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モンストル  作者: 髪槍夜昼
忠誠と後悔の悪食家
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第六十七夜


一夜が明けた。


太陽が昇り、吸血鬼達は城の棺へ身を隠す。


やがて日没を迎え、再び夜がやってきた。


しかし、誰も帰ってこなかった。


三度目の夜明けを迎えても、ラフレーズは帰ってこなかった。


作戦の成功を確信していた吸血鬼達の眼から希望が消えていった。


やはり、ルーガルーは怪物だった。


奴に勝つことなど吸血鬼では不可能だった。


吸血鬼達はそう呟くようになった。


陰鬱な気分の中、それでもクリュエルは待ち続けた。


そして、六度目の夜明けを迎えた時、門が開かれた。


「………」


戻ってきたのは、一人だった。


全身に傷を負い、かつて自信に満ちていた顔を悲痛に歪めた男。


「ルヴナン、様」


変わり果てた男の名を、クリュエルは呼んだ。


「お一人だけ、なのですか…?」


「………すまない」


小さくルヴナンは呟いた。


その言葉の意味を理解した時、クリュエルは慟哭した。


帰ってきたのは、一人きり。


他の吸血鬼達は、全て殺された。


ラフレーズも殺された。


クリュエルは、愛する者を失ったのだ。


泣き叫ぶクリュエルの声に他の吸血鬼達も絶望する。


最早、敵と戦う戦力は残っていない。


自分達はただ殺されるだけなのだと。


「…クリュエル」


地面に蹲って嘆くクリュエルに声がかけられた。


「君はヌーヴェル=リュンヌと戦いたいと言った。それはきっとラフレーズの為だったのだろう」


ルヴナンの言葉にクリュエルは答えなかった。


クリュエルは、もうどうでもよかった。


元々戦うことを決意したのも、強くなりたかったのもラフレーズを守る為。


守る筈だった彼女を失っては、何も出来ない。


「…もし君が、ラフレーズの仇を討ちたい…もう一度戦いたいと思うなら、力を貸してほしい」


「……………」


「私は地下にいる」


そう言うと、ルヴナンは立ち去った。


以前より言葉に覇気がなかったが、ルヴナンは諦めていないようだった。


仲間を全て殺され、たった一人生き残るのはどれほどの絶望だろうか。


それだけの敵を相手に再び立ち上がるのは、どれほどの勇気がいるだろうか。


(…ラフレーズの仇を討ちたい)


クリュエルの中にルヴナンの言葉が残る。


きっと争い事が嫌いな彼女は、復讐など望まないだろう。


だからこれは、クリュエルの自己満足。


彼女を奪ったヌーヴェル=リュンヌへの私怨。


「………」


クリュエルは立ち上がり、歩き出した。


向かう先は、城の地下。


ルヴナンの下へ。








「…この城に、こんな場所があったなんて知りませんでした」


ボロボロと欠けた石の階段を下りながらクリュエルは言った。


窓のない地下の階段に光がなかったが、夜を生きる吸血鬼の眼には不要だった。


松明すら持たず、ルヴナンとクリュエルの二人は闇の中を歩く。


「この場所は、本来王族しか知らない場所なのだ」


「王族?」


「ラフレーズから聞いていないのか? かつて吸血鬼には『王』がいた」


ルヴナンは先を歩きながら話す。


「四始祖の王『リュゼ』直系の純血。それを我々は王族と呼んでいたのだ」


その言葉が過去形であることにクリュエルは気付いていた。


吸血鬼を率いる王族。


それさえもルーガルーには勝てなかったのだろう。


「今から六十年程前、我々純血を率いていた王が殺された」


「それは、ルーガルーに?」


「表向きは戦いで散ったことになっているが、真実は違う」


コツ、と足元で音がした。


クリュエルは足下を見て気付く。


階段が終わったようだ。


「王は、自分の息子と決闘して命を落としたのだ」


「へ? つまり、王子が王を殺したって?」


「そうだ。そして、その息子は親殺しの罪で幽閉された」


この時初めて、クリュエルは自分がいる場所がどこなのか理解した。


石造りの地下室。


奥に見えるのは、鉄格子。


この場所は牢獄だ。


親殺しの大罪を犯した吸血鬼が投獄された牢獄だ。


「ここだ」


幾つも並ぶ鉄格子の最奥。


怪物でも閉じ込めるような巨大な檻を見上げ、ルヴナンは立ち止まった。


「おい、聞こえているか?」


鉄格子を叩きながらルヴナンは声をかける。


檻の中から反応はなかった。


何せ、王子が幽閉されたのは六十年も前のことだ。


吸血鬼は魔力さえ使わなければ、無理に吸血をする必要はない。


しかし、王子が脱出しようと無理に魔力を使用し、魔力枯渇で灰になっている可能性もある。


無駄足だったか、と思いつつもルヴナンは確認の為に牢獄の鍵を開けた。


「カハッ………あ、あー…んむぅ」


掠れた声が聞こえた。


鍵を開けたまま、ルヴナンは動きを止める。


牢獄の闇の中、赤い光が見えた。


「あー、あー、よし。いや、無視して悪いな。返事をしたつもりだったのだが、声を出すのが久しぶりで喉の調子が悪いんだ」


牢獄の奥から、姿が現れる。


異様に長い手足を持つ長身。


トカゲのような鱗を持つ皮膚。


長い舌と爛々と輝く目は、爬虫類を思わせる。


「それでお前は、余を解放しにきた者だろう。余の罪が晴れたのか? それとも刑期が終わったのか?」


のそのそと歩きながら近づく姿は、六十年も幽閉されていたようには見えない。


どちらかと言えば細身だが、特に飢えている様子も見えない。


「コカドリーユよ。私はお前の力を借りたい」


「…戦争に勝つ為に余を解放か。あの頭の固い元老院がよく許可したな」


「元老院は全て死んだ」


簡潔にルヴナンは言った。


その言葉にコカドリーユは僅かに驚いたような顔をした。


ただ驚いただけだった。


少しも悲し気な色は見せず、むしろ喜ぶように顔を歪めた。


「ってことは、だ。親父も含め、古臭い連中は全部くたばったって訳だ。くくく、傑作」


「答えを聞いていないぞ、コカドリーユ」


「ああ、そうだったな。余だって、素直に喰われる気はない。ルーガルーは余が倒す」


「なら…」


「しかし」


バギン、と鉄格子が弾けた。


恐ろしい怪力で、コカドリーユが殴りつけたのだ。


「他人に命令されるのって嫌いなんだよ。昔から」


「…我々の敵になると言うことか?」


「いや、そう言う訳じゃない。だが、もう口煩い元老院もウザイ親父もいないみたいだし、余が頂点に立ってやろうと思っただけだ!」


壊れた鉄格子を握り、コカドリーユは投擲槍のように投げる。


怪物の檻の鉄格子は、生半可な槍よりも巨大で重量もある。


身を屈めて躱しながら、ルヴナンはコカドリーユを見た。


既にコカドリーユは次の鉄格子を引き抜き、投擲の構えを取っていた。


「六十年吸血せず、弱っていて尚これ程とは…」


「る、ルヴナン様!」


「クリュエル、下がっていろ!」


ルヴナンは霧を纏いながら、コカドリーユを睨んだ。


こうなることも予測済みだ。


傷付いた身体を動かし、イクリプスを発動させる。


「良い殺気だ! 余に命令したいのなら、実力を示せ!」

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