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モンストル  作者: 髪槍夜昼
権力と陰謀の純血
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第四十八夜


「全く、あの男は相変わらず…」


廊下の窓から外を眺めながら、ヴェガは忌々しそうに言った。


昨夜、酒に酔って醜態を晒してから散々だ。


寝起きからルーセットにはからかわれるし、フェーにも馬鹿にされるし、


何より、日々思っていることないこと全部話してしまったことが最悪だ。


イジメられることが嬉しいとか、ルーセットでも引くようなことを言ってしまった。


「あああー! もー!」


頭を抱えてヴェガは意味もなく叫ぶ。


違う、アレは酒のせいだ。


酒に酔った頭が勝手に吐いた言葉だ。


もう二度と酒は飲まない。


別に今回も飲みたくて飲んだ訳ではないけど…


「…ん?」


気分を落ち着ける為に外の景色を眺めていると、何やら外にいた眷属が一か所に集まっていた。


先程まで月明りの下で眷属の子供達が遊んでいたのだが、全員集まって何かしている。


離れていてよく見えないが、子供の円の中心に誰かいるようだ。


「………」


何故かそれが少し気になったヴェガは階段を下りて、その場へ向かった。








「昔々、あるところに四人の人間がいました」


子供達の中心で、静かな声が響く。


「その者達は人間に『賢者』と呼ばれていました。彼らが四人集まれば、分からないことは何もないと言われていました」


絵も何もない声だけの物語だが、子供達は不思議そうに耳を傾けていた。


「しかし、彼らには一つだけどうしても分からないことがありました。それは死です。彼らは死と言う物を理解できなかった」


その男は顎鬚を撫でながら、話を続ける。


「人は理解できない物を恐れる。賢者と称される彼らが唯一恐れる物は、死だったのです」


そこまで話すと男は被っていたテンガロンハットを被り直す。


子供達は難しい話に首を傾げていた。


「死を恐れた賢者達はその卓越した頭脳を使って様々な手段を考え、実行し続けた末に………『吸血鬼ヴァンピール』となる方法を見つけたのです」


腰に差していたリボルバーを気障に回しながら、男は子供達へ目を向けた。


「それが、吸血鬼の『始祖』の物語。俺達が吸血鬼として生きていられるのは全て彼らのお陰なんだ」


「しそ…?」


「与えられた力は自分の物に思えるかもしれないが、元々は始祖の…純血様の物。そのことを忘れてはいけないのだよ」


堂々と男は笑みを浮かべるが、子供達は訝し気な顔をしていた。


芳しくない反応に男は深いため息をつく。


くるくると回していたリボルバーをホルスターに仕舞った。


「…やっぱり若すぎたか。大戦を生き抜いた者が死に絶えたこの時代、新しい世代にも教育は施すべきだと思ったんだが」


「中々面白い話だったと思いますよ」


「え? マジで? うっそ、嬉しいんだけど…」


突然聞こえた賞賛の声に笑みを浮かべ、男は声の主を見る。


子供達の円から離れた所に座るヴェガが、小さく拍手をしていた。


ヴェガは男と目が合うと、少しだけ愛想の良い顔で会釈した。


ルーセットの真似だ。


「私達の始まりの話など、知る者も少ないですから」


「確かに今の子は皆、知らないだろうな。あ、俺はクリュエル。嬢ちゃんもファミーユの子か?」


「そうです。それよりも、もっと聞きたいことがあるのですが」


ヴェガの言葉にクリュエルは嬉しそうな顔をした。


まともに話を理解してもらえなかったことに不満を持っていたのだろう。


生徒に質問を受けた教師のように、満足そうに笑う。


「何でもどうぞ。若人の疑問に答えるのも年長者の務めだからな」


三十代そこそこに見える外見の割に、年寄り臭いことをクリュエルは言った。


「では…始祖とは純血の先祖なのですよね?」


「その通り。始祖同士、或いは始祖と眷属の間に生まれた子が純血だ。そして、その純血の眷属が人間上がりの始まり………つまり、我々には等しく始祖の血が流れているのだよ」


始まりは四人だった。


その四人がそれぞれ眷属を作り、子供を作り、数を増やしていったのだ。


全ての吸血鬼の根源は、始祖の四人に遡る。


「それともう一つ、どうして純血は数が減ってしまったのですか?」


「今時の子はそれも知らないのか。かつて純血の眷属達が起こした戦争は有名だろう。純血の子は人間とほぼ変わらない速度で増えるけど、眷属が眷属を生み出すのに時間は要らない。人間上がりはネズミ算式に増えていった」


何か憂いを含んだ目をしながらクリュエルは話を続けた。


「やがて数が増えた眷属達は自信を持つ。眷属の反乱だ。数百年続いた戦いで始祖を含む殆どの純血の命が失われてしまった」


「なるほど…」


確かに百年前まで続いた戦争は吸血鬼界では有名な話だった。


吸血鬼界を支配しようとしていた者達を四人の純血が手を組んで打倒したと言う伝承。


百年前に吸血鬼を救った英雄として『プレーヌ=リュンヌ』の名前は語り継がれている。


実力を直接見たことがない成り立てが純血を敬うのはそれが理由でもある。


「勉強になりました。最後に一つ良いですか?」


「はい、どうぞ」


勤勉な態度に満足しながらクリュエルは続きを促した。


既に帰ったのか周囲に子供達の姿はないが、特に気にしてはいなかった。


「最初に四人の賢者が吸血鬼に変わったと言いましたが…」


ヴェガは最初から疑問に思っていたことを口に出した。


吸血鬼の始まりは、始祖の四人。


人間は吸血鬼の血を与えられることで吸血鬼になる。


人間上がりは純血から、


純血は始祖から、


ならば、始祖は…


「始祖の四人は一体、どうやって吸血鬼になったのですか?」


その質問にクリュエルは笑みを浮かべた。


それは今までに浮かべていた優しい笑みではなく、背筋が凍るような残忍な笑み。


ヴェガは禁忌に触れたかのような悪寒を感じた。


「…肉を喰らったのさ」


「肉…?」


「そう、月に呪われた『ウサギの肉』をね」


酷薄な笑みを浮かべたクリュエルは告げる。


何かの隠語だろうか、とヴェガは首を傾げた。


始祖の生まれた時代と言うのは、もう何百年も前の時代だ。


詳しい伝承が残っていなくてもおかしくはない。


考え込むヴェガを眺めながら、クリュエルはリボルバーを抜いた。


「吸血鬼の本質は『貪欲』だ。獣性と野心に支配された獣を纏めるには、絶対の秩序がいる」


リボルバーの弾倉シリンダーを回して、一つだけ弾を込める。


六つの弾倉に一発だけの弾丸。


「例えば、ロシアンルーレットのように全体の為に不運な一人を切り捨てることも秩序の為には止む無しなんだよ」


そう告げたクリュエルの目は、既に穏やかさを失っていた。


冷徹な殺し屋のような感情を目に浮かべ、ヴェガを見ている。


「…あなた、誰ですか?」


「俺はクリュエル。ルヴナン卿の腹心にして…」


リボルバーの銃口が静かにヴェガへ向けられた。


「かつて大戦を生き抜いた、人間上がりの吸血鬼だよ」


百年を生きた吸血鬼は、笑みを浮かべて言った。

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