表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンストル  作者: 髪槍夜昼
闘争と悪意の狂戦士
50/136

第五十夜


「四人の始祖…それに、ヌーヴェル=リュンヌか…」


ヴェガから話を聞いたルーセットは思案するように呟く。


クリュエルがヴェガに語った話は情報通のルーセットでも、知らないことばかりだった。


ルヴナン達が終わらせた大戦自体は有名な話だが、ヌーヴェル=リュンヌやクリュエルなど純血以外で大戦を生き抜いた者の存在。


そして、そもそも吸血鬼の発端である『始祖』の存在。


誰もが薄々は感じていたことだが、純血も始まりは人間だったのだ。


「純血以外にも、大戦前から生き残る化物がいるなんて…ゾッとする話だ」


吸血鬼の強さは重ねた年月で決まる。


成長も老化もしない吸血鬼は、元々の能力や素質こそ変わらないが、自身のイクリプスをより理解することで力を研ぎ澄ます。


元々はルーセット達と同じ人間上がりだったクリュエル。


百年を超えた実力は既に、純血に匹敵するレベルだ。


「…そう言えば、クリュエルのことを知っているようでしたけど」


ふと思い出したようにヴェガが尋ねた。


「会ったのは初めてさ。でも、ルヴナンが狂犬を飼っていると言うのは有名な話だった。悪食のクリュエル…獣が食い散らすように吸血鬼を殺すから、そう呼ばれている」


無論、本人が否定したように本当に吸血鬼を喰らっている訳ではないのだろう。


共食いを禁忌とするルヴナンの下で、そんなことが出来る筈がない。


だが、その獣のような残忍性は異名通りだった。


「クリュエルが、大戦前から生きているなんて知らなかったな………ルヴナンめ、この分だとまだ何人か匿っている可能性もあるな」


「どうして隠していたのでしょうか?」


「あのジジイのことだから、戦力を持つことでコカドリーユ辺りを刺激したくなかったんじゃないか?」


争い事を嫌うルヴナンなら有り得る。


隠していた戦力もあくまで秩序維持の為に使っているのだろう。


「しかし、あの様子だと手綱を握れていないようですね」


「そうだな。ヴェガはともかく、リコルヌまで暗殺しようとするのはルヴナンでは有り得ない」


明らかな独断行動。


同胞であるリコルヌへの挑発行為。


ルヴナンを妄信するクリュエルと言う人物は、ある意味ルヴナンよりも危険かもしれない。


「とにかく、ルヴナンだけじゃなくてアイツにも気を付けないとな」


「そうですね………それはそうと、例の件は上手く行きそうですか?」


「プラニスフェルか? 今のところは何とも………」


ルーセットが困ったように言った時、屋敷が僅かに揺れた。


壁にかけられた絵画が落ちるが、その音はルーセットの耳に届かなかった。


微かな寒気と、痛い程の静寂が屋敷を包み込む。


何度も感じたことのある悪寒に、ルーセットは顔を顰めた。


「…マジかよ。この魔力は」


「ルヴナンですね。一体何をしにきたのでしょうか」


曇った窓に張り付いて外を盗み見る。


屋敷の外に赤い霧と、リコルヌの姿があった。


「考えられるのはクリュエルから聞いて、ヴェガを捕まえに来たか…」


もう一つの推測に至り、ルーセットは舌打ちをした。


「プラニスフェルを嗅ぎ付けてきやがったか」








「プラニスフェルは渡せない」


赤い霧に包まれた屋敷の外で、リコルヌは告げた。


隣には護衛するように、アンスタンが控えている。


「それは、どう言う意味じゃ?」


威圧するような低い声でルヴナンは言った。


疑問と言うよりも警告だった。


「プラニスフェルの中には、僕の眷属の魂が残っている。それを解放するまでは渡せない」


ルーセットに伝えた時と同じように、リコルヌははっきりと伝えた。


家族の為なら、自身の倍以上生きる怪物を敵に回すことすら躊躇わない。


そんな覚悟を込めて、ルヴナンへ目を向ける。


「ははは、なんじゃ。そんなことか」


「…そんなこと?」


「つまり、リコルヌ。お主は失った眷属を取り戻したいだけなのじゃろう?」


まるで好々爺のように朗らに笑いながら、ルヴナンは尋ねた。


赤い霧の姿をした不気味な存在だが、リコルヌに対して敵意はないように見えた。


リコルヌは安心したように息を吐く。


ルーセットと同じだ。


ルヴナンもまた、リコルヌの言葉を分かってくれたと。


「ならば、今すぐ儂が代わりを連れて来よう」


「…………………え?」


その言葉は、確かにリコルヌの耳に届いていた。


届いていたが、信じられなかった。


「失った眷属の性別は? 年齢は? 幸い、人間は山ほどおる。似たような者などすぐに見つかるじゃろう」


「代わり……似たような者…?」


言葉の意味が分からない。


音は届いても、頭が理解することを拒否している。


隣に立つアンスタンが僅かに震えたことを感じた。


「黙って聞いていれば…俺達を物みたいに言うんじゃねえ!」


「物か。確かにその通りよ。お前達、眷属は我々純血に従う駒じゃ」


傲慢な言葉だった。


自身を支配者と信じる者の言葉だった。


コレが純血の言葉か。


コレが吸血鬼の言葉か。


「ルヴナンさん、僕はあなたには従わないよ………アンスタン!」


「フランベルジェ!」


リコルヌの声に反応し、アンスタンが右手を振るう。


その手に握られていた剣から溢れた炎が、周囲の赤い霧を蒸発させた。


炎の届かない空中へ飛びながら、ルヴナンは大きく舌打ちをした。


「愚か者が! 自分が何をしたのか分かっておるのか!」


「間違った選択だとは思わない。僕と君では考えが違うようだ」


リコルヌは空中に集中する赤い霧を睨み、はっきりと告げた。


「プラニスフェルは渡せない。僕が、家族を救い出すまでは」


「…後悔するぞ」








「予想以上に大問題になっているじゃねーの! くはははは!」


双眼鏡を覗き込みながらモールはげらげらと笑った。


辺りを包む赤い霧に紛れ、屋敷へ近づく。


流石に声までは聞こえないが、ルヴナンに炎が放たれていることから交渉は失敗したようだ。


「リコルヌ一人なら気絶でもさせて盗み出せるが、その傍らには相性最悪のアンスタンがいる。霧は炎には勝てねえよ! 困ったなァ、旦那!」


霧と炎が夜の空を駆ける。


周囲全ての霧を操るルヴナンに対し、アンスタンは炎の剣が一本だけ。


しかし、アンスタンが剣から生み出す炎がリコルヌ達を包み、ルヴナンの霧を遮る。


流石のルヴナンも、炎の壁は突破できないようだ。


「互いに決定打に欠ける。そして聡明な旦那はこう思う、このままでは埒が明かないと。そしてそして次に旦那は…」


「あのー…さっきから何を一人で盛り上がっているの?」


興奮するモールに冷や水をかけるように、背中が叩かれた。


声をかけたのは童話チックな緑のワンピースを着た少女、フェーだった。


訝し気な顔をして、不審なモールを見ている。


その背中には、怯えた顔の少女が二人隠れていた。


「コレは失礼、淑女諸君。俺っち、怪しい者じゃないんだ。通りすがりのナイスガイさ!」


「…色々と突っ込みたい所はあるけど、あなたってファミーユじゃないわよね?」


フェーが背中に張り付く少女達に顔を向ける。


怯えた少女達は勢いよく首をぶんぶん振った。


「嫌だなァ。そんなに怯えるなよ。俺っちは世界一子供に優しい男だぜ?」


「ひいいいい! 髑髏が笑ったー!」


モールが笑みを浮かべて手を差し伸べると、少女達は遂に泣き叫んだ。


笑顔のままモールの表情が固まった。


「…流石にちょっと傷ついたよ。俺っちのガラスハートは粉々だよ」


「あー、えっと…」


「慰めは結構! 俺っちはこんなことでは挫けない! モールは泣かない!」


自棄気味に叫ぶとモールは杖代わりにしていた杭槍を地面に突き刺した。


突き立てられた地面が、モール自身の影が脈動する。


「なっ…コレ、は…」


ボコボコと揺れる地面にフェーは青ざめる。


「立ち上る影よ。極刑の杭となれ!」


「に、逃げ…て…」


「『インペイルメント』」


瞬間、モールの影から細く鋭い杭が飛び出した。


数は三本。


最初の二本が呆然としていた少女達を貫き、


二人を助けようとしていたフェーを残る一本が貫く。


腹部を貫かれた三人の身体は、まるで昆虫の標本のように空に縫い付けられた。


白木の杭が三人から零れる血で赤く染まる。


「…あ…あああ……」


「安心しろ、止めはしない。吸血鬼の死体は残らねえからな」


モールはそう言い残すと、杭槍を拾う。


最後の磔となった生贄達を一瞥し、立ち去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ