表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンストル  作者: 髪槍夜昼
権力と陰謀の純血
35/136

第三十五夜


「さあ、賭けた賭けた! ブルールージュ…勝つのはどっちだ!」


「血を混ぜた葡萄酒はどうだい? 吸血鬼でも酔える一級品だよ」


怒号のような声が響き渡り、多くの者が交差する。


ある者は決闘する二人を差してギャンブルを初め、


ある者は自慢の葡萄酒を披露している。


「そん時ほど笑ったことはなかった。吸血鬼相手に金で買収しようとしたんだぜ?」


「はは! 人間は本当に馬鹿だな、金を集めるだけで強くなったつもりでいやがる」


「まったくだ! がははは!」


グラスを傾けながら男達はそれぞれ自分の体験を語る。


人間の血を吸いに行った時の話。


人間の争いに巻き込まれた時の話。


吸血鬼同士でトラブルを起こした時の話。


他愛もない談笑を続けるのは、全て吸血鬼。


日光を遮断する窓のない建物の中、


立ち並ぶ店で各々吸血鬼達は楽しんでいる。


そこは吸血鬼の楽園だった。


「凄い…まるで人間の繁華街ですね」


人込みを眺めて感心したようにヴェガが言う。


これだけ多くの吸血鬼を見るのは初めての経験だった。


通常群れることを嫌う吸血鬼が一度集っている場など、ここ以外有り得ないだろう。


「酒場、賭博場、闘技場………十年で随分と栄えたな」


「当然だ。余の派閥は未だに増え続けているからな。新参者は、人間の娯楽をよく教えてくれる」


「なるほど」


純血を除く吸血鬼は全て元人間だ。


その人間上がりによって作られる以上、人間社会と似るのは必然。


所々に吸血鬼らしいアレンジは見えるが、人間社会に慣れたルーセットにも満足できそうだった。


「おい、そこの。余達にも酒をくれ」


「はいよー………って、ボス!?」


笑顔で酒瓶を準備していた吸血鬼が、相手の顔を見て固まった。


幽霊でも見たような反応に、コカドリーユは不機嫌そうに腕を組んだ。


「いつ戻ったんスか! と言うか今まで一体何を…」


「何を大袈裟なことを。この間、顔を出したばかりではないか」


「この間って………何年前の話ですか」


ため息をつく吸血鬼の姿に、コカドリーユは首を傾げた。


百年以上生きるコカドリーユにとって数年は最近のことなのか。


それともいつもの物忘れなのか。


「…ま、それはさておき。飲み物をくれ」


心底どうでも良さそうにコカドリーユは酒瓶を指差した。


それを見ていたルーセットも、一緒にため息をつきそうになった。


器がデカイと言うか、大雑把と言うか、


いや、この場合は大雑把過ぎる。


「了解ッスよ………そこのお二人は味の好みとかあるか?」


呆れながら血の葡萄酒を準備する吸血鬼がルーセット達へ目を向けた。


質問の意図が分からず、ヴェガは訝しげな顔をする。


対照的にルーセットは店主に愛想の良い笑みを浮かべた。


「この子は要らないって。俺は……そうだな、二十代前半の自尊心高い貞淑な女の血ってある?」


「注文多いなアンタ…まあ、あるけどよ」


要望通りの酒瓶を二人は受け取る。


ラベルも何もない黒一色の瓶だった。


珍しそうに眺めるルーセットを余所に、コカドリーユはすぐにそれを傾けていた。


「それとほれ、嬢ちゃんには普通の葡萄酒。あんまりキツくないやつだから」


「あ、ありがとう、ございます」


困惑した顔でヴェガはラベルの付いた瓶を受け取った。


吸血もしないが酒もあまり飲まない為、扱いに困っているようだった。


人間上がりを見下していながらも純粋な好意は無下に出来ない所が、ヴェガらしい。


「何だ何だ、優しいじゃないか店主。好みなの? ウチの子はあげないよー」


「違えよ。ボスの連れだから気を使っているだけだ。って言うか、お前ら何者なんだよ」


「ほほう。俺の名前を聞くか。いいぞ、聞いて驚け俺は………」


「『蝙蝠』が帰ってきたぞー!」


大袈裟な仕草で名乗ろうとしたルーセットの言葉が遮られた。


「フロドゥールだ! 純血殺しのフロドゥールが、俺達の派閥で帰ってきたぞ!」


広い建物内の隅々まで届くような怒号が響く。


その内容に人々も、声に注目していた。


騒がしかった声が消え、今度は皆が『蝙蝠』について口を開く。


「何故今頃になって蝙蝠が?」


「ルヴナンに殺されたんじゃなかったの?」


「まさか今度はボスを狙って…」


ざわめく声は止まらず、不安と疑心が広まっていく。


良くも悪くも有名過ぎる『蝙蝠』


それがコカドリーユの下に付く理由に、憶測と妄想が走る。


人々が緊張した顔をする中で、当の本人は間の抜けた顔をしていた。


「先を越された……と言うか、アイツ誰だ?」


酒瓶を片手にルーセットは人々の視線の先を見た。


最初に声を上げた男の隣。


そこに立派な髭を生やしたダンディな吸血鬼が立っていた。


貴族風の衣装を纏い、注目する人々に不敵な笑みを浮かべている。


「何言ってやがる。十年前と何も変わらない姿……間違いねぇ、アイツはフロドゥールだ!」


興奮するように叫ぶ店主に、ルーセットは自棄酒のように酒瓶を煽る。


確かにあの姿は、十年前のルーセットそのものだった。


『フロドゥール』と名乗っていた時代のルーセット。


侮られない為に歴戦の吸血鬼をイメージして変身していたのだが、今思えば多少の理想も含まれていたのかもしれない。


「どこの誰だか知らないけど、面白いな。いっそのこと俺が『蝙蝠』を引退しちゃおうかな」


「何を馬鹿なこと言っているんですか。それじゃ、あなたは誰なんですか」


「ただのルーセット。うん、良い響きだ。今日からはアイツが蝙蝠だ」


酔っているのか、いつもより緩い笑みを浮かべてルーセットは言う。


名前を騙られたことも、姿を真似られたことも、興味がなさそうだ。


「ねえ、ただのルーセット。さっきからコカドリーユがこっち見ているのですが」


「え?」


「もしかして、こっちのルーセットが偽者かも…とか思っているんじゃないですか?」


「………………………………」


コカドリーユは少し混乱した様子で『自称蝙蝠』とルーセットを見比べていた。


外見的には『自称蝙蝠』の姿は、コカドリーユの記憶の姿と瓜二つである。


現在のルーセットの姿は、十年前とは似ても似つかない優男だ。


「…仕方ないな。こんな下らないことで同盟破棄されても馬鹿らしい」


ルーセットは瓶の中身を飲み干して、不敵な笑みを浮かべた。


「さって、それじゃあ『第一回どっちが蝙蝠だ大会』…でも始めようか!」


楽しげに言うとルーセットは背から翼を生やし、注目の先へ飛び去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ