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モンストル  作者: 髪槍夜昼
闘争と悪意の狂戦士
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第六十二夜


「何、今の…」


外から屋敷を眺めていたフェーは思わず呟く。


一瞬だけだったが、星々を打ち消すような強い光が屋敷を包み込んだ。


ルヴナン派の攻撃だったのだろうか、屋敷のあちこちから黒い煙が出ている。


その割には、ファミーユと共にルヴナン派も驚いた顔をして屋敷に注目していた。


「………」


空を見上げると、今まで不気味に浮かんでいた『狼座』が消えていた。


中の様子を知らないフェーに事情は分からないが、モールの企みは阻止されたのだろうか。


考え込むフェーの後ろに、一つの影が降り立った。


「何だ、もう終わったのか? 余だけ除け者など、寂しいじゃないか」


「ッ! こ、コカドリーユ様!」


聞こえた声に驚いたようにフェーは背筋を伸ばす。


突然現れたコカドリーユは不満そうに戦場を眺めていた。


煙を上げる屋敷、僅かに狼座の形跡が残っている空、ファミーユとルヴナン派。


その全てを観察し、しばらく思案した後に首を振る。


「考えたが、分からん。そこの女、ルーセットの場所を知らないか?」


「…フェーです。あの人なら多分、屋敷の中だと思う……ます」


「よし、女。余を案内しろ。いつまでも蚊帳の外なのは、気に食わんのだ」








「はぁ…はぁ…はぁ……!」


焼け焦げた壁に手をつきながらヴェガは荒い息を吐いた。


その服には微かに焦げ目が見えるが、肌にまで火傷の跡はなかった。


ヴェガは呼吸を整えながら瓦礫まみれになったリコルヌの部屋を見渡した。


本当に危なかった。


咄嗟の転移が間に合わなかったら、ヴェガも瓦礫の中に沈んでいた所だろう。


いや、吸血鬼の死体は灰。


瓦礫には埋まらずに、風に乗って散るだけだろう。


「…………」


ルーセットの遺灰も爆風でどこかへ消えてしまった。


落ち着いたら墓を作ろうと考えていたのだが、


プラニスフェルを壊したことで、せめて魂だけでも救われたと思いたい。


「げほっ! げほっ!」


静かに黙祷するヴェガの足下でリコルヌが大きく咳き込んだ。


焦げた床に転がりながらぼんやりと目を開ける。


「私に感謝して下さいね。ついでに転送したとは言え、命の恩人ですから」


「…あ、ああ、君が助けてくれたのか。ありがとう」


「どういたしまして」


感情のない声で言うとヴェガは黙祷を続けた。


争い事を嫌い、何よりも生き続けることに執着した吸血鬼。


早すぎる死は、彼にとっても無念だっただろう。


せめて死後の世界、月では平穏に暮らせるように…


その時、焦げた床を踏み締める足音が響いた。


杖をつくような軽い音も同時に響く。


「まさか…」


閉じていた瞼を開けてヴェガは前を見る。


その眼に映ったのは、火傷で変色した赤い体。


片腕を失った身体を、杖代わりの杭で支えている姿。


「モール、まだ生きて…」


「…あ……だっ………な」


火傷で潰れた喉でモールは何事か話すが、言葉にならなかった。


肉体は既に死体同然。


だが、その眼だけは闘志に満ちていた。


まだだ。


まだこの化物モンストルは止まらない。


心臓を壊し、日光に晒し、全身を灰にして確実な死を与えるまでは止まらない。


そう改めて確信し、ヴェガは身構える。


「いや、もう終わりじゃ。そうじゃろう、モールよ」


聞き覚えのある声、感じたことのある寒気が感じた時、モールの身体が赤い霧に包まれた。


その正体をヴェガが思い出した時には、既に全てが終わっていた。


何をしても決して止まらなかったモールの身体が、糸が切れたように倒れる。


呻き声すら上げずに倒れた身体はぴくりとも動かず、生きているようには見えなかった。


「…殺したのですか?」


「まだ生かしておる。この不届き者には聞くべきことが山ほどあるからのう」


ヴェガの疑問に霧の人影、ルヴナンは冷静に答えた。


声には怒気が込められていたが、私情で処刑して情報を得る機会を潰す程ルヴナンは愚かではない。


怒りを抑えるように揺らめく霧の人影は、中心に浮かぶ星型の眼をリコルヌへ向けた。


「ルヴナン…」


「まずはプラニスフェルを破壊し、儂を救ったことに礼を言う。だが、争いの要因がなくなったとは言え、このままでは終わらないのが戦争と言うものじゃ」


ルヴナンは生きた歴史を感じさせるような口調で言った。


既に戦いは起こり、両者に被害は出ている。


戦争の原因であるプラニスフェルが失われても、両者の憎悪と戦意は消えないだろう。


「…と本来なら言う所じゃが、この戦争は目立ち過ぎた。どうやらコカドリーユも、この戦争を嗅ぎ付けてきたようじゃ」


「コカドリーユが?」


「恐らく、蝙蝠の仕業じゃろう。彼奴の思惑通りに動くのは気に食わんが、今回はそれに乗ってやる」


ルヴナンは不機嫌そうに吐き捨てた。


コカドリーユが駆け付け、ファミーユに味方すればこの戦争の勝機はなくなる。


別の純血による邪魔が入ったとすれば、派閥の者の痰飲も下がるだろう。


話は終わったとばかりに、ルヴナンは星型の眼をヴェガへ向けた。


「…私を銀の檻に入れるつもりですか?」


「侮るな。戦争を収めた功労者を牢に入れるほど、儂は恥知らずではない」


「…え?」


「お前の実力を認め、プレーヌ=リュンヌに加盟させると言ったのじゃ。新たな派閥を作ろうと、眷属を作ろうと好きにするといい」


一息に言い切ると、ルヴナンは気絶したモールと共に音もなく消えた。


赤い霧が消え、ルヴナン派の者達も静かに去っていく。


ファミーユとルヴナン派。


モールの暗躍によって始まった戦争は、終わりを告げた。


多くの犠牲を出し、更にもっと多くの吸血鬼が死ぬ筈だった戦争は、僅か一夜で終結した。


そして、その功績を以てヴェガは新たな純血として世界に認められたのだった。








「ルヴナン卿。ヴェガをプレーヌ=リュンヌに加えるのは早計だったのでは?」


「儂の判断に異を唱えるのか、クリュエル」


「い、いえ、そんなつもりは…………すいません、口が過ぎました」


星型の眼で睨まれたクリュエルは頭を垂れた。


行き過ぎた所はあるが、基本的には忠実なクリュエルのことだ。


一度はっきりと厳命しておけば、破ることはないだろう。


「それよりも、お前に任せていたヌーヴェル=リュンヌの動きはどうじゃ?」


「以前と変わらず。愚直に銀の檻を狙い続ける雑兵のみです」


「拷問しても、魂が抜けたように何も語らないと言う兵か。モールが何か吐けばいいが」


クリュエルは他の者に運ばせているモールを見た。


プラニスフェルの入手経緯、その起動方法、どれもヌーヴェル=リュンヌが無関係とは思えない。


彼の目的であるルヴナンとファミーユの皆殺しも、一番得をするのはヌーヴェル=リュンヌだ。


「…それとルヴナン卿。先程入った情報なのですが」


「なんじゃ」


「毎夜のように行われていた銀の檻への襲撃が今夜はなく、代わりに『フロンの平原』付近で目撃されたとのことです」


「フロンの平原?」


考えるように霧の身体が揺れる。


その場所は、百年前にルヴナン達がルーガルーと戦った場所だった。


敵味方問わず多くの吸血鬼が死んだ戦場跡。


百年経った今でもその大地は吸血鬼達の遺灰で灰色に染まっている。


そんな場所に一体何の用があるのだろうか。


「…何にせよ、今夜に合わせて動いたと言うことは何か繋がりがある証拠か。やはりモールから情報を吐かせる必要があるな」

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