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モンストル  作者: 髪槍夜昼
闘争と悪意の狂戦士
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第五十六夜


「レーヴちゃんもソンジュちゃんも避難所にいないなんて、どこにいるのかしら」


フェーは二人の少女を探しながら、屋敷内を歩いていた。


以前の襲撃時にも一緒に行動していた、ファミーユでは特に仲が良くなった二人である。


どちらも特に能力を持たない非戦闘員の為、姿が見えないことが心配だった


ルーセットのことはあまり気にしていない。


尊敬するルーセットなら大丈夫だろうと言う信頼の表れだ。


それは過大評価とも言う。


「おや、珍しい所で会ったなァ。お姉さん」


「…ルーセット?」


廊下の角を曲がった先で出会った人物にフェーは顔を顰める。


以前、二人の少女と共にフェーを串刺しにした男がいた。


一瞬、トラウマで身体が震えたがすぐに立ち直る。


本物は外でアンスタンと戦っている筈、コレはルーセットの変装だ。


ルーセットの性格は分かってきたつもりだが、またその姿で脅かそうとするなんて少し悪趣味だ。


「もう騙されないわよ。早く元の姿に戻って」


「元の姿? ルーセット?………なーる。アイツ俺っちの姿を真似て何かしたんだな」


何かに納得したようにモールは何度も頷く。


「肖像権の侵害だぜ。いや、プライバシーの侵害? ま、どっちでもいいか! くはははは!」


「……………」


フェーは無言でモールを見つめる。


一人で勝手に話して狂ったように笑うモール。


その姿は、ルーセットの変装よりも本人に近い。


手に持った杭槍も以前見た物と全く同じだ。


と言うよりも、


「ギャー! コイツ、本物だー!? 串刺しにされるー!?」


「人様の顔を見てギャーはないだろ。女として上げちゃいけない声だと思うぜ、俺っちは」


顔を真っ青にして叫ぶフェーにモールは珍しく常識的なことを言った。


それに言葉を返そうとして、フェーは吐き気を抑えるように口に手を当てた。


「うっ…串刺しにされたトラウマが…うええ…気持ち悪い…」


「おいおい大丈夫か? トイレ行くか?」


「そ、そうね…って、全部お前のせいだ!」


肩に置かれた手を振り払い、フェーは警戒心全開で距離を取る。


モールは行き場を失った手を見つめ、苦笑して引っ込めた。


「安心しろよ、今の俺っちに争うつもりはないからー」


「信用できる訳ないでしょ! 顔が怖いと言われた腹いせに串刺しにしておいて!」


「腹いせじゃないですー。アレも作戦の内ですー」


床をコツコツと杭槍で叩きながらモールは子供のように言う。


馬鹿にしているとしか見えない態度にフェーは苛立つが、実力はモールが上の為に堪えた。


「…作戦と言ったけど、あなた、一体何を企んでいるの?」


「戦い。対等の殺し合い。血と血、魂と魂のぶつかり合い。こんな戦場を俺っちは望んでいた!」


けらけらと狂った笑みを浮かべてモールは両手を広げた。


舞台俳優のような気取った仕草を、フェーは冷静に見つめる。


「…それで、それだけ楽しみだった戦場から抜けて、今は何をしているの?」


「……………お姉さん、意外と頭良いな」


「意外とは余計だわ」


フェーは段々とモールの人柄を掴んできた。


狂ったような言動と行動に隠されているが、その根底には確かな知性がある。


刹那的に見えて、計画の為には自身の欲望を抑える理性。


この男は狂っているが、決して愚者ではない。


「それじゃ、お姉さんに敬意を表して一つ忠告」


ふざけたように指を一本立てて、モールは笑みを浮かべた。


「今夜、この場にいる全ての吸血鬼が死ぬことになる。死にたくなければ、今すぐに屋敷から逃げることをお勧めするぜ」


「全て…って…!」


「全てさ。ファミーユだけじゃない、クリュエルも、ルーセット達も、後から駆け付けるルヴナンも全て…明日の月は拝めねえ」


月明りを背にして、モールの顔が影に隠れる。


それが、何か恐ろしい怪物に見えてフェーは戦慄した。


「あなたが、殺すの…?」


「くふふふふふ…」


質問には答えず、モールは笑いながら去っていった。


まるでそれが答えであるかのように…


フェーは追いかけることすら忘れて、その場に立ち尽くしていた。








「ぐるるる…!」


黒く巨大な犬、アミティエがリコルヌの部屋を駆け回る。


イクリプスを持たないが、魔力で強化された肉体は熟練の吸血鬼にも引けを取らない。


床を、壁を蹴りながら縦横無尽に敵を翻弄している。


「アミティエ! 後ろだ!」


「ぐる…!」


リコルヌの声に反応して、アミティエは壁を駆けながら方向転換する。


その背後に飛び迫っていた赤い怪鳥の上に落ちるように、鋭い牙を突き立てる。


「ギャアギャア!」


首に喰らい付かれた怪鳥は海鳥のような声を上げて、地に落ちる。


ぴくぴくと痙攣した後、その赤い体は風船のように弾けた。


霧状になった血液の臭いが漂い、リコルヌは顔を顰める。


「コレ、ファミーユの子達から作られている…」


リコルヌだからこそ分かる血の臭い。


赤い獣の中に含まれる、自身が分け与えた血の臭いを感じ取った。


既に、この鳥で三匹目だ。


恐らく、もっと多くのファミーユが犠牲になっているのだろう。


「ぐるるる」


「…大丈夫だよ。心配しないで、アミティエ」


寄り添うアミティエに優しい目を向けて、リコルヌは言う。


こうなることは分かっていた筈だ。


家族を名乗ろうと、ファミーユは吸血鬼の派閥。


いつかは誰かと戦いになると言うことも、分かっていた筈だ。


その結果、家族が死ぬことになることも覚悟していた筈…


「後悔してんのかァ?」


ギシ、と扉が軋む音と共に嘲笑が聞こえた。


アミティエが警戒したように低く唸る。


リコルヌもその声の主を悟り、身構えた。


「くふふふ………預けた物を返して貰いに来たぜ」








「クソクソクソォ! あの野郎、どこまでも馬鹿にしやがって!」


炎の剣を振りながら、アンスタンは叫ぶ。


ルヴナン派の吸血鬼を焼き払って逃げたモールを探しているが、混乱した戦場では中々見つからない。


「ルヴナン卿に逆らう愚か者に、死を!」


「退けェ!」


一際大きな炎の波を放ち、多くのルヴナン派が灰に変わる。


しかし、すぐに次の者達がアンスタンの前に現れた。


何度やっても数が減っている気がしない。


一刻も早く、モールを追いかけなければならないと言うのに。


「アンスタン!」


「ボアか。屋敷の見張りはどうした」


「他の者に任せてきました。それよりも、裏口が突破されたようです!」


普段柔和な笑みを浮かべているボアには珍しく、焦った表情で言った。


その報告にアンスタンの顔も青ざめる。


「マジかよ! モールの野郎、裏口から…!」


「この場は私達に任せ、早く屋敷の方へ!」


「分かった! 悪いが、そうさせて…」


その時、メラメラと燃えていたアンスタンの炎が掻き消えた。


炎で照らされていた光が消え、夜の闇が戻る。


暗い夜空に、赤い霧が掛かる。


「ッ! このタイミングで…!」


「…コカドリーユはいないようだな」


アンスタンの前に降り立った霧の人影は、小さく呟いた。


霞んだ右手をアンスタンへ向ける。


「『ブルイヤール』」


「なっ…!」


右手から、真っ赤な暴風が放たれた。


赤み掛かった暴風の正体は、霧。


意思を持って放たれた、魂を削り取る砲撃だ。


それは辛うじて躱したアンスタンの後方。


そこにいた全てのファミーユの魂を削り取り、灰に変えた。


「ならば儂が出るまでもなかったか。過剰戦力じゃ」


冷酷にルヴナンは告げた。

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