿を老人に変えた。


時が経ち、吸血鬼達が戦争を忘れようとルヴナンだけは忘れない。


ルヴナンにこの傷を負わせた怪物のことを忘れられる筈がない。


「…嫌な予感がする。クリュエルを呼び戻すか」


そう言うとルヴナンは霧となって魂を飛ばした。


その胸に、言いようのない焦燥感を覚えながら…








「この魔力の感覚………まさか」


同じ頃、ヴィエルジは銀の檻に向かう途中だった。


モールが銀の檻へ護送されたと言う情報を得たので、ヌーヴェル=リュンヌを率いて襲撃に来たのだ。


元々モールを殺害する為に行っていた襲撃。


何かしらモールとルーガルーの繋がりを悟ったヴィエルジはそれを阻止するべく行動していたのだ。


ヌーヴェル=リュンヌを立て直したのはヴィエルジだ。


今更、ルーガルーの後継者に奪われてはたまらない。


そう考えてモールの殺害しようと思っていたヴィエルジだったが………奇妙な魔力を感じた。


忌々しい、ある種懐かしい魔力。


この魔力は…


「………ルーガルー」


不快そうに、ヴィエルジは呟いた。

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