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モンストル  作者: 髪槍夜昼
権力と陰謀の純血
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第四十四夜


「モールの奴が裏切りやがった! くそっ、気付いていたのに! オネットが!」


扉を蹴破るように帰ってきたアンスタンは興奮した様子で叫んだ。


憤怒と後悔に苦しむように顔を歪め、近くの壁を殴りつける。


力任せに殴った拳から血は噴き出すが、あまりの怒気に誰も声をかけることが出来なかった。


「あちゃー、どうにもタイミングが悪かったみたいですね」


それを遠目で眺めながらボアは言う。


その隣に立つルーセットも腕を組みながら唸る。


「あの様子だと、話を聞いて貰えそうにないな」


「そうですねぇ。見つかる前に逃げ出すことをお勧めしますよ」


「そうするかなぁ」


緊張感のない態度でルーセットは頷いた。


元々アンスタンとは第一印象が悪かった。


アレだけ殺気立っている所で会ったら、何をされるか分からない。


おまけにルーセットにとって聞きたくなかった名前を大声で叫んでいる。


「アンスタン、気持ちは分かるけど少し落ち着いて」


「…リコルヌ」


暴れていたアンスタンは背後からかけられた声に動きを止めた。


宥めるように笑みを浮かべているのは、純白のコートを着た温室育ち風の青年。


(…アレがリコルヌ。新しい純血か)


ルーセットは無言でその男を見る。


聞いていた通り、戦闘が得意そうには見えない。


額から生えている角が少し珍しいが、それ以外は特に他の吸血鬼と変わらない。


纏う血の臭いも薄く、ルーセットよりは年上のようだが、それほど長い年月を生きているようには見えなかった。


「オネットはまだ死んでいない。コレの中に魂が残されている可能性があるのよ」


「それはアイツの言葉だろう。嘘をついていた可能性だってある!」


「アレだけ有利な状況で嘘はつかないのよ。仮に嘘だとしても、コレを調べてみないことには…」


言い争う二人を眺めていたルーセットはリコルヌの手にある物を見て固まった。


壊れ物を扱うように持っている黒い球体は、コカドリーユから聞いていた情報通りだった。


不気味な光と魔力を放つ物体。


ルーガルーの遺物。


それを確認した瞬間、ルーセットは音もなく二人の下へ駆け寄った。


「…ん?」


「何だ、テメエは…?」


二人が気付くのを待ってから、仰々しく頭を下げる。


「お初にお目にかかります、私はルーセットと申します。リコルヌ様にお会いしたくてこの度参りました」


普段から被っている山高帽を外し、愛らしい笑みを浮かべて言うルーセット。


元々燕尾服を来た紳士風な格好の上に、顔も女性的で可愛らしい為に様になっている。


遠目で見ていたヴェガが寒気を感じるように身体を抑えた。


「…ああ! テメエは前にオネットを誑かしていた詐欺師じゃねえか!」


思い出したように叫ぶアンスタンに、ルーセットは悲し気な顔をした。


「それは誤解でございます。あの時も私はただ、リコルヌ様にお会いしたかっただけで…」


「オネットの友達だったのかな? 残念だけどオネットはもう…」


「…まさか、あの子が? あんな優しい子が、一体誰に」


話の流れで薄々気付いていたルーセットだったが、大袈裟に驚いて見せる。


その演技に気付いていないのか、リコルヌは悲し気に顔を歪めた。


「モールだ。串刺し狂のモール……彼が僕らを裏切ったんだ」


「………」


(…アイツ、ろくなことしないな)


思わず素の表情で呆れるルーセット。


ルーセットの記憶が正しければ、モールはルヴナンの派閥だった気がするが…


まあ、今はその話はどうでもいい。


「それで君はどうしてここに?」


「私がここへ来たのは、我が主コカドリーユからの言伝を伝える為です」


堂々と嘘を吐きながらルーセットはリコルヌの目を見る。


同じ純血の名前が出たことで僅かにリコルヌは驚いているようだ。


「ルーガルーの遺物。それがもし見つかったなら、封印に協力してほしいとのことです」








月明かりすら差し込まない闇の中で一つの影が動く。


自分の手さえ見えない暗闇だが、その男は慣れた様子でテーブルの準備をしていた。


ラベルのない酒瓶を数本並べ、その隣にコルク抜きを置く。


こう言う時に男は吸血鬼になって良かったと思う。


夜を生きる吸血鬼の目には、闇の中でもはっきりと周囲を見渡すことが出来た。


「………」


男は近くで眠る老人を一瞥した後、壁にかけてある鏡を見た。


男が人間だった頃に聞いた噂の中に、吸血鬼は鏡に映らないと言う物があったが、それは迷信のようだ。


鏡の中には、顎鬚を生やした青年が映っている。


真新しいテンガロンハットを被り、腰のホルスターにはリボルバーまで差したカウボーイ風の男。


男は鏡に映った自分に笑みを浮かべた後、ホルスターからリボルバーを抜いた。


「やっぱイイなぁ、この銃。苦労して手に入れた甲斐があったぜ」


男は愛おしそうにリボルバーを撫でる。


得物を大事にする殺し屋と言うよりは、コレクションを愛でるガンマニアのような顔でリボルバーを弄っている。


実銃のようだが、弾は込められていないようだった。


「これからの時代はガンマンだ。よし、俺は世界一早撃ちの吸血鬼になるぞ」


「…クリュエル」


「うわぉ!」


突然聞こえた声に男『クリュエル』は飛び上がる程に驚いた。


慌てて振り返ると先ほどまで眠っていた老人が上半身を起こしていた。


「何をしている?」


「い、いえ何でもありません! ルヴナン卿、おはようございます!」


「それに何じゃその格好は、また人間に影響でも受けたのか」


眉をひそめながら老人はジロジロとクリュエルを見た。


クリュエルは被っていた帽子を外し、ルヴナンに平伏した。


「それで、今回は私めに何か御用があるとお聞きしたのですが?」


「そうじゃ、不穏分子が出た。お前に任務を頼みたい」


「……………かなり久しぶりですね。本当に私がやっても?」


「構わん。お前も給仕ばかりでは牙が鈍るじゃろう」


「………………………………………」


その言葉にクリュエルは嬉しそうな笑みを浮かべた。


吊り上がった口元から鋭い牙が覗く。


「それで、標的は誰ですか?」


「ああ、それは…」

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