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モンストル  作者: 髪槍夜昼
権力と陰謀の純血
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第四十九夜


「大戦を生き抜いた?…生き残ったのは、四人だけでは…」


「それは純血ではな。大戦は純血と眷属の戦いだったが、純血に味方した人間上がりもいた」


全ての眷属が主人に忠誠を誓う訳ではないように、


全ての眷属が独立を望む訳ではない。


純血の眷属の中には、彼らに恩義や忠誠を感じて味方をした者もいた。


百年前、純血と共にルーガルー率いる『ヌーヴェル=リュンヌ』と戦った元人間達。


「その生き残りが俺だ」


「…百年を生きた、人間上がり」


「正確には百三十年とちょっとだな。ルヴナン卿やコカドリーユ卿と比べれば年下だが、精々五十年程度しか生きていないリコルヌやお前よりは古株だ」


銃口を向けたままクリュエルは見下すように言った。


ヴェガが純血であることに気付いている。


恐らく、最初からヴェガがファミーユではないことを知った上で会話していたのだろう。


今までの会話は、全て茶番だったのだ。


「…分かりませんね。純血に忠誠を誓うあなたが、どうして私に銃を向けているのですか?」


「俺が忠誠を誓っているのはルヴナン卿、コカドリーユ卿、ティミッド卿、ソルシエール卿の四人だけだ。大戦の英雄には心からの忠誠を捧げるが、自分より幼い小娘と小僧に従う気はない」


クリュエルの英雄信仰にも区別があるらしい。


大戦を共に戦った四人に忠誠は誓うが、大戦後に生まれたリコルヌやヴェガを見下しているのだろう。


自分勝手な考えだが、信仰とは時にそう言う物だ。


信じたい者だけを信じるのは、生物として当然のことだろう。


「…とは言え、お前はティミッド卿の実の娘。お前を殺すことは、ティミッド卿への裏切りになるか」


そう言うとクリュエルは銃口を下した。


「しかし、ティミッド卿の後継者であるなら、どうしてその仇を討たないのか」


「…ルーセットのことですか?」


「そうだ。奴はティミッド卿を殺した。世界に混沌をもたらす悪だ」


クリュエルの目には迷いがない決意があった。


妄信と称してもいいほどに、純血を正義と信じている。


純血主義を信じるヴェガよりも…もしかしたらルヴナン以上かもしれない。


ルヴナンよりも過激すぎる。


だからこそ、ルヴナンが同胞と迎えたリコルヌやヴェガすらも敵視しているのだろう。


「お前はティミッド卿の後継者となる資格がある。数合わせで入ったリコルヌに代わり、お前が新たなプレーヌ=リュンヌとなるのだ」


「…その為にルーセットを殺せと?」


「その通り。正義を成すのだ」


自信満々に言うクリュエルをヴェガは冷めた目で見つめた。


これがルーセットと出会う前だったなら、ヴェガはクリュエルに協力したかもしれない。


多少過激ではあるが、以前のヴェガも大して変わらない考えだったから。


だが、ルーセットと共に行動して様々なことを見てきたヴェガには、その言葉が陳腐に聞こえた。


正義だの、悪だの。


吸血鬼バケモノが何を言っているのだろうか。


「…お断りします。私は純血である前に一人の吸血鬼なんです」


「だから…?」


「だから、善悪ではなく自分の欲を優先しようと思います。私はティミッドが嫌いで、ルーセットが嫌いじゃないんですよ」


何が正しいかは関係ない。


自身の望むことの為に全力で努力する。


それが生きると言うことなのだと、ヴェガはルーセットを見て学んだ。


「…分かったよ」


残念そうに言うとクリュエルは銃口を自身の頭に向けた。


ヴェガがその行動に首を傾げるよりも早く、引き金が引かれる。


パン、と軽い破裂音と共にクリュエルの頭に風穴が空いた。


「なっ…」


穴が空いたクリュエルの頭から噴水のように血が噴き出す。


ヴェガは言葉を失い、思わず後退った。


何故自分の頭を撃ったのか…自害するつもりだった?


脳と心臓は吸血鬼の急所だ。


ルーセットのように再生特化型ではない限り、一度破壊されるだけで致命傷だ。


それを自ら撃ち抜くなど、自害としか思えない。


「…まさか、一発目で当たるとは………俺も運が悪い」


「ッ!」


頭から血を流すクリュエルがゆっくりと口を開く。


次々と地面に零れ続ける自身の血を気にせず、ぎょろりとヴェガへ目を向けた。


「まあ、運が悪いと言えば、ティミッド卿の忘れ形見が裏切り者に毒され、反逆したことの方が尚悪い…最悪の気分だよ」


ドクドク、と流れ続ける鮮血が動きを変える。


重力に逆らうように立ち上がり、何かの形を成していく。


それはゼリーのようにぶよぶよとした獣だった。


「血よ。我が分身よ。罪を喰らう獣となれ」


血が豹や狼のような形をした獣に姿を変える。


クリュエルの血から悍ましい生命が生まれる。


「『ルキゥール』」


荒々しい息が聞こえた。


赤黒いカサブタのような色をした獣が二匹、目のない顔をヴェガに向けていた。


大きく開いた口から赤い涎を垂らしながら、獰猛な殺気を放つ。


「可愛いだろう。彼らこそ、罪人を喰らって浄化する処刑人さ」


「…くっ」


星屑の光を集めながら、ヴェガは苦い顔をする。


ヴェガの攻撃は空間攻撃。


防御不能の高い殺傷力を持つが、流動的な獣にも通用するだろうか。


質量を少しずつ削り取れば、倒せるだろうが…その性質上、新しく生み出される可能性が高い。


「さあ、懺悔の時だ」


勝利を確信したクリュエルが獣に指示を出す。


獣が獰猛に吠えながらヴェガへ近づく。


瞬間、獣の身体が炎に包まれた。


「む…」


「『フランベルジェ』」


遅れて聞こえた声と共にもう一匹の獣も炎に包まれた。


波打つ炎が流動的な身体を包み、嫌な臭いを出して蒸発する。


それを見て、クリュエルは一歩後退った。


「他人の家の前で、何やってんだ。クソ野郎!」


メラメラと燃え盛る炎の中で叫んだのはアンスタンだった。


その右手には、剣のような形をした波打つ炎を握っている。


クリュエルの獣を燃やしたのは、この炎だろう。


「リコルヌの部下か。だが、この程度の炎で俺が負けるとでも…」


「いや、君の負けだ。『悪食』のクリュエル」


そう言いながら、ルーセットがヴェガの隣に立つ。


ルーセットだけではない、少し離れた所にはリコルヌ。


周囲には多くのファミーユが集まってきている。


「悪食…その名はあまり好きではない。俺は共食いなどしないからな、お前と違って」


「夜な夜なルヴナンに意見する吸血鬼を喰らう犬っころには相応しいじゃないか」


「何だと…!」


激怒して新たに獣を作り出そうとした所で、クリュエルは顔を顰めた。


「…なるほど、激高させて俺を消耗させるつもりか」


「流石に気付いたか? まあ、血を放出する能力ってのは消耗が激しそうだからな。弱点は持久戦だろう」


ルーセットは得意げに笑いながら告げる。


血は吸血鬼の力の源だ。


それを放出して操る能力は確かに強力だが、戦いが長引くほどに消耗する。


故に持久戦は圧倒的に不利。


この場にいる全てのファミーユと戦うなど、自殺行為だ。


それを悟り、クリュエルはルーセットに背を向けた。


「…一つ聞こう。お前は行方をくらませた十年間、一体何をしていた?」


「人間社会で楽しく暮らしていただけだ。何で、そんなことを?」


「………俺と同じ大戦の生き残り『ヌーヴェル=リュンヌ』の活動が活発化したのは十年前、お前がティミッド卿を暗殺した時期と重なる」


疑心に満ちた声でクリュエルは言ったが、ルーセットは答えなかった。


仮に否定したとしても、クリュエルは信じないだろう。


これは質問ではなく、警告なのだ。


「お前も、ヌーヴェル=リュンヌも、秩序を乱す者は俺達が全て滅ぼしてくれる」


最後のそう言うと、クリュエルは姿を消した。








「今、どこかで殺し合いがあった」


コツ、コツ、と杖を突きながら老人のように細身の男は呟いた。


枯れ木のような足を動かし、片方しかない目で遠くを見る。


「あっちの方だ。血の臭いが強いが、きっと誰も死んでいない」


身に纏う黒いローブはボロ布同然で、痛々しい火傷跡のある肌が見えてしまっている。


「この臭いは………くくく、何の因果だ? ルーセットがファミーユにいるぞ」


火傷跡のある顔を上げ、ボロ布の男『モール』は声を上げて笑った。


愛しい相手を思うように、ファミーユのある方角を見つめる。


『あそこへ行こうなどと考えていないだろうな』


「当ったり前じゃねえか、クロちゃんよォ。俺っちだって、少しくらい考えているんだぜ?」


モールはオネットを殺害した。


今、あの場に戻れば今度こそアンスタンに殺されてしまうだろう。


全身を火達磨にされれば、次も生きていられる保証はない。


「それにそろそろ計画も次の段階に…」


言いかけて、モールは寒気を感じた。


熱を持っていた火傷跡すら凍える冷たさ。


霧の人影が、目の前に出現した。


「久しぶりじゃな、モールよ」


「おーおー久しぶり旦那。相変わらずお若いねェ」


「…戯言は結構じゃ。この儂を裏切った罪、忘れておらんじゃろう?」


ルヴナンの声に殺気が込められる。


それに少しも慌てた様子もなく、モールは杖代わりにしていた杭槍を捨てた。


「勿論忘れてねえが、こうして現れたのは旦那に耳よりな情報を渡す為なんだ」


「聞く耳持たん」


「まあまあ、そう言わずに…どうせ俺っち如き旦那ならいつでも殺せるでしょう? まずは聞いてから判断しても遅くないよん」


「………」


ルヴナンは無言で先を促した。


モールは上手く行ったことに笑みを浮かべ、切り札を一つ切る。


「旦那が長年探していた大戦の遺物…今はリコルヌが持っているらしいよ」


それはこの百年、ルヴナンが何よりも欲しい情報だった。


大戦の遺物であり、ヌーヴェル=リュンヌに再び力を与えかねない物。


それが今、リコルヌの下にある。


「それは真実か? もし偽りだったならその命…」


「当然だろ。俺っちだって旦那に嘘つくほど命知らずじゃねえって」


「…良いじゃろう。その情報の真偽を確かめるまでは見逃してやる」


そう告げるとルヴナンは有無を言わさず、消え去った。


すぐにリコルヌの下へ向かったのだろう。


そして、ルヴナンはきっと見つけるだろうリコルヌの持つプラニスフェルを。


「く、くくく…」


全てはモールの目論見通りに。


「くははは、あははははははははは! もう止まらねえ! 既にカウントダウンは始まっている!」


モールの望む戦争へと。


「はははは! そうだ、吸血鬼ってのは化物であるべきなんだ! 家族? 恋人? ハッ、そんな物は自分の本性が受け入れられねえ臆病者の戯言だ!」


純血の秩序の崩壊へと。


「さあ、再び大戦を始めようぜ!」

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