表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンストル  作者: 髪槍夜昼
忠誠と後悔の悪食家
68/136

第六十八夜


暗い牢獄の中に赤い霧が立ち込める。


ルヴナンを中心に、周囲へ霧と冷気が広がっていく。


無理矢理引き抜いた鉄格子を握りながら、コカドリーユは興味深そうに霧を見た。


「その霧はお前のイクリプスか? どんな能力なんだ?」


「………」


「何だよ、教えてくれてもいいじゃないか。つまらん」


ため息をついてコカドリーユは握った鉄格子を放り捨てた。


空いた右手を開き、そのままルヴナンへ向ける。


「…何を」


「上手く、躱せよ?」


瞬間、地下牢に光が走った。


ルビーのように赤く輝く閃光が右手から放たれ、闇を切り裂く。


一直線に進む先にはルヴナンがいた。


「くっ…!」


ルヴナンは霧で狙いを逸らすことで、それを躱す。


霧を突き抜け、ルヴナンの頬を掠めた閃光がチリチリと音を立てた。


「イクリプス…!」


「いや、違う…」


それを見ていたクリュエルの言葉を、ルヴナンは否定した。


確かに並の吸血鬼のイクリプス程の威力はあるが、構造自体はシンプルだ。


本来イクリプスや再生に使われる魔力。


その魔力を体外に直接放出しただけ。


言わば、イクリプスを使う時に無意識に放たれる威圧感のような物。


それを集中させて攻撃に転用するなど、誰にでも出来ることではない。


「…強い」


「よく躱したな!」


コカドリーユは笑いながら何か大きな物を掴むように、両手を広げた。


合わせてバチバチと火花が散り、赤い光球が幾つも生成されていく。


その一つ一つが膨大な魔力を秘めた弾丸だ。


これがコカドリーユの実力。


吸血鬼の王である証。


「…その力が、私には必要なんだ」


「余の力が欲しいか? くくく、王を殺した余を解放することの意味が分かっているのか?」


「既に死んだ者はどうでもいい。今、生きているお前の方が重要だ」


ルヴナンは冷静な目で呟いた。


最早、手段を選んでいられる余裕などない。


罪も不敬も裁く者がいなければ、無意味。


今は何よりも、ルーガルーを倒すことを優先しなければならない。


かつての王を無価値と切り捨てたルヴナンに、コカドリーユはきょとんとした顔をした。


王を蔑ろにしたルヴナンを珍しい物を見るように見つめ、我慢できずに吹きだす。


「くくく…はははははは! 元老院が生きていた時代ならお前、不敬罪で処刑だぞ!」


「その元老院も、既にいないだろう?」


「ははは! 確かに! お前、分かっているじゃないか!」


上機嫌になったコカドリーユは広げていた腕を大きく交差させた。


宙に浮かんでいた魔力球が弾け、散弾の雨のように降り注ぐ。


鉄すら容易く貫く赤い光が、闇の中に軌跡を描いた。


「お前、名前は?」


「ルヴナン」


降り注ぐ魔力を躱しながら、ルヴナンは答えた。


楽しそうに笑うコカドリーユにルヴナンも余裕の笑みを返す。


「ルヴナン、お前の言う通りだ。実力さえあれば、後はどうでもいい。親父には王としての実力が足りず、余には実力があった。それだけの話だ」


暗闇の中で手を振るい、魔力球を操りながらコカドリーユは言う。


「それを親殺しだ、乱心だ、と檻に押し込めるのは馬鹿らしいと思わないか?」


「…そうだな。仮に罪だろうと仲間割れしている状況ではないだろう。罪人でも使える者は使うべきだ」


「余を使うだと? はははは! 本当に豪胆な奴だ」


リアリストなルヴナンの言葉にコカドリーユは機嫌を良くし、右手を振り上げた。


流星群のように流れていた魔力球を右手に集中させ、握り締める。


込められた魔力の濃度を見て、ルヴナンの顔に緊張が走る。


「その豪胆が、口だけではないと証明してみろ!」


魔力で赤々と輝くコカドリーユの拳。


同じようにルヴナンの身体からも赤い霧が放たれる。


「おらァ!」


真っ赤な拳が大気を殴りつける。


眼も眩むような赤い光が地下の空間を照らした。


「『ブルイヤール』」


合わせるようにルヴナンの口から声が漏れる。


瞬間、二つの魔力が衝突した。


膨大な赤い光と熱が霧を掻き消し、ルヴナンを包み込む。


視力を潰す赤の光。


遅れて雷鳴のような音が轟く。


「ははははは! どうだ、コレが余の力………んぐっ!」


高笑いを上げていたコカドリーユの言葉が詰まる。


貧血のような眩暈を感じ、顔に手を当てた。


「何だ、コレは…?」


コカドリーユの足下がふらつき、視界が歪んだ。


怪我もしていないのに、身体に不調を感じる。


違和感に首を傾げるコカドリーユの視界に、赤い霧が映った。


「…魔力切れだよ。コカドリーユ」


「何…ッ!」


コカドリーユの言葉よりも早く、赤い霧が一つの形を作る。


それはルヴナンと似た人型の輪郭。


突然目の前に現れたコカドリーユの前に出現した人影は、ルヴナンと同じ声で語る。


「長い間吸血せず、これだけ暴れれば魔力切れを起こすのは当然だ……そして」


人影は霧状の右腕を動かした。


物体を透過する腕がコカドリーユに触れ、心臓を貫く。


「これでチェックメイトだ。私のブルイヤールを使えば、このままお前の魂を引き裂くことも出来る」


「…余の注意を引いて、戦闘を長引かせていたのはこの為か?」


「その通りだ。自力では勝てないが、ここは地下の閉ざされた空間。霧を散らせば十分に時間稼ぎが出来ると考えた」


「…なるほど。余はお前の術中に見事に嵌まったと言う訳か」


心臓を握られたままコカドリーユはため息をついた。


死を恐れている様子は見えない。


まだ戦う気なのか、とルヴナンは緊張する。


「………見事。余の負けだ」


コカドリーユは降参するように、両手を上げた。


自分を倒した相手に対する賞賛と負けた悔しさを混ぜた表情を浮かべた。


潔い態度にルヴナンは拍子抜けする。


「………意外だな。激高するかと思ったが」


「策を弄したことか? それも勝つ為の努力の一つだ。余は他人の努力を否定しない」


「…なるほど」


憮然とした言葉に、ルヴナンはコカドリーユの評価を改める。


単なる幼稚な暴れん坊ではないようだ。


扱い易いとはとても言えないが、意外と話は通じている。


「さて、余は約束を守るぞ。今日から余はお前の部下だ」


多少乱暴だが、自分の言葉やルールを守る自制心は持っている。


コカドリーユがルヴナンを認めると同時に、ルヴナンもコカドリーユの人格を認めていた。


「そのことだが、基本的なリーダーはお前に任せようと思う」


「何でだ?」


「絶望した皆に再び希望を持たせるには、大きな『旗』が必要だ。王族の生き残りであるお前は、強烈な旗となるだろう」


「おいおい、出所したばかりの余をマスコットにする気かよ!」


不満そうにコカドリーユは叫んだ。


段々と分かってきたことだが、コカドリーユは純粋な実力主義故に肩書きや地位で評価されることを嫌う性格のようだ。


王族の肩書きを利用した象徴になることが気に喰わない様子。


「負けたら言うことを聞くのではなかったか?」


「ぐ、ぐぬぬ…………分かったよ。その代わり、お前の命令を聞くのはこれっきりだからな!」


「それでいい。元々お前とは対等でありたいと思っていた」


「ふん。ところで、そこの坊主は誰だ?」


コカドリーユが今、気付いたようにクリュエルへ目を向けた。


二人の戦いを避けるように、隅に隠れていたクリュエルは緊張した様子でコカドリーユを見ていた。


「ど、どうも、初めまして…俺、クリュエルって言います」


怯えたように言葉に詰まりながらクリュエルは言った。


「…人間上がり? ルヴナン、お前の眷属か?」


「違う。かつての戦友の忘れ形見と言うやつだ」


パチパチとコカドリーユは瞬きをした。


それだけ、人間上がりが純血側にいることに驚いたのだろう。


主人に縛られている訳でもないのなら、尚更だ。


「ルヴナンも珍しいが、お前もかなり変な奴だなぁ」


自分のことは棚に上げて、コカドリーユは言った。


「まあいい。退屈はしなさそうで、何よりだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ