表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンストル  作者: 髪槍夜昼
権力と陰謀の純血
47/136

第四十七夜


「…この部屋に蝙蝠がいるんだよね」


「駄目だって! まだ寝てるかもしれないよ!」


「しー、静かに」


ファミーユの屋敷の一室。


ルーセット達が利用している部屋の前に三人の吸血鬼が集まっていた。


リコルヌを説得したルーセットが滞在を許可された翌日。


既にファミーユの間でルーセットのことを知らない者はいなかった。


悪名高い『蝙蝠』の名を持つ吸血鬼。


未だ吸血鬼の自覚が薄い者も多いファミーユに置いても、その名は有名だった。


「むしろ寝ているなら好都合。リコルヌ様に手を出す前に私達が…」


「ちょっと何言ってんの! リコルヌ様から連れてくるように言われただけじゃん!」


「…確かに、あの男は危険かもしれません」


ひそひそと扉の前で相談するのは三人の少女。


ファミーユの中でも実年齢が幼い三人だった。


一人が挑戦的に、一人が心配そうに、一人が無表情で会話を続ける。


「と言うか、何で三人とも同じ部屋なの?」


「確か、蝙蝠一人と女の人が二人だったよね………何か卑猥だよ!」


「吸血鬼の中には、眷属を奴隷のように使う者もいるって聞きました。もしかしたら…」


「そうなの!? 私の主がリコルヌ様で良かったー…」


「女の人を二人も侍らせて、逆らえない二人を奴隷のように……」


何やら一人が顔を赤らめて妄想に耽り出した所で、扉が開いた。


それにいち早く気付いた二人は慌てて逃げ出す。


会話の内容がばっちり聞こえていたルーセットは笑顔で取り残された少女の肩を叩いた。


「君も奴隷になってみる?」


「いやぁあああああ!? りり、リコルヌ様ぁー!?」


顔を赤から青に変色させて、少女は急いで逃げ出した。


半泣きで逃げる少女の背を眺めて、ルーセットは小さく息を吐く。


「俺ってそんなに評判悪いかね」


「自覚なかったのですか。と言うか、寝起き早々に何で女の子を泣かせているんですか」


困ったように頬を掻くルーセットに憮然とした顔でヴェガが言った。


僅かに眠たげな目のせいで普段より不機嫌そうな顔になっている。


頭が痛そうに顔を顰めているのは、昨夜の泥酔事件の後遺症か。


「あー、ごめんね。ヤキモチ焼かないでよ」


昨夜の一件を思い出し、ルーセットは笑みを浮かべながら言う。


からかうような言葉に、ヴェガは瞬時に顔を真っ赤にして固まった。


恥辱にぷるぷると震えながら何とか、ルーセットの目を見る。


「…違いますからね」


「ごめんごめん。一番反応が可愛いのは、ヴェガだから」


「違うと言っているでしょう!? あ、アレは気の迷いです! 世迷言です! 本心でそう思っている訳ではないと何度も言ったでしょうが!?」


頭から湯気でも吹きそうな程に真っ赤になってヴェガは叫ぶ。


わたわたと慌てたように腕を動かすヴェガを見て、ルーセットはにんまりと笑みを浮かべた。


本当に、反応が可愛い娘だと思う。


へらへらと笑いながら落ち着かせるようにヴェガの頭に手を置いた。


「さて、父様は呼ばれているから留守番は任せたぞ」


「誰が父様ですか! そもそもそんなに歳離れていないでしょう! って聞きなさい!」


喚くヴェガを放置して、ルーセットは鼻歌交じりに去っていった。








「おはよう、ルーセット。よく眠れた?」


「おはよう、リコルヌ。俺の特技はどこでも寝れることなんだ」


「そうなの。それは何より」


部屋に入ってすぐに二人は挨拶を交わした。


リコルヌは満面の笑みで、ルーセットも愛想の良い笑みを浮かべている。


内心はともかく、見た目は古い友人のように穏やかな光景だった。


部屋の隅でルーセットを睨んでいるアンスタンを除けば…


「海パン君。俺を睨むのやめてくれない?」


「変なあだ名付けんな、燃やすぞ!」


チリチリと火花を放ちながら、アンスタンが前へ踏み出す。


予想通りと言えば予想通りな反応に、ルーセットは失笑した。


コツ、と靴の踵で自身の影を叩く。


「隠し偽れ『シメール』」


「ッ!? テメェ!」


ルーセットの姿が影に包まれる。


イクリプスの発動を見て、アンスタンは殺気立った。


右手は既に炎を纏っており、今にも放ちそうだ。


「アンスタン。その炎を仕舞うんだ」


「なっ…」


アンスタンが絶句する。


それはリコルヌから炎を収めるように警告されたからではない。


「へえ………面白い」


リコルヌが興味深そうに呟いた。


そう、リコルヌは何も言葉を発していなかった。


アンスタンに警告をしたのは、リコルヌではなかった。


「おや、僕の顔を忘れたの? アンスタン」


リコルヌの顔をしたルーセットは子供のような笑みで言った。


あまりにも精度の高い変装に、アンスタンは戦慄する。


「て、テメェ! よりにもよってリコルヌに化けやがって!」


「ははは、攻撃できまい。今の俺は、お前の大好きなリコルヌだ」


「くぅううう! おのれェ!」


「つーか本当にリコルヌが好きなんだな。ちょっと怪しいカンケイってやつー?」


「リコルヌの顔でそう言うこと言うんじゃねえよ!」


地団太を踏みながらアンスタンが叫ぶが、それ以上は何もしない。


悔しそうに顔を歪めて、ルーセットを睨むだけだ。


本当に変身したルーセットを攻撃できないようだ。


本物のリコルヌの方は、ルーセットを面白そうに眺めていた。


「凄いね、本当にそっくりなのよ。今度僕の影武者にならない?」


「魅力的な提案だな。ファミーユの誰が最初に気付くか賭けないか?」


「それいいね。今度やってみようか…」


「リコルヌ! こんな奴と打ち解けてんじゃねえ!」


憤慨したようにアンスタンは叫ぶ。


さながら、悪い友達を作る弟を説教する兄のようだった。


主従関係と言うよりは、仲の良い兄弟。


リコルヌの血で繋がった家族。


家族ファミーユと言う名の通り、この派閥は皆が家族と認識しているのだろう。


絶対的な主従関係を持つルヴナン派閥や、実力主義のコカドリーユ派閥とは違う結束力だ。


「さて、冗談はこのくらいにして…本題に入ろうか」


リコルヌは笑顔の中に真剣な目を混ぜて、部屋の台に置かれている物を見た。


「プラニスフェル、とモールが呼んでいた物だよ」


「………」


変身を解いたルーセットは近くによって黒い球体を観察する。


不思議な物体だ。


正しく吸い込まれそうな黒く澄んだ色の物体。


コレが、ルーガルーの遺物。


かつて純血を滅ぼしかけた怪物の遺した物。


(…モール、か)


昨夜の内に、リコルヌからコレを手に入れた経緯は聞いていた。


一時的にファミーユに所属していたモールが裏切った際、取り出した物だと。


オネットの魂を取り込んだと言い、アンスタンの魂も奪おうとしたことを。


何故、単なる吸血鬼に過ぎないモールがそれを持っていたのか不明だ。


ルヴナンの所にいた時に盗み出した?


あの用心深いルヴナンがそんなミスをするとは思えないし、それならすぐに殺されている筈だ。


モールは何者だったのか。


アンスタンが滅ぼした今となっては、知ることは出来ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ