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モンストル  作者: 髪槍夜昼
権力と陰謀の純血
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第三十三夜


「この場所は本来、入ることが禁じられているのだが、今回は特別だ」


コカドリーユは銀の床を歩いていた。


その後ろにはルーセットとヴェガが続く。


自慢げなコカドリーユとは対照的に、二人の顔色はあまり良くなかった。


床のみならず、壁も扉すらも純銀製。


月の魔力で生きる吸血鬼にとって、この場所は地獄に等しかった。


「窓一つない。コレを作った奴は、相当な吸血鬼嫌いだな」


青い顔でルーセットは言った。


魔を拒絶する銀に囲まれた空間では、吸血鬼は魔力を使うことが出来なくなる。


月光が入り込む窓一つないこの監獄は、正しく吸血鬼を封じるに相応しい場所と言えるだろう。


「まあ、そう言うな。もう目的地に着いたぞ」


そう呟き、コカドリーユは一つの扉の前に立ち止まった。








ルヴナンが撤退した後、ルーセットは感謝の言葉を述べた後にコカドリーユに一つ頼み込んだ。


それは、以前プーペが言っていた怪物モンストルの存在。


コカドリーユは保持していると言う、不老不死の手掛かり。


内心半信半疑だったが、ずっと気になっていたのだ。


ルーセットの頼みを聞いたコカドリーユはあっさりと承諾した。


そうして現在、三人は怪物モンストルが保存されている『銀の檻』を歩いているのだ。


「この扉の向こうだ」


そう言うと、コカドリーユは銀製の扉を開いた。


「ここに封印されているってことは、そいつは純血なのか?」


ルヴナンの言っていたことを思い出しながら、ルーセットは言う。


ルヴナンはこの銀の檻は、純血を封印する場所だと言っていた。


故に、怪物モンストルとやらは封印された純血だと考えたのだ。


「そう。ここにいるのは『裏切りの純血』と呼ばれた史上最悪の純血………」


扉が完全に開き、その先がルーセットの目に入る。


予想よりも小さな部屋。


一つだけ置かれた椅子に座るように、それはいた。


「その『遺体』だ」


眠るように死に絶えた男が、そこに在った。


それは、大柄な逞しい肉体を持った男だった。


素肌の上から分厚い毛皮のマントを羽織った大男。


上半身は剥き出しで、狼の皮のベルト付きのズボンだけを履いている。


頭に被せられた狼骨の王冠は、蛮族のような野性的だ。


全体的に荒々しい印象を受ける男は、とても死んでいるようには見えなかった。


そもそも、


「死んでいるなら、どうして灰にならない?」


思わずルーセットは呟いた。


そう、吸血鬼の死体は腐ることはないが、灰に変わる。


陽光を浴びた吸血鬼と同様に、吸血鬼の葬儀は火葬と決まっている。


これが死んでいると言うなら、形が残っていることはおかしい。


「それがコレの怪物性の所以だ。コレは生きていた時代から十分化物だったが、死んでも尚消えることなく存在し続ける」


コカドリーユの言葉に僅かな恐怖が見えた。


傍若無人なコカドリーユでさえ、この存在を恐れているのだ。


「ルヴナンがお前に、禁忌を犯した者に執着する理由だ」


「同族殺し………共食いの禁忌」


「コレが生きていた時代は、多くの純血がコイツに喰われた。吸血鬼から見ても、更に異質な化物」


既に死に絶えた今になってもルヴナンやコカドリーユの心に残る恐怖。


かつて多くの純血を喰らった、吸血鬼の上位種。


隕石を操って見せた純血バケモノが、怪物モンストルと呼ぶ存在。


その怪物の名は…


「『ルーガルー』…それが、コイツの名前だ」








かつて、吸血鬼同士の長い戦いがあった。


吸血鬼の始祖となった四人以来、数が増え続けていた吸血鬼は二つに割れた。


その発端は、始祖の末裔である『純血』に対する眷属の反乱。


純血による支配から脱却しようと多くの人間上がりが団結した。


個々の実力では相手にならなかったが、人より成り上がった吸血鬼は数が多かった。


その結果、戦いは終わらず、無限の寿命を持つ吸血鬼同士の戦いは数百年続いた。


現在より二百年前、一人の純血が誕生する。


その純血は敵の吸血鬼を喰らうことで力を付け、純血の英雄と呼ばれる程に成長する。


しかし、成長し過ぎた力に飲み込まれた彼は正気を失い、やがて同胞の純血すら喰らう怪物に成り果てた。


怪物は多くを喰らった。


どんな純血も怪物から逃れられず、灰と成る前に生きたまま肉を喰われた。


手を足を胴を心臓を貪られ、最期には…


その魂すらも怪物に取り込まれた。


「ッ!」


月明かりすら差し込まない闇の中で、一人の老人が目を覚ました。


光のない部屋の中では顔を見ることが出来ないが、その額から滝のように汗をかいていることを自覚した。


荒い息を吐きながら老人は起き上がろうとして、すぐに動きを止めた。


老人には立ち上がる足がなかったのだ。


それどころか、胴から下が失われていた。


まるでリアルな胸像のように、老人には下半身が存在しない。


当然、老人とて生まれつき上半身しかなかった訳ではない。


胴から下を失ったのは、今から百年以上前。


『怪物』と戦った時だった。


「…ルーガルーッ」


今でも悪夢を見せる怪物の名を呼ぶ。


死後、百年経とうが恐怖は薄れない。


その事実が老人………ルヴナンを苛立たせる。


「………」


深く息を吐くとルヴナンは近くに用意してあった瓶を取った。


そのまま安酒でも煽るように荒々しく瓶を傾ける。


その中身は、人間の魂が溶け込んだ生き血だった。


霧の身体を持つルヴナンも吸血鬼である以上、定期的に血を摂取する必要がある。


信頼のおける部下に用意させた血を取り込む為、己の肉体に戻るのだ。


それが、魂だけで存在できるルヴナンが肉体を残している理由だった。


「………」


食事を終えたルヴナンは棺桶に横になり、目を閉じる。


静かに閉じられた棺桶の隙間からは、霧が立ち込めていた。

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