第五十一夜
「今すぐ報復を行うべきだ!」
「冷静になれ、相手は大戦前から生き続ける純血だぞ!」
「だからと言って、このままで良いのか! レーヴとソンジュが殺されかけたんだぞ!」
「二人なら無事よ。刺さっていた杭は急所を外れていたし、すぐに再生したわ」
「しかし、コレはルヴナンの脅迫だ。このままでは、いずれ同じことが起きる…」
屋敷内で多くの怒号が飛び交う。
ファミーユはかつてない程の大混乱だった。
プラニスフェルを奪おうとしたルヴナンはアンスタンの活躍によって退けたが、そちらに気を取られている間に別の襲撃があった。
レーヴとソンジュと言う名の少女二人、そして共にいたフェーが串刺しとなって見つかったのだ。
幸い、急所を外れていた為にすぐに再生できたが…コレは偶然ではない。
すぐに発見されるように、敢えて止めを刺さずに灰に変えなかったのだ。
全ては逆らったリコルヌ行われたルヴナンの脅迫。
そのように、ファミーユには見えた。
「…杭、か」
様々な意見が叫ぶ人々を二階から見下ろし、ルーセットは静かに呟いた。
フェー達を貫いた杭の能力。
それはルーセットと因縁深いモールの物だった。
(…状況的に、ルヴナンに命じられて襲撃を行った?)
それだと奇妙な点が多い。
最初に現れたルヴナンは、交渉で解決しようとしていたようだった。
少なくとも、プラニスフェルを力づくで手に入れようと考えているようには見えなかった。
にも関わらず、予めモールに襲撃を命じていたのはおかしい。
(…モールの独断か。だとすればアイツの狙いは)
戦い、殺し合い………そして、戦争。
戦闘狂のモールが何よりも望みそうなことだ。
ルヴナンに戦争の決意をさせる為、ファミーユを挑発した。
ファミーユはルヴナンの仕業と思い込んで、報復を行う。
ルヴナンはファミーユに反乱の意思があると思い込んで、迎撃する。
このままモールの思い通りに進めば、戦争が起きる。
(まあ、正直なところ。戦争自体に興味はないんだが)
ファミーユとルヴナン、どちらが滅びようと構わない。
問題は、ルーセットの求めるプラニスフェルが騒動の中心だと言うこと。
戦争が激化する前にどうにか盗み出せない物か…
「ルーセット、そちらの調子はどうなっている?」
騒がしい音の中、澄んだ声が響き渡る。
名前を呼ばれたルーセットが意識を下へ向けると、眷属に囲まれたリコルヌが顔を向けていた。
周囲に立つ眷属の目も全てルーセットに向けられる。
注目されていることに顔を顰めながら、ルーセットは重々しく口を開く。
「プラニスフェルの解析にはまだ時間がかかる。今、分かっているのはアレが魔力や魂を吸収して蓄積する物体であると言うことだけ」
眷属達は口を閉じ、ルーセットの言葉に耳を澄ました。
「なら、オネットの魂も内部に蓄積されているの?」
「中身を確かめないと分からない。だが、蓄積した魂を解放する方法はある筈だ」
プラニスフェルは兵器であるとルーセットは推測している。
死して月へ帰る筈の魂を引き寄せて保存する兵器。
それだけがこの兵器の能力ではないだろう。
収集した魂を使って行う何か別の能力がある筈だ。
その起動方法は一切見当もつかないが…
「…出来るだけ急いでくれ。オネットの魂さえ解放できれば、そんな物はルヴナンに渡せばいい」
リコルヌは祈るように言った。
傲慢なルヴナンを軽蔑したリコルヌだが、好んで戦争を起こしたい訳じゃない。
既に被害は出ているが、穏便に済めばそれでいいのだ。
「僕からルヴナンに報復はしない」
「甘すぎるぞ、リコルヌ! ルヴナンが攻めて来たらどうする!」
「その時は迎撃するよ。もう誰も傷つかせない………あちらから攻めてくるなら、徹底抗戦だ」
静かに言うリコルヌの目には、冷たい殺意が込められていた。
「粛清を行うべきですよ! ルヴナン卿の決定に逆らった小僧に!」
同じ頃、月明りの下でルヴナンとクリュエルは向き合っていた。
激高したように叫ぶクリュエルに対し、ルヴナンは考えるように霧の身体を揺らしている。
「元々、身内だけで派閥を作るとか胡散臭い所があったのですよ。あの小僧はきっとプレーヌ=リュンヌに反旗を翻すつもりですよ!」
「そこまでは考えておらん。リコルヌは野心のあるタイプではない」
十年前、リコルヌを勧誘したルヴナンは考える。
リコルヌは今の幸福が続けば、それで満足するタイプだ。
今以上の幸福を望んで努力するタイプではない。
その感性はルヴナン自身に近い為、リコルヌの人柄はよく理解していたつもりだった。
「じゃが、眷属に依存が過ぎる。人間社会で何十年も孤独でいた反動か? たかが眷属一人の為に、この儂を裏切るなど…」
「裏切りは悪ですよ。ルヴナン卿」
「…どちらにせよ。大戦の遺物は破壊せねばならん」
「では…」
「ああ、遺物を確保しろ。ただし、リコルヌだけは殺すな。純血の血は絶やしてはならん」
暗に、他の眷属はいくら殺しても構わないとルヴナンは言った。
自身よりも眷属を優先するリコルヌの思考が、ルヴナンには理解できない。
身勝手な考えな罰として、眷属を数名殺されれば悔い改めるだろうと考えているのだ。
「全て私にお任せ下さい」
「ヌーヴェル=リュンヌの残党狩りも引き続き行え」
「了解です。この世界に不要なクズ共は、この私が全て食い散らしましょう」
「…もう一度言う、くれぐれも純血を殺すなよ。リコルヌもヴェガもだ」
クリュエルの独断行動を思い出し、ルヴナンは再度警告した。
忠誠心こそ見事だが、この男にはルヴナンの意思を曲解して暴走する悪癖があるのだ。
「ヴェガもですか? し、しかし、あの娘は裏切り者と精通していて…」
「いいな?」
「………はい」
殺気を向けられてクリュエルは渋々頷いた。
しょんぼり、と肩を落として拗ねるようにリボルバーを弄る。
暴走して扱い辛いのは変わらないが、直々の命令は流石に無視できないだろう。
命令さえ下せば、クリュエルは有能だ。
純粋な戦闘能力、暗殺に関しては純血に匹敵する実力を持つ。
「ファミーユは数だけは多い。派閥の者を連れていく許可を与える、必ず遺物を手に入れろ」




