第七十七夜
「奴の強さは、膨大な魔力とイクリプスの無効化だ」
会議室で軍議が繰り広げられる。
集められたのはルヴナン、コカドリーユ、ソルシエール、クリュエル。
いつも通りの四人だが、纏う雰囲気はいつもよりも剣呑としている。
特にソルシエールとクリュエルの二人は先程の会話故に、ピリピリとした緊張感を纏っていた。
「だが、一つは余のイクリプスで突破出来るぞ」
「そう。奴のイクリプス『トゥルノワール』には抜け穴がある」
それは吸収できるのは、魔力だけであること。
天体から隕石を引き寄せるコカドリーユの攻撃は防げないこと。
「つまり、余がガンガン攻めればいいだけのことだろう!」
「そう上手く行くかしら?」
軍議に口を出さなかったソルシエールが口を開く。
楽観的なコカドリーユを馬鹿にするように一瞥し、ルヴナンの方を向いた。
「ルヴナンも言ったけど、ルーガルーには長年掻き集めた膨大な魔力があるわ。それが尽きるまで貴方は攻撃し続けるつもり?」
「当然だ」
「言っとくけど、数多の吸血鬼を喰らってきた彼の魔力は途方もないわよ。ただ百年生きた吸血鬼ってだけじゃない」
更に付け加えるなら、ルーガルーは失った魔力をすぐに補充できるのだ。
戦場で吸血鬼を喰らうことで、魔力を奪い取る。
どれだけコカドリーユが魔力を削っても、意味がない。
そして、能力を抜いたルーガルー自身も決して弱くはない。
戦場を駆け抜け、多くの吸血鬼を触れるだけで殺した実力を持つ。
コカドリーユが敗北しないと言う保証はない。
「そもそも貴方の能力は無駄が多すぎる。接近されれば、それだけで負けるわよ」
「それについては問題ない。コカドリーユには後方支援をしてもらう」
ルヴナンの言葉にソルシエールは訝し気な顔をした。
ルーガルーと戦えるのは、コカドリーユだけ。
そう理解したから、コカドリーユを前線に出して戦うのではなかったか。
それに援護をさせると言うなら、ルーガルーの前に出るのは誰なのか。
コカドリーユも同じ疑問を抱いたのか、首を傾げてルヴナンを見た。
「囮は私だ。私が霧を使って奴の注意を引き付ける」
霧の身体を揺らしながらルヴナンは告げた。
その言葉にコカドリーユは目を見開き、ソルシエールは苛立つような顔をする。
「…貴方らしくないわね。忘れたの? 貴方の能力は格好の獲物よ」
「問題ない。霧で視界を塞げば、奴はコカドリーユの攻撃を躱せないだろう」
「そうじゃなくて、貴方が魔力を奪われれば、それだけルーガルーの魔力が増えるってことに…」
コカドリーユの攻撃と同時にルヴナンの魔力が奪われれば、意味がない。
攻撃し、削った端から魔力を補充されてしまえば、全て無駄になる。
「コカドリーユの能力で止めを刺すとは言っていない」
「どう言うことだ?」
「私の『ブルイヤール』は魂と肉体を分離させる。肉体から離れ、霧として行動するように。奴の身体から魂を引き剥がすことも出来る」
ルヴナンは霧の腕を動かしながら告げた。
「吸血鬼の魔力は魂から生まれる。だが、魂は単体では存在できない」
故に吸血鬼は肉体と言う器を持つ。
魂を地上に縛り付ける楔。
それが吸血鬼の肉体だ。
では、その肉体から魂を解放すればどうなるか。
「肉体を失った魂は引力に引かれて月へ帰る。吸血鬼の死だ」
どれだけ魔力を持とうと、
どれだけ長い時を生きようと、
吸血鬼である限り、それは変わらない。
あの化物を殺すことが出来る。
「でも、どうやって…」
「奴の能力は見た目ほど万能ではないようだった。魔力を視界に収め、吸収するにも時間がかかる」
「なるほど、その為の後方支援か」
自分の役割を理解したようにコカドリーユが頷いた。
『トゥルノワール』を突破できるのはコカドリーユだけ。
それはルーガルーも理解しているだろう。
故に、ルーガルーが警戒するのはコカドリーユのみ。
ならば、ルーガルーが特に意識するのは地上ではなく空。
次々と隕石が降り注ぐ空に注意を向けるだろう。
その隙をつく。
「ルヴナン様! コカドリーユ様!」
その時、会議室の扉が荒々しく開かれた。
息を切らせた吸血鬼が転がるように入ってくる。
「大変です! 城の外に、ヌーヴェル=リュンヌが!」
その瞬間、四人は理解した。
ルーガルーが長い戦いを終わらせにきたことを。
そして、この長い戦いは今夜終わることを。
「議論している余裕はなくなったようだ」
「正直、成功率の高い作戦じゃないわよ」
「それでも構わない。その方が余は燃える」
三人はそれぞれ声を上げながら部屋から出ていく。
それにクリュエルは無言でついていった。
最後の戦いが始まった。




