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モンストル  作者: 髪槍夜昼
闘争と悪意の狂戦士
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第五十二夜


「う…ううう…杭が、杭が…うう…」


ベッドで魘されながらフェーは呟く。


杭で貫かれた腹部を抑えて、青い顔で呻いている。


近くで看病をしていたヴェガはそれを呆れたように見下ろしていた。


「傷ならとっくに再生したじゃないですか」


「でも体にはまだ杭が身体を貫通した時の感触が………うえええ…」


吐き気を抑えるようにフェーは口に手を当てた。


その身体には既に傷一つないが、顔色は悪いままだ。


肉体的は完治しているが、精神的にはまだ完治には至っていないようだ。


「情けない」


「な、情けないってあなたね! 物凄い怖い奴だったんだから!」


「知っていますよ。白木の杭を操る死神みたいな男でしょう?」


ヴェガは水差しを取りながら、どうでも良さそうに言った。


適当なグラスに水を注いで、顔色の悪いフェーに水を差しだす。


「…あのクレイジーな男と知り合い?」


それを受け取りながら、フェーは訝し気な顔をした。


思い出すのも嫌と言った表情だ。


「まあ、そうです。そのクレイジーな男と言うのは…」


言いかけて、ヴェガがフェーの方を見て言葉を止める。


不審に思ったフェーが首を傾げた時、その肩に手が置かれた。


「こんな顔だったかな?」


「ギャー!?」


いつの間にか、フェーの背後にモールが立っていた。


襲撃時と何も変わらない顔にフェーは飛び上がって、悲鳴を上げた。


大慌てで呆れ顔のヴェガの背中に逃げ込む。


「たたた、助け、助けてー!?」


フェーはもう殆ど泣いていた。


ヴェガの小さな背中に必死で縋り付き、ガタガタと震えている。


情けない姿にヴェガは深いため息をついた。


それに満足そうな笑みを浮かべ、モールは変身を解く。


そこにいたのは、子供っぽく笑ったルーセットだった。


「…へ? ルーセット?」


「フェーは本当に可愛いな。その素直さは大事にしなさい」


背中から出たフェーの頭をルーセットは優しく叩いた。


フェーは怒ればいいのか、喜べばいいのか混乱して赤面している。


少しだけ嬉しそうにしていることに、ヴェガは眉を動かした。


「…とにかく、これではっきりしましたね」


低い声で言いながら、じろりとルーセットを見る。


ルーセットは手を放してから頷いた。


「そうだね。フェーを襲った犯人は、やっぱりモールだ。となると、これからの戦いに関わってくる可能性が高い」


「…ファミーユを裏切ってプラニスフェルを持ち逃げするつもりですか?」


「それも考えの一つだけど、ファミーユとルヴナンの標的が俺になってしまう。長生きしたい俺としては純血二人を敵に回すのは避けたい」


ルヴナンがプラニスフェルを知らない段階だったなら、盗み出すことも考えた。


ファミーユは確かに数が多いが、コカドリーユの後ろ盾を持つルーセットの脅威ではない。


しかし、既にルヴナンはプラニスフェルを狙って行動を起こしている。


今の状況でプラニスフェルを盗み出せば、最悪二つの勢力に同時に狙われかねない。


そうなれば、いくらコカドリーユと言えど危険だ。


「では、どうするのですか?」


「コカドリーユに手を貸して貰う。そして、コカドリーユとファミーユでルヴナン派を殲滅する」


ルヴナンに恨みを抱くコカドリーユなら、間違いなくファミーユに協力するだろう。


ファミーユとしても、コカドリーユの助力を断る理由がない。


共闘によってルヴナンを滅ぼし、その後でプラニスフェルを望めばいい。


(…いや、そもそもコカドリーユはルヴナンを滅ぼす力としてプラニスフェルを求めている。なら、ルヴナンが滅ぼされた時点で目的は達している)


そうなると、物事はもっとシンプルになる。


冷酷なルヴナンを滅ぼし、新たな秩序を作ると言う大義名分で二つの純血は同盟を結ぶ。


残るソルシエールがどうするか予想できないが、滅多に表舞台に出ない彼女が現れることはないだろう。


脅威であるルヴナンは死に、ルーセットは最大勢力となるコカドリーユの強力な後ろ盾を得る。


「それなら早く連絡を取りましょう」


「その前にリコルヌに話を通そう。客人の俺が勝手な真似をしたら、裏切り者だと思われてしまうよ」


「…そんな疑惑以前に、裏切り者ですけどね」


「失礼な。俺はまだリコルヌを裏切っていないぞ」


「そこで『まだ』とか言うことが駄目だと思うわよ」


黙って話を聞いていたフェーにまで呆れ顔をされてしまい、ルーセットは憮然とした顔をした。








ルヴナン派閥。


二大派閥の一つだが、コカドリーユの派閥に比べると個々の実力は劣る。


代わりにコカドリーユ派にはない強い忠誠心と協調性を持ち、ルヴナンの命令に絶対に逆らわない。


個々の実力差を補ってきた高い統率力は脅威的であり、命令の為なら命すら投げ出す軍団だ。


ルヴナンは着々と集まりつつある派閥を静かに見つめていた。


「ルヴナンの旦那ぁー。クリュエルに戦いの準備をさせているって本当ですかい?」


「…お前の出番はないぞ、モール」


ルヴナンは後ろを振り返ることなく吐き捨てた。


最後まで聞く必要すらない。


争いを好むこの男が口を出すのは、目に見えていた。


「じゃあ、本当なんだ? それなら…」


「二度は言わんぞ」


「話は最後まで聞いてくれよ、旦那。クリュエルちゃんだけじゃ、ちょこっと戦力が足りないんじゃないかなーって心配しただけですよん」


けらけらと笑いながらモールは言った。


ルヴナンを前にして、こんな態度を取れるのはモールだけだ。


情報提供と利用価値があると判断し、再び手駒に加えたが…


ここで殺しておくべきか。


「聞いてねえのか? クリュエルちゃんは、独断でファミーユに一度向かっているんだよん?」


「ヴェガを狙って敗走したことは知っている。じゃが、それは奴が油断していたからじゃ。それに今回は派閥の者もつける」


「違う違う。そっちじゃなくて、ファミーユでヴェガとルーセットに会ったって言うこと」


「それがどうした。奴らがファミーユについた所で何も…」


そこまで言ってルヴナンは言葉を止めた。


クリュエルの報告で、ルーセット達がファミーユにいたことは聞いていた。


日和見主義のルーセットが今度はファミーユに身を寄せたと憤慨していたが…それは本当か。


狡猾なルーセットは本当にコカドリーユと言う後ろ盾を手放したのか。


「…まさか。コカドリーユが協力しておるのか?」


「その可能性は高いぜ。プレーヌ=リュンヌの内、半数が敵に回っている………旦那、もう出し惜しみなんてしている場合じゃないぜ?」


戦友であるコカドリーユをルヴナンは過小評価しない。


彼の性格も十分に理解している。


ファミーユと手を組んで襲ってくることは、十分に考えられる。


「派閥の者を全員集めろ! クリュエル以外の大戦の同志達もだ!」


急いで叫ぶルヴナンの視界の端でモールが笑みを浮かべたが、ルヴナンは気に留めなかった。

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