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モンストル  作者: 髪槍夜昼
権力と陰謀の純血
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第三十六夜


「フロドゥール! 今までどこにいたんだ!」


「どうして今頃になってコカドリーユ様の下に?」


「今度は何を企んでいるんだ?」


周囲を囲む人々から質問攻めにされながらも『蝙蝠』は不敵な笑みを浮かべていた。


何も語らない姿が、人々の不安を煽る。


血気盛んな者はその態度に憤慨するが、純血殺しを成した実力を恐れて近付くことさえ出来ない。


「……ふふ」


その時『蝙蝠』は初めて本心から笑った。


気分が良かった。


この姿をしているだけで、人々は注目する。


何も語らないだけで、人々は恐れる。


ここにいるのは単なる姿を借りた盗人だと言うのに、それだけでこの効果。


(やっぱり『蝙蝠』は………フロドゥールは偉大だ)


盗人は尊敬するフロドゥールを内心称賛する。


敬愛する者の姿を借りるのは少し心が痛むが、目的の為には仕方がない。


それもこれも十年も姿を見せない彼が悪いのだ。


純血殺しと言う悪行(偉業)を成し遂げておきながら、十年も行方不明。


それだけ世から身を隠せば、偽者も出ると言うもの…


「よう、初めまして『蝙蝠』です」


「ッ!」


それは唐突だった。


ぼんやりと考え事をしていた盗人の前に、背から翼を生やした男が降り立った。


燕尾服に山高帽…紳士風で男性的な格好。


その割に、顔つきは女性的で柔らかそうな体つきをしている。


愛想のよい可愛らしい笑みは『蝙蝠』とは似ても似つかない。


「…何を言っている。蝙蝠は私だ」


「おおー、喋り方も似てるな。上手い上手い」


拙い物真似を褒めるようにルーセットは拍手した。


馬鹿にするような仕草に盗人は苛立つ。


「顔もそっくりだし、服も似てる。これって君の能力? 俺の変身シメールとどっちが上かな?」


「………………………シメール?」


ルーセットを睨んでいた盗人の思考が止まる。


その名前は、フロドゥールの能力名ではなかったか。


実力主義のコカドリーユ派閥の中、自分の能力を隠していたフロドゥールが自分にだけ教えてくれた名前ではなかったか。


「全体的に精度も高い。演技力に関しては唯一自信がある俺から見ても悪くない」


「も、もしかしてあなたは…」


「でも…『コレ』は駄目でしょ」


ぺた、とルーセットの手が触れた。


貴族風のダンディな吸血鬼、その胸に触れた。


フロドゥールにも、ルーセットにもない『それ』を掴む。


「え…」


「顔は完璧でも身体は未熟だね。変身しきれていないから胸が………」


「きゃあああああああ!」


どこからともなく少女の悲鳴が聞こえた。


首を傾げる間もなく、ダンディな吸血鬼が爆発する。


ボフッと白い煙が舞い『蝙蝠』の輪郭が崩れていく。


それに軽く咳き込みながら、ルーセットは先程まで胸を掴んでいた手を見つめた。


「粉…?」


その手には白い粉が付着していた。


小麦粉の袋に手を突っ込んだように、ルーセットの手が白く染まっている。


「なななな、何を…し、してるの…」


煙で悪い視界の中、声が聞こえる。


高く響く女性の声だった。


煙が段々と風に流され、その姿がルーセットの目に映る。


「あなたは、だって、私、だったのに…どうして…」


それは『蝙蝠』とは似ても似つかない風貌の女性だった。


緑色のワンピースに身を包み、明るい色の靴を履いている。


頭に被った花の冠もメルヘンチックで、血生臭い吸血鬼のイメージとはかけ離れていた。


「………うう…」


その女性は今、自分の胸を抑えて真っ赤な顔をしていた。


目に涙を浮かべてルーセットを睨んでいる。


非難するような視線を向けられて、ルーセットは少し驚いたような顔をした。


「あれ、もしかしてフェーじゃないか?」


『フェー』と呼ばれた女性は、睨むのをやめて大きく頷いた。


「もしかしなくてもフェーだよ。このセクハラオヤジ」


「やっぱり! いやー懐かしいなぁ! 十年ぶりか? 美人になっちゃって!」


「え…」


その言葉にフェーは一瞬露骨に嬉しそうな顔を浮かべた。


しかし、次の瞬間にはブンブンと頭を振って元に戻す。


そんな言葉に喜ぶよりも先に聞きたいことが山ほどある。


目の前の優男が本当にフロドゥールであるなら、どうしてそんな姿をしているのか。


「そう言うあなたは本当にフロドゥールなの? 何か、前と全然違う姿なんだけど」


「ああ、うん。実はこっちが素顔なんだ。君の知ってるフロドゥールは変装した姿」


「何ですって!?」


フェーは戦慄したように固まった。


赤かった顔が瞬時に青く染まる。


今まで接してきたフロドゥールの姿が偽者と言われれば、当然だろう。


その人物を深く慕っていたなら尚更だ。


「あ、あのダンディなお髭も、余裕のある渋い声も、全部偽者…? その正体はこんな、弱っちそうな優男だと言うの…?」


「うん。サラッと今の俺を罵倒したね。それと今の俺はルーセットだから、改めてよろしく」


能天気に差し出されたルーセットの手を、フェーは思い切り叩いた。


「こここ、この詐欺師!? 私の憧れを、純情を返してよー! うわぁーん!」


怒りと恥辱と失恋で顔を真っ赤にして、号泣するフェー。


子供のようにボロボロと涙を流す姿に、流石のルーセットも言葉に詰まる。


飄々としているが、彼としても十年前の友人に出会って嬉しかったのだ。


その感動的な再会が色々な意味で台無しになり、困り顔を浮かべる。


まあ、元を辿れば全てルーセットが悪いのだが。


「アイツ、フェーじゃねえか! あの悪戯娘、悪質なことをしやがって!」


「だとしたら、その隣にいる奴は誰だ?」


「何か、フェーがフロドゥールって呼んでたみたいだけど」


「ってことはまさか、あっちが本物!?」


「でも、顔は全然違う」


がやがやと周囲が騒がしくなってきた。


この場で堂々と名乗りを上げてもいいのだが、二番煎じは面白くない。


どうするべきか、と天井を見上げたルーセットの視界に見慣れた男が映った。


「鎮まれ、皆の衆!」


王の宣告のような怒号が空から降ってきた。


騒いでいた吸血鬼達は口を閉じる。


その姿を視界に捕える前から、皆がその声の主を理解していた。


皆が天井を見上げると、そこには彼らの王が存在した。


「どいつもこいつも余の帰還に気付かなかったことは………まあ見逃しておこう」


少し不機嫌そうに、拗ねたようにコカドリーユは言った。


気にしていたのか、とルーセットが小さく呟いた。


「だが、そこにいる『蝙蝠』は余の客人である。無礼な真似をすれば、余の鉄槌が下ると知れ」


堂々とした態度でコカドリーユは地上のルーセットを指さした。


最大級の派閥を持つ純血。


その存在に客人として認められた者。


ルーセットは自分が派閥の深い所に組み込まれてしまったことを自覚した。

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