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モンストル  作者: 髪槍夜昼
忠誠と後悔の悪食家
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第七十夜


城内にある、落ち着いた雰囲気の一室に三人は集まっていた。


その部屋は以前からルヴナンが作戦会議をする時に使っていた場所であり、大きめの円卓と椅子が用意してあった。


ルヴナン、コカドリーユ、クリュエルが席についても空席は多く、それだけ多くの命が失われたことを思い知らされた。


悲しみと後悔を払うようにルヴナンは頭を振った。


「…元々ヌーヴェル=リュンヌは純血に対する眷属のクーデターから始まった組織だ」


「その起源は、始祖が生きていた時代まで遡るって言うなァ。何世紀も経った今では、単なる純血排斥運動って感じだが」


「…その割に、現在の盟主はルーガルーですけど」


居心地悪そうに席についたクリュエルが控えめに意見する。


ルヴナンはその発言に大きく頷いた。


「その通りだ。本来ヌーヴェル=リュンヌとルーガルーは相容れない。奴のあまりの強さに誰も反抗することが出来ていないだけだ」


「つまり?」


「つまり、奴らは組織として破綻している。ルーガルーの強さ故に辛うじて繋がっている組織。奴が滅べば自然に瓦解するだろう」


この結論は、既に出ていた物だった。


ヌーヴェル=リュンヌはルーガルーさえ倒せば、瓦解する。


そう、正真正銘の怪物であるルーガルーさえ倒すことが出来れば…


「なら、奇襲か?」


「それはもう失敗した。私を含めた少数精鋭で奇襲作戦を行った」


「何だ、負けたのか?」


遠慮のないコカドリーユにルヴナンは首を振る。


クリュエルを一瞥し、言葉を選ぶように口を開いた。


「…作戦が漏れていたのだ。ルーガルーが野営していると言われた場所で、逆に奇襲を受けた」


ルヴナンの言葉には絶望と後悔があった。


奇襲を仕掛け、ルーガルーを倒すと息巻いていた純血達。


それが予想外の事態で次々と死んでいく。


その地獄を思い出したのだ。


「………ッ」


ルヴナンの顔を見て、クリュエルも悲痛の表情を浮かべた。


重々しい雰囲気にコカドリーユは顔を顰めて、ルヴナンを見た。


「…内通者か?」


「それはもう問題ない。既に私の手で…」


「どこにいるかと思えば、ここにいたのね」


その時、会議室の扉が荒っぽく開かれた。


現れたのは、女性の吸血鬼。


ぶかぶかの大きな三角帽子と暗色のスカート、


肩に羽織ったマントの裏側には、幾つもの人形が呪いのように縫い付けられている。


顔に浮かべた妖艶な笑みも含め、まるで童話の魔女が具現化したような女だった。


「ルヴナン、ちょっと話が………って、あなたはもしかして」


ルヴナンへ向かっていた視線が、コカドリーユで止まった。


同じように、コカドリーユも嫌そうな顔を浮かべて女を見ていた。


「お前、まさかソルシエールか? クソ親父の侍女がこんなとこで何している?」


「やっぱり、若様じゃない。六十年ぶりですね?」


「余はもう王族を追放された。その名で呼ぶんじゃない」


「ふふふ、私も同じよ。もう王族に仕える侍女じゃないの」


「何ィ?」


クスクスとおかしそうに笑いながらソルシエールはルヴナンの隣に立った。


不思議そうに様子を見守っていたルヴナンの肩に手を乗せ、妖艶な笑みを浮かべる。


「もう六十年も経ったのよ。今の私は純血派の軍師。王子の教育係から大出世だと思わないかしら?」


「軍師? ふん! 確かにお前は昔から悪知恵の働く女だったな!」


喧嘩腰の二人の殺気を浴びて、クリュエルは青い顔をしていた。


感情が昂ると無意識に魔力を放つコカドリーユは当然として、同じくらい長生きのソルシエールの殺気もクリュエルにはキツイ物だった。


それを見て、ルヴナンは渋々二人を仲裁する為に口を開く。


「…二人ともやめないか。会話から察するに、ソルシエールは以前コカドリーユの教育係だったのか?」


「そうよ。この坊やは物覚えが悪くて苦労したわ」


「何だと、この野郎。何でもかんでもクソ親父に逐一報告しやがって、この腰巾着が!」


「それも私の仕事よ。私も心苦しかったの」


「ハン、嬉々として告げ口したことを忘れたのか? 耄碌しているんじゃないのか?」


「耄碌ですって!?」


飄々としていたソルシエールの顔つきが変わる。


それを見て、コカドリーユは好戦的な笑みを浮かべる。


「どれだけ若作りが上手でも、頭の方はそうはいかないようだな!」


「あなたに言われたくないわよ! と言うか、十歳くらいしか変わらないじゃない!」


より激化する言い争いにルヴナンの顔に青筋が浮かぶ。


「やめろと言っているだろう!」


バキン、と円卓に亀裂が走った。


円卓に拳を振り下ろしたままルヴナンは二人を睨む。


その冷たい殺気を受けて、二人は少し冷静さを取り戻した。


「仲間割れしている場合か、愚か者! 今はそんなことをしている余裕はない!」


「けどよ、ルヴナン…」


「うるさい、黙れ!」


激怒したルヴナンの声にコカドリーユは押し黙る。


実力では負けていないつもりだが、その言葉の剣幕には勝てなかった。


ソルシエールの方は特に意見することなく、席につく。


「ソルシエール、何か用があったのではなかったか?」


「…ええ、報告をしにきたのよ」


心を落ち着かせるように息を吐き、ソルシエールはルヴナンへ目を向けた。


「間諜からの報告によると、ヌーヴェル=リュンヌ内にもルーガルーを疎む者がいるようだわ。力だけで抑え付けているのだから、不満が出るのは当然よね」


「間諜?」


コカドリーユが訝し気な顔をして呟いた。


それにソルシエールは自慢気な笑みを浮かべる。


「連中に出来たことが、私に出来ない筈ないじゃない。人間上がりなら誰でも受け入れるヌーヴェル=リュンヌに間諜スパイを送り込むのは簡単だったわ」


外見的にはこの場の誰よりも若い女だが、その眼には老成した知性が宿る。


コカドリーユは嫌っているが、その内面は軍師に相応しい狡猾さを持っていた。


「私はこのまま間諜を使ってルーガルー反対派の不満を煽るつもりよ。そうすれば、肥大化した組織は二つに割れる」


「なるほど、反対派を抑えて疲弊した所を討つと言うことか」


「もっと良い考えがあるわ。ルーガルー反対派に助力するのよ」


狡猾な眼でルヴナンを見ながらソルシエールは続ける。


「…連中が我々と手を組むようには思えないが」


「何も確約を交わす必要はないわ。反対派とルーガルーが戦っている後ろを狙えばいいの」


そうすれば結果的に、ルーガルーは前後からの挟み撃ちに遭うことになる。


成功するか分からない奇襲に賭けるよりは確実な筈だ。


「そうなると、兵がいるな」


「そうね。強い兵が多ければ多いほど成功率が高まるわ」


「…話がよく分からないが、この城にいる奴らを使える程度まで鍛えればいいんだろう?」


どうでも良さそうにコカドリーユは言った。


「確かに。あなたにはそれの方が向いているかもね。頑張って」


「おっしゃ、行くぞクリュエル! お前が一番弟子だ!」


「え、俺ですか!?」


ずっと黙って話を聞いていたクリュエルの首根っこを掴み、持ち上げる。


それなりに高い身長を持つクリュエルの身体を旗のように振り回しながら、コカドリーユは会議室から去っていった。

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